異能とは

 モンスとシルワ夫婦は、優しく穏やかな人柄から他の村人たちにも好かれており、そのお陰か、居候になったフェリクスが受け入れられるのにも時間はかからなかった。

 フェリクスは、老夫婦から、日々の労働や、人との付き合い方など、村での生活に必要なことを学んでいった。

 記憶は一向に戻る気配がなかったものの、フェリクスは、このままでもいいと思いつつあった。

 彼に対し、自分の子のように接してくれるモンスとシルワの傍は、それだけ居心地が良かった。

 そのような中、自分が思いの外、体力のあるほうだと気付いたフェリクスは、力仕事を進んで手伝うようになった。

 いつしか、彼は老夫婦のみではなく、近所の村人たちにも重宝されるようになった。

 男手の足りない家や、年寄りしかいない家で、薪割りや重い荷物を運ぶなどの仕事と引き換えに、お礼だと言って野菜や果物、菓子などを渡されると、フェリクスは胸の中が暖かくなるような不思議な感覚を覚えた。

 ある時、フェリクスは隣りの家の模様替えを手伝っていた。その家は、モンスとシルワの家と同じく、年寄りしかいない為、重い家具などを動かすのが難しかったのだ。

 大の男でも二人以上いなければ動かせない家具を軽々と運ぶフェリクスに、老婆が言った。

「あんた、『異能いのう』なんじゃないかね?」

「『異能』とは?」

「そんなことも知らないのかい?普通は、そこいらの子供だって知っていることだよ」

 老婆によれば、それは、はるか昔にさかのぼる話だという。

 ──遠い昔、天から光り輝くふねに乗って、幾人もの神々が降りてきた。

 ──神々は、この地を大層気に入って、森や海、大地に溶け込んでいった。

 ──その中には、人間とつがって、子を成す者もいた。

 ──神と人の間に生まれた子たちには、神の力を受け継ぐ者もいた。

「……それから、人間の中にも、時々強い力を持つ者が生まれるようになった、という話さ」

「しかし、それは『言い伝え』というものなのでは?」

 フェリクスの疑問に、老婆は笑って答えた。

「でも、『異能』が生まれてくるのは事実だからねぇ。普通の人間なんか比べものにならないほど力が強い者、素早く動ける者、そして、不思議な力を持つ者……」

「…………」

「でも、もし、あんたが『異能』だとするなら、気を付けなければいけないよ」

 老婆が、真顔になった。

「『異能』の者は、強い力を持つゆえに、他人を傷つけるような罪を犯したら、普通の人間よりも、ずっと厳しい罰を与えられるのさ。手足の腱を切って、一生満足に動けなくさせられるとか……国によって決まりは違うけどね」

「……分かった」

 フェリクスは頷きながら、自分が他人を傷つけるような場面があるのかと考えた。

 だが、この村で優しい人々に囲まれて過ごしている限り、そのようなことは起きないと思えた。

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