第5話 男の友情は容易く崩壊するものだ
(4)男の友情は容易く崩壊するものだ
家に帰ってきた武は、子供部屋で状況を整理することにした。本当は自分一人の部屋が欲しいのだが贅沢は言えない。当時の子供たちはみんな同じ部屋で勉強したり遊んだりしていた。
兄弟が帰ってくるまであと30分はある。武は兄弟が帰ってくるまでの間に今後の方針を考えることにした。兄弟が帰ってくると騒がしくて、考え事に集中できないからだ。
白い猫は放火犯を教えてくれても良さそうなものだが、どこかに行ってしまったから仕方がない。犯人は教えてくれなかったがヒントはくれた。何もないよりはマシだ。
白い猫は、放火犯は同級生の誰かだと言っていた。
ということは、武たちの友情はすでに崩壊している。
少年漫画では『男同士の友情』死ぬまで続くように描かれていたから、『男同士の友情』がこんなに容易く崩れさるものだとは思っていなかった。
『女同士の友情』は男が絡むと直ぐに崩れると聞いたことがあるが、男の友情も負けず劣らず脆いものだ。
愚痴っても仕方ないから、武は今回の件を整理することにした。
まず、放火犯は同級生の4人だと仮定して考えることにする。
犯人が同級生4人以外だったら、武に危険は及ばないだろう。
主税の家に放火したのだから、あの日みんなで家を出た後に誰かが主税の家に戻ったということだ。武と同じ方向に帰った同級生は容疑者から外れるのだが、残念ながら全員武と別の方向だった。容疑者は4人のままだ。
武は4人の名前と顔を思い浮かべた。
中村昭、井上聡、堤博、安部茂
まず、放火犯として一番怪しいのは昭だろう。なんせ強盗を火かき棒で殴り殺した張本人だから。昭が主税の家に戻って、主税を殺害して、家を放火する。
これだけの手順を小学生が一人でこなせるのだろうか?
小学生の体力には大きな差はない。
もし昭が武器を使わなかったとしたら、主税を殴り殺すのは難しいだろう。
小学生が殺害するには、凶器はマストだ。
凶器を使ったとしても、殺されそうになった主税は必死に抵抗するだろう。
昭が主税を一撃で殺害できなかったら、主税は家の中にある物を使って応戦したはずだ。
昭も無傷では済まない。
あの日、強盗の後頭部に火かき棒が刺さったのは運が良かっただけだ。
強盗を一撃で殺害できたから良かったものの、もし失敗していたら強盗の激しい抵抗に遭っていただろう。武たちも無事ではなかったはずだ。
そんな奇跡が1日に2回も起きない。
武は考えた末に、小学生が単独で主税を殺害するのは難しいという結論に達した。
昭が犯人かどうかは置いておいて、主税をどうやって殺害したんだろう?
犯人の候補として考えられるのは2だ。
候補1:同級生の誰かが大人に頼んで主税を殺害してもらった
候補2:同級生が複数人で主税を殺害した
武はそれぞれの候補について考えてみた。
【候補1について】
一対一で小学生が主税を殺害するのは無理だ。でも、大人だったら簡単に主税を殺害できる。武器を使ってもいいし、何なら素手で殴り殺すことも可能だろう。
犯人は大人というのは悪くない仮説だと武は思った。
でも、強盗が死んだのは事故だし、正当防衛だ。もし警察に知られても子供だから大した罪にはならない。それなのに分別のある大人が、小学生の依頼で主税を殺害するのだろうか?
大人が子供の依頼で殺人するケースは、親が子供のために殺害する、殺し屋が金で雇われて殺害する、この2つのどちらかだ。いずれにしても特殊なケースだ。
もし何らかの事情で大人が主税を殺害したとすると、次に武を狙ってくる可能性もありえる。はたして、大人の殺人者を相手にして逃げられるのだろうか?
難しいかもしれない・・・・
【候補2について】
白い猫は『同級生の一人が家に火を付けた』と言っていた。つまり、放火したのは一人。だけど、一人で主税を殺害したとは言ってない。
複数人で主税を殺害した後に同級生の一人が放火した場合、白い猫が言った『同級生の一人が家に火を付けた』と矛盾はない。
それに、小学生が一人で主税を殺害できなくても、2~3人いれば殺害できなくもない。
一人が羽交い絞めにしている間に、灯油を主税にかけて火を付ければ殺害できる。
または、一人が主税を油断させている間に、強盗が持ってきた包丁で主税を後ろから刺せばいい。
容疑者4人のうち50%以上が犯人。ひょっとすると武以外の4人全員が犯人かもしれない。
容疑者4人と会う場合は特に注意が必要だろう。容疑者4人全員が武を殺害しようと狙っている危険があるからだ。
武は犯人の候補について考えた結果、候補2の可能性が高いと思った。
ただ、候補1と候補2のどちらが正解だったとしても、犯人捜しは時間が掛かるし、相当の危険を伴うだろう。
もし次に武が狙われた場合、殺人を依頼された大人あるいは複数の小学生から逃げることは難しい、と認識しておく必要がある。
困ったな・・・
それにしても犯人を言わなかった猫が恨めしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます