第6話 生存戦略
(5)生存戦略
武は犯人を短期間で見つけるのは難しいことを悟った。
それにあと15分で兄弟が家に帰ってきてしまう。
武としては、時間切れで殺されることだけは避けたい。
限られた時間内で生存率を上げるためにはどうすればいいか?
誰が犯人かを捜すよりも、命を守る手段を確保する方が優先順位は高い、と武は考えた。
武は頭をフル回転させた。
自分の命を守る手段として、容疑者を殺すのはNGだ。
武装しても、大人や複数人に襲われれば殺害されるかもしれない。
武は一つの生存戦略を思い付いた。
そうだ!犯人に無害だと思わせることができれば、生存率は上がるはずだ。
“犯人に狙われないための行動とは?”
犯人は強盗を殺したことが警察に知られることを恐れているはずだ。そうでなければ、主税を殺害して、強盗の死体もろとも燃やしたりしない。
とすると、武のとるべき行動は、このセリフを容疑者4人に対して言うことだ。
“僕はあの日の出来事を警察に話さない!”
既に強盗の死体は燃えているから、殺害の証拠は全て消えている。
同級生5人のうちの誰かが警察にあの日の出来事を話さなければ、真実が明るみに出ることはない。
問題は、武が一方的に『警察には言わない』と言っても信憑性がないことだ。
信憑性を上げるためには、犯人が『武の言葉は信じるに値する』と判断できる材料が必要だ。
何が必要なのだろう?
一つの方法は犯人が武の弱みを握ることだ。
武が警察に言いたくても言えない状況を作れば、犯人は武のことを信じるだろう。
武は刑事ドラマで見た銀行強盗のシーンを思い浮かべた。
刑事ドラマでは、銀行強盗が人質を取って銀行に立てこもり、警察に『車を手配しろ』と要求していた。
このドラマにおける警察が武、銀行強盗は放火犯だ。
警察(武)が人質を取られていたら、銀行強盗(放火犯)に逆えない(逆らわない)ことをアピールできるだろう。
そうすると、犯人に人質を差し出せばいいのか・・・
何が人質として適当だろうか?
幼少期の徳川家康(幼名:竹千代)は織田家に人質に出されていた。
似たような状況を作り出せばいいはずだ。
そうすると、適当な人質とは家族だ。
家族を人質にする方法か・・・・
家中に爆弾を仕掛けて、起爆スイッチを犯人に渡す?
無理だ。武には爆弾を手に入れることが難しい。それに爆弾を遠隔操作できる起爆スイッチを作るだけの科学技術は無い。
武は別の方法を考えることにした。
姉と妹を容疑者と婚約させる?
政略結婚。これぞ戦国時代的な人質だ。
ただ、容疑者(男)4人に対して、武の家の女子は2人だ。女子の数が足りない。
それに、姉と妹が了承するかどうかも分からないし、容疑者にも断る権利があるだろう。
***
武は人質作戦が難しいことを悟った。
武が他の方法を考えていると、別のドラマで見た展開を思い出した。
敵のアジト(拠点)に忍び込んだスパイが敵に見つかった時に『私が死んだら、この手紙が警察に届くようになっている』と敵を脅すシーンだ。今回のヒントになるかもしれない。
容疑者4人を呼びつけて『もし僕が死んだら、あの出来事を書いた手紙が警察に送られるように手配している』と言ったらどうだろう?
容疑者4人は『お前がそんなことできるはずない!』と疑うだろう。
武には『あの出来事を書いた手紙』は用意できる。紙にボールペンで書けばいいだけだ。
問題は『武が死んだら手紙が警察に送られる』という停止条件をどう設定するかだ。
※停止条件とは、その条件に該当した場合に法律行為を生じさせる時の、その条件のことです。
もし両親に『僕が死んだらこの手紙を警察に送ってほしい』と頼んだら、武の両親はその日の夜にでも手紙を見るだろう。そんな意味深な手紙、気にならない親はいない。
学校の担任(吾妻)に『僕が死んだらこの手紙を警察に送ってほしい』と頼んでも同じだ。職員室に戻ったらすぐに手紙を確認するだろう。そして手紙を見た後、両親に連絡してくるはずだ。
郵便局の配達指定日に『僕の死んだ日』と書くのはどうだろう?
無理だ。きっと受託してくれない。
郵便局員は武の死亡確認を毎日しないといけなくなるから。
武は完全に行き詰まった。
人質作戦は不可能だし、停止条件付手紙の発送も難しい。
すなわち、犯人に『武の言葉は信じるに値する』と思わせることは無理そうだ。
うーん、何かいい方法はないか?
そして武は一つの結論にたどり着いた。
“そうだ、警察に相談しよう!”
白い猫もそう言っていたし・・・。
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