第9話 ほんわか・もふもふ! 雷獣ブラザーズ
「ははははは。青葉ってばついついお客さんの狐のお姉さんが気になったんだなぁ。ごんたくれだけど、可愛いやつめ」
「きゃーっ、おねえちゃんにつかまったー!」
京子にしがみつこうとしていた青葉は、すぐに六花の手によって引きはがされた。慣れているうえに鮮やかな六花の手つきを見ていると、京子は狐ながらも狐につままれたような気分になっていた。義姉の両手に捕まったイタチの子は、声を上げながら手をばたつかせているが、むしろ捕まった事自体にも喜んでふざけているようだった。
「おねえちゃん、ぼくもだっこ……」
「よしよし。野分も抱っこしてやるからな。姉ちゃんが帰ってくるまで、青葉と一緒に良い子にしてたんだろう。ほら、良い子だ良い子」
野分は上目遣い気味に呟きつつも、ちゃっかり六花の足によじ登っている。細長い二本の尻尾をも総動員しつつ、六花は野分も抱え上げた。気付けば野分と青葉の双子を、ともに並ぶように両腕で抱えていた。まだ三和土に佇立し、鞄も肩から提げた状態だというのに。
そして幼い双子の弟妹も、互いにくっつく形で抱っこされながらも大人しくじっとしている。面倒見のいい義姉に、こうして抱っこされることに慣れているかのように。
やはり梅園さんはお姉さんなんだな。雷獣の兄弟たちの触れ合いを見ながら、京子はぼんやりと思っていた。すると、それまで弟妹達に注意を払っていた六花が、京子の方に視線を向けた。
「ああ、宮坂さん。ぼうっとしてるけれど、もしかして驚いたとか?」
これが、アタシらきょうだいの日常なんだ。未だぼんやりとする京子に対して六花は言った。幼い双子を両手で抱えたままで。
「野分も青葉もお姉ちゃんが大好きだから、アタシが帰って来ると、すぐに飛びついてくるんだよ。もちろん、アタシも弟妹達の事は大好きだし、着替えが終わったら一杯遊ぶんだけどな!」
そこまで言うと、六花は小首を傾げつつ言い足した。
「もしかして、宮坂さんはちっさい子とか苦手なのかい?」
「苦手かどうかは……解らないんだ」
京子の返答は曖昧な物だった。しかし、嘘は言わずに角も立てないようにと気を配った結果がこの言葉なのだから致し方が無い。幼子が苦手ではないと言えば嘘になる気がしたし、さりとて幼子が苦手だと言ってしまえば、六花が機嫌を損ねかねない。
「僕は末っ子で、しかも兄たちとは歳が離れているからね。その上いとこたちも僕よりうんと年上だし、甥っ子とか姪っ子もまだいないから……」
「ははは、宮坂さんは根っからの末っ子気質なんだな。そんな感じはしていたけれど」
まぁね。六花のあけすけな言葉に対し、京子も素直に頷いていた。六花は思った事を口にしがちであるが、嫌味や毒舌を口にするタイプではない。それに京子とて、自分が末っ子気質である事はよく解っていた。いずれは甥や姪が誕生し、姉っぽく振舞わねばならない日が来るだろう。両親の年齢からして、弟妹が新たに生まれる事は流石にないだろうが。
気が付けば、六花は抱っこしていた双子を管狐の女性や獣妖怪の青年に手渡していた。動物の赤ん坊のような姿だった二人は、大人妖怪の腕の中で、人型に変化していた。と言っても子供である事には変わりはなく、人間で言えば二、三歳ほどの幼子の姿だった。
「とりあえず、宮坂さんはアタシの部屋に案内するよ」
六花はそう言うと、京子の肩に手を添えた。六花の手の平の熱さは、夏服のカッターシャツ越しに伝わって来る。
「アタシにしても宮坂さんにしても、ずっと制服姿って訳にはいかないだろう。宮坂さんもお泊りセットを一式用意してるみたいだし、アタシの部屋で私服に着替えようや」
着替え、という言葉に京子は少し顔を赤らめてしまったが、六花は気にせずに彼女の手を引く。
「それじゃあ春兄にサキ姉。アタシらは着替えたらまたリビングに戻って来るからさ。その時に、宮坂さんの歓迎会でも始めようか!」
「ちょっと待って梅園さん。そんな、歓迎会だなんて大げさだよ……」
「ええやん宮坂さん。大げさに思ってるのは宮坂さんだけなんだからさぁ。ああでも、あんまり派手なのが苦手なら、控えめにしておくからさ」
結局歓迎会とやらをやる事は、六花の中では決まっている事なのだろう。京子は少し戸惑いつつも、その件については深く追求しなかった。雷獣というのは派手好きで遊び好きな種族であるというのを、最近叔父や叔母に聞かされて知った所でもあったからだ。
それに六花の言うように、ずっとこのままでいる訳でもない。京子はだから、六花に促され導かれるままに、彼女の部屋に向かう事にした。
実のところ、京子は六花の私室がどんな部屋なのか、気になり始めてもいたのだ。対外的には闊達なスケバンとして振舞っているが、六花は実は良家の令嬢でもあるという。そんな彼女が過ごす部屋がどんなものなのか。それが気になるのはごく自然な事であろう。
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