第7話 そして放課後の話

 京子は今晩六花の家に泊まる。その事については、もうとんとん拍子に決まってしまった。もちろん、京子と六花の二人だけで話し合って決めただけではない。それぞれの保護者にも、きちんとそれぞれ許可を取ったのだ。

 六花の保護者たちは言うまでもなく、京子の母もまた、驚くほどすんなりと京子の外泊を認めてくれた。それはきっと、京子が「梅園さんは資産家のお嬢様なんだ」と、事実の一部だけを伝え、スケバンであるという部分を伏せたからなのかもしれない。

 いずれにせよ、不安な夜を一人で、あるいは玉緒と共に過ごさずに済んだのだ。


 夕刻。宮坂京子はあやかし学園の通用門の一つで、六花がやって来るのを待っていた。通用門と言っても学園の敷地の外に位置する場所であり、手に提げている鞄は日頃通学に使っている物ではない。それもそのはずで、京子は一度帰宅していたためだ。学生鞄とその中に入っていた教科書類(京子はそれほど置き勉をする手合いではなかった)を部屋に置き、私服やちょっとした日用品を鞄に詰め込み、こうしてあやかし学園の門扉に戻ってきたのである。

 と言っても、京子は実は自分で衣服や日用品を用意した訳でもない。部屋に戻ってみれば、それらの一式が用意されていたのだ。母がわざわざ準備してくれたのは、書置きを確認せずとも明らかだった。何のかんの言いつつも、母親は娘の事を色々と考えてくれていたのである。と言っても、洋服は明らかに女物ではあったけれど。

 ともあれ、そんな事もあって、京子はつつがなくお泊りの準備が出来たのである。


 さて門扉の前に留まる事二十分あまり。部活を終えた六花がこちらに向かってくるのを京子は目ざとく発見した。園芸部での活動に勤しんでいたためか、普段のセーラー服姿ではなく体操服姿である。

 六花もすぐに京子の姿に気付いたらしい。大股に闊歩していた彼女は、その歩みの豪快さそのままに、手をあげて笑いかけてくれた。


「おーう、宮坂さんじゃないか。ちょっとぶりだな」


 こちらこそ、と京子も控えめに手をあげて応じる。塩原玉緒は青年の姿で二人の様子をニコニコしながら見つめているだけだった。

 六花はしばし笑みを浮かべていたが、京子の様子を頭から爪先まで眺めると、にわかに鋭い表情を浮かべて呟いた。


「な、宮坂さん。もしかして、放課後からアタシがここに来るまで、ここでずっと待ってたわけじゃあないよな?」

「そんな事ないよ」


 京子は苦笑いしながら首を振る。


「待ってたって言っても、せいぜい二十分くらいかな。今日は部活は無かったけれど、図書室で時間を潰したり、一旦家に戻って荷物を取りに行ったりしないといけなかったからね」

「そっか……それなら別に良いんだけどさ」


 六花はもしかしたら、京子が無為に時間を潰していたであろう事を心配していたのかもしれない。六花は存外姐御肌な所を持ち合わせているのだから、クラスメートや中等部の後輩たちの事も色々と気を配っている節が見え隠れしていた。編入生でありながらも、学園にすんなりと馴染めたのも、そうした彼女の気質によるものなのだろう。


「それじゃあ、一緒にアタシの家に向かおうか。宮坂さんも、流石にアタシが何処に住んでいるかまでは知らないだろうしさ」


 六花の言葉に京子は素直に頷いた。学園の近くに彼女の家がある事は知っていたが、住所やどの辺に暮らしているかと言った細々とした事までは流石に知らない。


「梅園さんとは大分仲良くなったけれど、梅園さんのおうちにお邪魔するのは初めてだから、ちょっと緊張してるかな」

「なーに。宮坂さんは緊張しなくても大丈夫さ。宮坂さんはお行儀が良いんだからさ」


 そんな風に、ちょっとした雑談を交えながら、京子と六花は帰路を辿り始めたのだった。

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