第13話 幕間:退魔師たち、スタンバる
悪妖怪。それはこの世界では悪人とほぼ同じ意味の言葉である。悪人は悪事を働く人間であるが、悪妖怪は悪事を働く妖怪という事だ。種族は異なれど、法や道理にもとる悪事に手を染めている事には変わりはない。
人間の犯罪者同様、妖怪たちが行う悪事も千差万別だ。保護者や年長者の叱責で終わるような他愛のない物もあれば、種族を問わずに震え上がるような悪事まであるのだ。
重篤な犯罪、凶悪な犯罪の場合を行った悪妖怪は、やはり追跡され、捕縛され、法の下に裁かれる運命にあった。妖怪警察や退魔師などが、こうした悪妖怪たちを取り締まってくれるのだ。だからこそ、人妖入り乱れるこの社会で、弱い妖怪や人間、更には両者の血を引く半妖が平和に暮らせると言っても良いだろう。
この度、キョートには悪妖怪の集団が跋扈しているという報せが密かに入っていた。銀色の鵺女を頭に、様々な種族(その中には人間もいた)が入り乱れた血の気の多い犯罪グループである。
既に車上荒らしや空き巣などと言った被害も報告されている。のみならず、押し込み強盗めいた事を行ってもいるのだとか。
現時点では被害は金品のみであるが、相手は家人がいても盗みを働き恐喝まで行う手合いなのだ。深刻な被害が出るのは目に見えていた。
だからこそ、キョートの妖怪警察、並びに退魔師たちは集結し、この悪妖怪の捕縛をすべく準備を進めていたのだ。
※
退魔師たちが集まる詰所の一角。二十代前半の新米退魔師の二人組が、何となく並んでベンチに腰かけていた。一方は何処となくお坊ちゃまめいた雰囲気を漂わせる青年であり、他方は大人しそうであるが芯の強そうな女性である。
二人は、青年が手にしている新聞に視線を落としていた。市内とその周辺にて販売している地方紙である。そこには、指名手配中の鵺女の事が記されていた。女性がこの新聞を購入し、記事に目を通していたのだ。
新聞と女性の顔を見ていた青年が、視線を上げて口を開いた。
「なぁ賀茂さん。俺たちはこの鵺女を追っているけどさ、何でキョート以外の場所では報道されていないんだ? こんな半グレ集団みたいな犯罪者連中が捕まらないとなれば、地方紙だけでちんまりと報道されるって不自然な気がするんだけど」
それはね……賀茂と呼ばれた女性は、新聞を折りたたみつつ言葉を紡いだ。
「師匠の宮坂さんや先輩たちの話によるとね、彼女たちは呪われてしまっていて、それでキョートから抜け出す事が出来ないんですって」
「呪われていてキョートから出れない? それってどういう事?」
賀茂の説明に、青年は不思議そうに首を傾げた。確かにこの世界には妖怪たちがすぐ傍にいて(現に詰所には妖狐や狗賓天狗の妖怪警察や退魔師も控えている)、従って科学では未だ解明されていない謎エネルギーなどもナチュラルに存在している。もちろん呪いだとか、霊的なパワーによるあれこれも存在してはいる。
だがここで呪いが出てくるとは、流石の青年も思ってはいなかった。しかも呪いのせいでキョートから出られないとはどういうことなのか。
なんだかんだで陰陽師の子孫だった賀茂とは異なり、青年はこっち方面の業界には疎かった。だから戸惑うのも致し方ない事……なのかもしれない。
その事は賀茂も解っていた。だから頷きながら言葉を続けたのだ。
「ほら、あいつらって空き巣とか車上荒らしとか何やかんややって、色々な物を盗んでいたでしょ。その中にね、念の籠った魔道具みたいなものもあったそうなの。でも、無理くり
倉持君。この事件がまだ地方紙どまりなのは、そう言う理由だからなのかもしれないって思うのよ」
「それにしても盗んだ魔道具に呪われるなんて……犯行グループも間抜け揃いなんですかね」
「何を言っとるかぁ、新人!」
笑い交じりの倉持青年の声はやけによく通った。聴覚の鋭い妖狐の男に聞き取られてしまい、一喝されたのだった。すみません。首を縮めながら謝罪する倉持に対し、賀茂も小声で言い足した。
「そうは言っても厄介な事には変わりないわよ。首謀者は鵺の女性で……変化術も心得ているし私たちの認識をあやふやにする術すらもマスターしているそうなのよ」
そいつは物騒だな。倉持は心の中でそう思っているのだろう。彼の顔をぼんやりと眺めながら賀茂は思っていた。
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