第2話 妖怪娘、校外学習について語る
「校外学習か。そう言えば、そんな話もあったなぁ」
宮坂京子の言葉に、六花はフワッとした口調で応じていた。よくよく思い出せば、そんな話が担任や副担任から行われていたような気もする。
「クラスメイト達の親睦を深めるためにって言う名目で校外学習は毎年やっているんだよ。と言っても、うちは中等部から入る生徒がほとんどだから、高等部に上がるころには見知らぬヒトばかりって事も無いんだろうけれど」
宮坂さんってこんな話し方もできるのか。口には出さぬままに六花はそんな事を思っていた。京子は風紀委員を勤めあげ、万事真面目に学校生活を送っているのだと六花は思っていた。しかし校外学習の説明については、その企画主を少し小馬鹿にしたような雰囲気が漂っていたのだ。もっとも、それは京子自身が意識した物なのかは定かではないが。
行先はキョートかナラのどちらかなのだと京子は付け足して説明してくれた。年ごとに交代になっており、今年はキョートなのだとか。
「キョートにしろナラにしろお寺とか神社とかが多いからね。そう言う所を生徒たちに見て貰って、それで信心深くというか……お行儀良くなって欲しいって考えているんじゃないかな」
「キョートかぁ。そりゃあ楽しみだな」
校外学習の行き先を知り、六花はにんまりと微笑んだ。中学校までの校外学習と言えば、近場の公園でお茶を濁すようなものだったから、思いがけず遠出するという事を知り嬉しくなったのだ。
ちなみに校外学習といったイベントはもっと早い段階に何がしかの連絡があっただろうというツッコミは申し訳ないが控えて欲しい。六花は編入生で学園そのものに馴染む事に心を砕いていたし、決闘という超絶大イベントをこなした後であるから、その事について失念していただけかもしれないのだから。
それはそうと、キョートで寺社を巡るという所に六花は心を惹かれていた。
「あらかじめ言っておくけれど、アタシはこう見えて信心深いんだ。まぁこれは位の高い雷獣たちに共通する特徴でもあるんだけど……ともかく、アタシも叔父貴も道真公に対しては、折々の節目でのお参りは欠かさないしね」
妖怪たちの中でも神社仏閣を尊ぶ者は珍しくないが、雷獣はその中でも別格であろう。六花はそのように思っていた。その日暮らしの野良雷獣は別として、雷獣たちは概ね好みの雷神を信仰するのが常だった。
でも変だなぁ……まだ先の校外学習の事をあれこれ考えていた六花であるが、ある事に気付いて首を傾げた。
「校外学習とかさ、その手のイベントがあったら、先生も前もってHRとかで連絡してくれると思ってたんだけど……なぁ宮坂さん。そんな話ってあった?」
六花が疑問をぶつけると、京子は何故か照れたような笑みを浮かべた。頬が火照ったように赤味を増しているではないか。
「もちろん、本当は先生たちがその話もするはずだったんだ。班分けとかもあるからね。だけど先週は僕たちも決闘しちゃったでしょ。それで先生もクラスメイト達もその事を忘れちゃっただけなんだ」
「あっそうか。それだったらしゃあないか」
恥じらうような京子の言葉に六花も納得の声を漏らした。後で知ったのだが、決闘するにあたって教師たちもあれやこれやと準備を行っていたらしい。その後も、もちろん六花や京子の両名に何か体調不良や不具合が起きないか、注意深く様子を観察していたそうであるし。
そんな事ならば、校外学習の件について忘れるのも致し方なかろう。六花はそのように思っていた。話を聞くだに、校外学習の方は大体どんなものであるか決まっているようだし。
そんな事であるが、校外学習については今後のHRにて班分けを行ったり段取りの話が行われたりするのだろう。であればその流れに乗ればいいだけだ。京子の話を聞いた六花は、ぼんやりとそう思っていた。
そうしているうちに、二人は徐々に学園に近付いていた。壮麗な学園の姿が見えるころには、既に学園に向かう生徒たちの姿もそこここで見受けられた。
「あ、宮坂君だ!」
「宮坂先輩、おはようございまーす」
「あれ、隣にいるのって……」
「梅園さんじゃんか。うわめっちゃ美人だし!」
京子の姿を目撃した生徒たちの中から歓声とも嘆息ともつかぬ声がチラホラと上がる。その声の中には、六花についてあれこれ語る声もあるにはあった。
「みんな、おはよう。元気そうで何よりだよ」
そんな生徒たち――学年も性別も、或いは高等部か中等部かもてんでバラバラだった――に対して、慣れた様子で京子は挨拶を返していた。
六花自身は大勢の若妖怪に囲まれても特段気後れする性質ではない。しかしそれでも、宮坂京子の堂々とした立ち振る舞いには素直に感嘆していた。初めは妙に気取っただけのお嬢様だと思っていたのだが、最近はその考えを改めている。気取った態度を取っているように見えるが、肝の据わった一面もあるのだ、と。
ちなみに先の決闘で敗北してしまった京子であるが、しかしだからと言って彼女の評判が落ちる事も無かった。それもこれも、彼女の日頃の行いによるものなのかもしれない。
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