筆跡代行

 あまり知られていないが、白変種は異常な正確性を有している。


 とくにという作業においては人のそれを遥かに凌駕する。

 

 そこら辺の本を投射させれば、恰も文章作成機の如く明朝体を再現する。

 

 また、文字列に一切の乱れはなく本物と見分けるのは不可能に相違ない。

 だが、より注目すべきはする所である。

 筆跡鑑定人すら騙す――正確さ、再現力には脱帽。五年前、主人を失った白変種を安値で貰い受けたのは正解だった。

 

 それは兎も角、私は莫大な富を得た。

 

 模倣筆跡代行。


 依頼を受け取り、指定された者の筆跡で――反逆の文、違法の文を作成する。そして上手く表に出す事で――その者の立場を破壊する。

 独房に永住。嗚呼、最悪極刑である。

 憐れだが、私は依頼を全うした――だけなので自責も後悔も感じない。依頼する者が悪で恣意的で残忍酷薄な屑なのだ。

 

 まぁそれは兎も角、とうとう白変種が動かなくなった。


 神父様神父様と、口だけは動いている。

 

 もう使い物にならない。

 

 これは処分して新たな物を買うとする。

 阿漕千万な金額だった。

 が、質の良い白変種を揃えた。期限もあるので早速仕事に…文字が書けないだと!?

 

 私は愚かだった。

 大きな勘違いをしていた。


 白変種に読み書きを教える奴が――

 ――この世に何人いる?

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