門番日記

 雇い主が白変種を買って来た。


 どうやら廉価だったらしく上機嫌だ。鼻歌混じりで私に近寄って来る。

 いつもと変わらない手つきで鉄扉を開閉するも、雇い主は立ち止まって――


「どうかな、この白変種」


私は少し気怠そうに、白変種を見た。そして誇大気味おおげさに反応した。

 すると雇い主は、この上なく愉快と言った感じで――


「きっと、お前にも購入の機会はあるさ。頑張りたまえ」


 雇い主の安全を確認し、私は鉄扉を徐徐しずかに閉じる。そして再び鉄扉の前に立つ。私は門番であり護衛なのだ。

 

 半日経って鉄扉が叩かれた。加えて掃除の依頼も承った。


 鉄の扉を越えると相変わらず、惨い。

 もう慣れきってしまった様々な臭いが、鼻につく。


 よほど気に入られたのだな。そんな事を思いながら白変種に近寄る。

 遠目で解っていたが五体が三体に。憐れ。とりあえず亡骸を持ち上げた。


 と思ったのも豈図あにはからんや。


「いや嫌ぁ」


 白変種は生きていた。

 意外ではあったが吃驚びっくりした訳ではないので『それ』を隅っこに移動させた。

 せめてもの慈悲と言うか。まあ使用不可能な毛布とか羊毛で簡易な寝台を作り、寝かせてやった。尤も目は合わせなかった。


 どんな表情をしているか――なんて知りたくない。頼むから早く逝ってくれ。


「どうして」


 手を止めるな。幻聴だ。


「助けてくれないの?」


 何も聴こえない。


「あなたも人殺し」


 思わず見てしまった。

 

 だが目は合わなかった。ないのだ、何も。でも光の加減で胡桃くるみに。

 久々に吐いた。最悪だ。あいつ眼球に…。


 右目は中で潰れている。

 左目は恐らく抉り取っている。可哀想に。


 安楽は無理だが寸時害してやる。


 「ありがとう」


 努々そう言ってくれた気がした。

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