研究者


 それは人間の形を模してはいるが、人でなく動物でなく生物でなく――生き物でない。

 

 では、なんと呼称すべきか。

 

 沈思凝想の末、月魄人げっぱくじんという名に落ちついた。月のような不気味な肌から着想を得た。流れで容姿について記す。

 

 純白の髪。漆黒の瞳。白皙はくせきの肌。

 

 白く、清く。

 

 すぐれて美しい。背徳すら理性になる秀美。加えて食事や排泄をしないので二酸化珪素を思わせるたっとさがある。

 

 また、どの月魄人にも生殖能力がない。

 

 それ故も同様であり、仮に月魄人が人間らしい反応を見せたとしても――それは感情的誤謬かんじょうてきごびゅうである。

 

 感受性豊かな人は往々勘違いし、月魄人に人権を――などと抗議すると思うが、全くもって愚劣極まりないので気をつけるように。

 

 ところで本邦の憲法に『いかなる理由があろうとも人命の売買もしくは人命の財産的交換を絶対に禁ずる』とある。

 

 今まではこの法に商売人は眉を顰めていたに相違ない。だが、これからは生命を持たない商売人を救う。

 

 しかも実に人間に酷似した性質に、買い手は必ず満足する。尤も、月魄人の行動期間は最長で十七年ほど。

 

 換言し言うのなら短命である。

 

 故に最初は高価になろうが月日経て安価にもなろう。最後にもう一度断っておく。

 

 月魄人は人形や剥製と同じである。

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