月魄人

たらず様

発見者

 白い、とにかく白い。

 死する玉響このまに、あの髪に触りたい。

 ――眩しい。


「おはよう。気分はいかが」

「あんたは」

詩歌音曲差異しかおんぎょくさいだよ」


 なんだこの医者じいさん。


「いや。誰って意味」

「見て解らないの、立派な立派な子供だよ」


 老人ではない――ああ確かに子供だ。しかし眩暈めくるめくほど日差しが強い。日差し?

 

 あれ、電球ではなかったか。

 そもそも天井がない。否、なくなった。


「い痛ぁ」


 酷く、非道な痛み。我慢なんぞ出来ない。


「ところで君、なにか見たかい」

「それより苦痛を取ってくれ」

「貴方は健康そのものですよ」


 本当だ。どうしてはは、机なんぞに寝っ転がっている。

 なにか――


「見た…気がする」

はなにを見たっけ」


 オレが。そう俺が見たのだ。


「白い頭髪。降る雪よりも白かった」

「純粋な白だった」

「まさしく」


 純白だ。

 でも瞳は恐ろしく暗い。恰も、底なしの藪を除いたかのよう。

 だがその真逆の性質に――


「甚だ奇怪な魅力を感じる」

「そりゃどうも」

「へ」


 まさか!?


 いや違う。この腹立たしい声は、記憶にこびりつく――この声は。

 俺を裏切った外道畜生あいつの悪声。


「嫌な事を思い出しちまった」

「ああ。最悪だな」

「人生も」

「腕も」

「もう取り戻せねぇ」

「けど幸いにも生きてる」

「だが終わりだ」

「まだ間に合うさ」


 早く起きなければ。止血しなければ。

 ――白い。手は、動く。この感触は。


 例がない程に美しい。

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