第9話『みなみ大尉の家』

パペッティア    


009『みなみ大尉の家』夏子 





 みなみ大尉の家はカルデラの北側にある。


 

 カルデラっていうのは、ファーストアクトでヨミのミサイルが命中して出来た巨大クレーター。


 ミサイルの弾頭には広島型原爆の何十倍とかいうアクイが籠められている。


 アクイというのは悪意からきてるんだけど、現時点では解析不能なヨミのエネルギーのことで、日本の学者が「悪意としか言いようがない」と評したことでアクイという表現が定着したんだって。


 破壊力はすごいんだけど、核兵器のように放射能とかは無いから、気持ちさえ折れなければ回復はできる。


 同じところに墜ちる可能性は低いだろうということで、その巨大クレーター中を特務のベースが作られた。


 クレーターの縁には高さ100メートルのカルデラの壁が出来た。真上から落ちてくるミサイルや航空攻撃には意味のない壁なんだけど、カルデラの外からの爆風や衝撃を防ぐには有効。それに警備やベースの秘匿性を確保するのにも好都合なので、ここに日本最大の対ヨミ戦のベースが作られた。


 一般人の居住は許されてないけど、直径3キロのカルデラはベースの施設を作っても地面としては余りまくり。


 そこで、幹部や軍属は家を建てて住むことを許可されている。


 人気は日当たりの順、北⇒西⇒東⇒南 という感じ。


 


 みなみ大尉の家は、通称北区のさらに北。カルデラの壁がすぐ後ろに迫っている棚のようなところに建っている。




「ここよ」


「え?」


 みなみ大尉の示したのは、どこかデジャヴな平屋建てで、表札が『磯野・フグ田』になっている。


「あ、また剝がれてる」


 門柱の下にハガキ大の段ボールが落ちていて、その裏に『高山』とマジックで書かれている。


「この家って……ひょっとして『サザエさん』の家?」


「あはは、設計とかめんどくさくってさ、サンプルのデータそのまま打ち込んじゃった。のび太君の家でもよかったんだけど、どうせなら平屋の方がいいかなって(^_^;)」


 ああ……3Dプリンターで作ったんだ。


「でも、表札くらい」


「うん、あとで好きに貼ったらいいからね」


 いや、そういう問題じゃ……


「あ、それから!」


「あ、何ですか?」


「基地に居る時は仕方ないけど、家に帰って『みなみ大尉』は禁止だぞ」


「え、あ、言ってないと思いますけど(^o^;)」


「顔に書いてある、みなみ大尉って言ってる顔だぞ」


「アハハ、気を付けます」


「うん、素直でよろしい」




 そして、家に入ってビックリした……。




 サザエさん仕様だから、普通の言い方をすると4LDKで、二人で暮らすには十分な広さと間数。


 それが、いったい何人で暮らしてるんだ!?


 というぐらいに散らかっている!


「どの部屋にもお布団があるんですけど? っていうか、五六人が住んでますよね、この家?」


「あ、いや……」


「ワ、めちゃくちゃ洗い物溜まって、ハエとか飛んでるし!」


「まかせといて!」


 プシュー! プシュプシュー! プシュー!


 ガスコンロの横の殺虫剤を掴んだかと思うと、的確にハエの鼻先10センチで噴霧、瞬くうちに8匹のハエを撃ち落とした。


「さっすがー! と言ってあげたいとこですけど、なんでキッチンでハエが湧いてるんですか!?」


「ああ、ついめんどくさくて……」


「それに、ガスコンロの横に殺虫スプレーって危なくないですか!?」


「いざとなったら、火炎放射器になるし」


「他の人は、なにも言わないんですか(-_-;)?」


「え、あ、だって、一人住まいだし」


「そんなわけないでしょ。シンクや食卓に食器いっぱいだし、どの部屋もお布団敷きっぱなしだし、少なくとも四人は住んでますよ」


「あ……いや、それはだね。わたしは特務でも重要な任務に就いてるから、いつ命を狙われるか分からないから。ね、日によって寝る部屋を変えてるんだよ。アーハッハッハ、優秀な特務隊員は辛いねえ」


「一人で、これだけ散らかしてるんですか!?」


「ウ……いや、だからあ」


「ま、まさか、これ片づけさせるために、わたしをここに住まわせるんですか!?」


「いやいや、ここ一週間帰れてなかったから忘れてた(^_^;)、っていうか、ま、とりあえずナッツが住む部屋だけでも片づけよう! どの部屋にする?」


「……うう」


 十秒悩んで、子ども部屋にした。


 理由は簡単、四畳半でいちばん狭くて片づける面積が小さい。


 それから、トイレとお風呂の掃除と、そこへ行く廊下というか動線を確保。


 台所は、シンクに溜まった食器だけ洗う(ハエが湧くから)。


 わたしもみなみさんも、それ以上の気力が無くって、カルデラの外の中華屋さんで夕食。


「ごめんね、ナッツ。今夜も泊りなの。家もあんなだし、徳川曹長に頼んで家事ロボット貸してもらうわ。ほんとは左官以上でないと貸してもらえないんだけどね、まあ、いちおう大尉だしぃ、前借的に頼んでみる」


「そんな融通きくんですか?」


「大丈夫よ! 司令のお嬢さん預かってるんだしぃ(^▽^)/」


「わたしをダシにしないでください」


「まあ、ドンと任せておきなさい!」


 ドン!


 胸を叩くと、とても充実した音がした。


 どっちかっていうと小柄なみなみさんだけど、けっこう質量はありそう。


「あ、見かけよりも重そうとか思ったでしょ!」


「あ、いえ、違います( >△<)」


 雑なようで、微妙に勘は鋭い。




 カルデラに戻ったところでみなみさんは基地に戻って、わたしは、ザっとお風呂に入って一部屋だけ片づけた四畳半で寝た。


 えと……明日はどうしたらいいんだろう?




☆彡 主な登場人物


舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。

舵  晋三       夏子の兄

舵  研一       特務旅団司令  夏子と晋三の父

井上 幸子       夏子のバイトともだち

高安みなみ       特務旅団大尉

徳川曹長        主計科の下士官





 

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パペッティア 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

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