第3話 ②安全な場所


「実の母親より友情...か。まあ、そちらの方が私には共感しやすいが」



ルシファーにとって、天使を創り出した女神クレエを母と呼ぶなら、反逆を起こした彼に『親』への愛情は無い。


今、目の前にいるネージュは、自分と同じように『親』と別の道を歩もうとしている...ルシファーは少し親近感を覚えた。



「お前が母親に反抗して家出するつもりなのはわかった。が、マリアは関係ないだろう。


彼女は私が守る。お前は安心して逃げるがいい」



リュヌが何を企んでいるのか、全く事情がわかっていないマリアは、話についていけない。


だが知らない男と結婚するよりかは、昔から知っている幼馴染と、一刻も早くこの場から逃げ出したかった。



「ど、どうしてもすぐに結婚しなくてはダメ? 私、あなたのことよく知らないし」



マリアはルシファーを刺激しないようにと、言葉を選んだ。


拒絶しているわけではない、時間が欲しいと言って、なんとか彼から逃れたかった。



「一緒にいれば私のことを知れるだろう。万魔殿へ行こう」



ルシファーはなんとしてでも自分の城にマリアを持ち帰りたいようだ。



「これから地上は戦場となるのだ。万魔殿にいた方が安全だ」


「戦場?!」


「そうだ。恐らく...ヴォルフィード以外の国は滅びるな。


女神クレエが救いでもしない限り...」



ルシファーとは一緒に行けない...マリアは、より思った。


他の国を助けなくては。



「マリア。君に何が出来る? 君に戦争を止める力は無い」



マリアの心を読んだのか、ルシファーはハッキリとそう言った。


確かに、そうかもしれない。


戦う力があるわけでもない。


それなら安全な場所にいた方がいい。


だが、この男は信頼出来るのか?


父を、ウェインライト人を殺したこの男と共にいていいのか?



マリアは突然クローゼットに向かって走り出した。


奥から何かを取り出す。


それは青い大きな布だった。


マントのようだ。


マリアはそれを体に巻き付けた。



「こ、これはミカエル様のマントよ!」



ただの布にしか見えないが、まるでそれが自分を守る盾かのように、マリアは声を大きくして言った。



「お父様が言っていたの! 私は本当の娘じゃないって...ミカエル様が城にやって来て、まだ赤ちゃんだった私を預けたって。


このマントと一緒に預けたのよ!」



ネージュはマリアと長い仲だが、その話は初めて聞いた。


ルシファーの顔が怒りで真っ赤になる。


あんなに余裕のある表情をしていたのに。


ミカエルの名を聞いただけで、こんなに変わってしまうとは。


ルシファーは寝台から立ち上がって、マントを引き剥がそうとした。


先程までとの態度の違いに、ネージュは呆気にとられて動けなかった。

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