第2話 ④治癒力
シエルはそう言うと、素早く斬りかかる。
シュヴァリエはなんとか避けた。
(は・・・早い・・・!)
次も避けられる自信がシュヴァリエには無かった。
*****
シエルがウェインライトに来ると、シュヴァリエはよくバーへ飲みに連れて行かれた。
お酒はあまり得意では無かったが、シエルと一緒に話をするのは嫌いではなかった。
シエルは酔うと、勝負事をしたがる。
そこで毎回腕相撲をすることになるのだが、シエルが勝ったことは一度もなかった。
すると決まって、負けず嫌いの彼は、シュヴァリエに唯一勝てる勝負を挑んでくる。
シエルがシュヴァリエに勝るもの...それは足の速さだ。
酔った足で川辺の土手まで行って、よく二人で走った。
シエルは素面に戻ったかのように、風のごとく速く走った。
その速さにシュヴァリエは勝てない。
*****
(力では勝てるが、素早さでは負ける...)
シエルの双剣が再び襲ってきた。
シュヴァリエはシエルの左手を抑えるのに精一杯で、右手の剣は、肩に食いこんだ。
肩の痛みに耐えながら、シュヴァリエは両手でシエルの左腕を掴む。
そして躊躇もせずに、シエルの腕を折った。
突然の痛みに驚いたのか、双剣が両手から消える。
その機会をシュヴァリエは逃さず、シエルの右腕も掴むと、同じように骨を折った。
激痛で気絶し、床に倒れるシエル。
「あ...あなた、操られてないのに、仲間を攻撃したの?!」
恐ろしくなって、リリスはゆっくりと後ずさる。
「殺してませんから。生きていれば大丈夫です」
シュヴァリエは斬られた肩を抑えながら言った。
「僕は昔、闘技場では負け知らずでした。絶対に勝てるんです。何故かわかりますか?」
リリスは考えたが、答えはわからなかった。
「知らないのですか? 勉強不足ですね、薔薇の夢魔は。
他国の将軍の情報くらいは知っておかないと」
そう言うと、シュヴァリエは斬られた肩を見せた。
破けた服から見える肩は、無傷だった。
服は血で汚れているのにだ。
「僕は怪我しないんですよ…いや、しないんじゃなくて、正しくは、怪我してもすぐに治ってしまうんです」
今までどんなに大怪我をしても、自然に治った。
*****
例えば数年前、ウェインライトの街にドラゴンが現れた。
竜を倒すのにシュヴァリエ率いるウェインライト軍が戦った。
その時、竜に左腕を食いちぎられた。
竜はなんとか倒したが、シュヴァリエはすぐに病院に運ばれた。
そして一週間もしないうちに、左腕が完全に復活して退院した。
失った左腕は、また「生えてきた」のだ。
まるで、抜いた髪がまた生えてきたかのように...いや、髪が生えて伸びるより、腕が生えて元に戻るスピードの方が早かった。
そういうこともあって、シュヴァリエは他の軍人に「人間ではない」と嫌われていた。
嫌われていた、というよりかは、恐れられていた、の方が正しいかもしれない。
シュヴァリエにとっては、誰に嫌われようが、どうでも良かった。
気が合う人はいなかったし、他人に興味も無かった。
マリアとシエルを除いて。
*****
シュヴァリエは得意気に無傷の肩を見せたが、リリスの反応は意外だった。
彼女はにやりと笑った。
同情するような目で見てくる。
「はは...なぁんだ。あなたも私と一緒なんだ...仲間ね。
気持ちはわかるわ…他の人間とは違う自分...辛かったわよね...あは、あははは…」
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