第2話 ②疑問


「それは姫様が美しいからですよ!」



シュヴァリエが真顔で言う。



「美しいから、自分のものにしたくなったんです!」



シエルは呆れた。


あながち間違いではなかったのだが。



「マリアを自分のものにする為に魔物を召喚して、ウェインライト人を襲ったって言うのか?


ヴォルフィード軍もいるのに...マリアが1人でいるのを狙った方が楽じゃないのか?」


「何千年も生きている天使が、人間を恐れると思いますか? 」


「俺が気になったのは、魔物はウェインライト人だけを狙ったことだよ!


魔物はヴォルフィード人に見向きもしなかった…つまり、ルシファーとヴォルフィードはグルだったんじゃないかって」



シエルはそう言うと、立ち上がって、羽織っていた白いジャケットの内ポケットを探った。


取り出したのは二本のヘアピンだ。



「グルだったって、どういうことですか?」


「目的は知らねーけど、ヴォルフィードはウェインライトを攻撃するつもりだった。戦争でも始める気か…」



シエルは二本のヘアピンで、鉄格子の鍵を器用に開けた。



「す、すごい…そんな特技があったなんて」



シュヴァリエは素直に驚く。



「俺達が牢屋に捕まってるってことは、結構やばいぞ。もしウェインライト軍が勝ってたら、ウェインライトの将軍であるお前が、牢屋で寝てるわけないからな」



シエルは辺りの様子を伺った。


見張りはいないようだ。


シエルはゆっくり、牢屋から出た。


シュヴァリエもあとに続く。


他の牢も見たが、捕まっていたのはシュヴァリエ達だけだった。



「姫様はどこにいるのでしょうか…?」



マリアは地下牢にいなかった。


ルシファーの狙いがマリアなら、ウェインライト城から連れ去られて、近くにはもういない可能性がある。



「わからない...しらみつぶしに城内を探すか? でも、また捕まってしまったら、今度は殺されるかもしれないぞ」



シエルはこんな所で死ぬのはゴメンだと言った。



「かといって、姫様を置いて逃げるわけいかないでしょう? もしかしたらまだ近くにいるかもしれないのに。


僕は一人でも、姫様を探しますからね」



シュヴァリエは本気だ。


もしシエルが先に一人で逃げるというのなら、止めないつもりだった。



「...マリアの居場所も気になるが、俺はもう一つ気になってることがあるんだ」



シエルは足を止めて、辺りを警戒する。



「俺達を牢屋にぶち込んどいて、見張りが一人もいないってどういうことだ?」



シュヴァリエも足を止めた。


目を閉じて、耳をすます。



「確かに...誰も近くにいないように感じます。僕達が逃げれるなんて、思ってないんじゃないですか?」



正直、ヘアピン二つで牢屋から出られるとは、シュヴァリエも予想外だった。



「あるいは...逃げたところで、何も出来ないと思ってるか。俺達、戦おうとしたのに、何も出来なかった。


武器は消えるし、猛烈な睡魔に襲われて気を失うし…」



自分達が気を失ったのはルシファーのせいだと、二人は勘違いしていた。


実際二人を眠らせたのは皇太后リュヌだ。



「またルシファーに見つかったらヤバイよな…あいつに勝てる気がしねぇよ」



シエルが弱音をはく。



「それでも僕は姫様を探します…もし姫様がルシファーに捕まっていたら、隙をみて助け出します」



ルシファーがこの城にまだ残っているかは疑問だが。


その時、足音が聞こえた。


階段から誰か降りてくる。


見張りがやってきたのだろうか?


シュヴァリエとシエルは顔を見合わせた。


戦うべきか?


それとも一度、牢の中に戻るか?


二人でアイコンタクトをとった結果、戦うことにした。


足音を聞く感じでは、やって来るのは一人...おそらく高いヒールをはいた女性。

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