第1話 ⑤静寂


「行きましょう。結婚式は万魔殿で挙げますよ」



ルシファーに腕を掴まれ、マリアはついて行くしかなかった。


万魔殿がどこかなんて、聞く勇気は無い。


いつの間にか聖堂内は静かになっていた。


さっきまで魔物と戦う兵士達で、争いの喧騒が騒がしかったが、今は静かだ。


魔物はもういなくなっていて、兵士達の死体が床に転がっていた。


見覚えのある豪華なマントを見つけて、マリアは恐怖で震えた。



「お父様...」



マリアの父、ウェインライト王が血を流して倒れていた。


心臓があった場所に、大きな穴があいてる。


マリアはルシファーの手を振り払って、父の亡骸に抱きついた。



「お父様...お父様!」



涙が止まらない。


母は幼い頃に亡くしていて、父は唯一の肉親だった。



「どうして...どうしてこんなことに」



マリアには分からなかった。


今日は結婚式だったはず...何故父が殺されなければならなかったのか?



「言ったでしょう? これは罠だって。


ヴォルフィードは最初からウェインライトを滅ぼすつもりだった」



ルシファーの言葉を聞いてマリアは立ち上がった。


恐怖心は消え、怒りだけが彼女の心を支配していた。



「殺してやる…!」



マリアはリュヌの元へ走ろうとしたが、当然ルシファーに止められた。


武器なんて持ってなかった。


この手で、皇太后の首をしめてやろうと思った。



「離してっ! あの女を殺すの...!」



再びルシファーに腕を掴まれたので、マリアは彼の手に噛み付いた。


ルシファーの手から解放されたマリアは、皇太后に向かって走った。


リュヌはマリアを指さす。


突然激しい睡魔に襲われ、マリアは床に倒れた。


目を開けていたいのに、瞼が重い。


閉じていく瞳で、マリアは最後までリュヌを見上げた。



「馬鹿な子。私の魔力に勝てるわけ無いのに」



リュヌは寝息を立てるマリアを見下ろしながら言った。


ルシファーはマリアの側に近寄ると、床に倒れている王女の体を抱き上げた。


そして何も言わずに、マリアを連れて聖堂から去って行った。


花嫁が連れ去られるのを、ネージュはただ見ていることしか出来なかった。




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