第1話 ④人間ではない者
「...この世界の人々は、邪な魂を持つ者で溢れている。世界を管理する者として、世界の害になるものは排除しなくてはならない」
リュヌはそう言ったが、言葉の意味をネージュは何一つ理解出来なかった。
「管理する者...? 母上はヴォルフィードの皇太后だろ?
なんでヴォルフィードが、ウェインライトを襲わなきゃならないんだ?!」
後ろでルシファーが笑った。
ネージュがきつく睨む。
「失礼。何も知らされずに生きてきたんだなぁって」
ルシファーの言葉でネージュは自分に自信がなくなった。
自分の知らない世界に迷い込んだような気分だ。
「何も知らないのはマリア様も一緒ですね」
ルシファーは祭壇の上に座った。
同時に背中の翼が消える。
「良いことを二つ教えてあげましょう。
一つ、あなたの側近は人間ではありません。一緒に眠らされた男も。
人間ではないから殺すのは厄介。だから眠らせたわけです」
マリアは床の上で眠るシュヴァリエとシエルを見た。
人間ではない...?
歳を取らないシュヴァリエは納得いくが、幼馴染のシエルも?
マリアはシエルの子供の頃の姿を知っているのに。
「ついでに言うと、あなたの婚約者も人間ではありません。皇太后が人間ではないのだから、その子供が人間であるわけないでしょう?」
マリアはネージュを見た。
言われている本人が一番驚いているようだ。
「マリア様は普通の人間ですけどね。でも何も心配しなくてもいいんですよ。
親しい人達が実は人間ではなかったとか、ウェインライトが滅びるとか...あなたは生き続けるのですから。私の元で」
ルシファーは祭壇から降りて、マリアの腕を掴んだ。
振り払おうとしたが、力が強くてかなわない。
「もう一つ私が教えるのは、この結婚式は皇太后が仕組んだ罠。今頃ヴォルフィード軍が街を襲っていることでしょう。
城内のウェインライト人は、皇太后と皇太后の側近達、そして私が召喚した魔物で十分、皆殺しに出来ます」
マリアはネージュに助けを求めようとしたが無理だった。
彼は自分が何者かも、母の正体もわからず、今日の結婚式が罠だということも何も知らずにいた為、ひどく混乱していた。
「...ですが、この結婚式は嘘でも、これから本当の結婚式をするので安心してください。
相手は私...あなたは私の妻としてこれから生きるのですよ」
マリアは瞳に涙を溜めて首を横に振る。
助けを求めるように、天使長ミカエルの像を見上げた。
それに気付いたルシファーは、魔術でミカエル像を破壊した。
「弟を見るな! 私がいるというのに、何故わざわざ私より劣る弟を見る!
何故あの男が良いんだ?! 私に『また』殺されたいのか?!」
余裕のある態度だったルシファーが一変して、怒り狂った。
マリアの両肩を掴み、激しく揺らす。
マリアは恐ろしさに何も言えなくなった。
「...すみません。あなたを怖がらせたいわけではないのですよ」
ルシファーは我に返って、後悔した様子で言った。
「ルシファー...本気? 天使が人間と結婚するなんて」
リュヌが戸惑っている。
どうやら彼女は、ルシファーがマリアを狙っていると思わなかったようだ。
「何か問題が? 私はもう天界を追われていますし、何をしようと自由だ。
あなただって、目的はこの国で、マリアに用はないでしょう?」
リュヌは何も返さなかった。
マリアはなんとなく、リュヌはルシファーに好意を抱いてるのではないか? と思った。
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