第10話

「ここがわたくし達の家ですの。隣があなた達の家ですのよ」

「ありがとうございます。とても立派ですね」

「ここではみんなそうですの。部屋に案内しますわね」


 ハラーさんの家は、2階建ての立派な一軒家だった。壁は漆喰で、それなりにきれい。

 案内された部屋は6畳半くらいで、家具はなかった。


「狭くて申し訳ないですの」

「全然!とても清潔な部屋ですね」

「そんなに気にしなくていいですの。でも良かったですわ。清潔というのは意外に大切なものですものね」

「そうですね」


 なんだか打ち解けてきたようだ。

 そう思った直後、


「でもあれですの。静香、あなた人と話すの上手じゃないですの」

「え、そうですか?」

「ええ。嫌な感じはしないですの。でも、話してて面白くもなんともないですの。感情も分かりづらいですの。それに、おんなじことしかいってないですの」

「そ、そうですか…。わかりました、では無口になることにします」

「そうね、頷いてくれればいいですの」


 そうなのか…。私、人と話すのうまくないのか…。


「姉ちゃんの場合、人と話すのが苦手ではなく、知らない人、または他人と話すのが苦手だね。もっと詳しく言うと、一定以上距離のある人は苦手だよ」

「日向、気づいてたの?」


 そんな…。私今まで自覚なかったのに…。

 日向は気づいていたのか…。


「静香、突然何を言ってるですの?日向は一言も話してないですのよ?」

「え…」


 やだわ。私変な人じゃない。


「これ僕と姉ちゃんの会話だよ」

「そうなの?分かりづらいわ」

「たしかにそうだね。でもなあ…。この普通に話しているのと変わらないクリーンさがいいんだよね。ほら、緊急時とかに」

「そうね。でも、やっぱり分かりづらいわ」

「じゃあさ、僕念話以外で話さないことにするよ」

「え?でも、不便じゃない?」

「全然。だって僕、この街に来てから一言も話してないもん。あ、本当に話しかけるときは僕の方に顔を向けてね。それでわかると思うから」

「そ、そうね。わかったわ」


 日向、話してなかったっけ?

 門番さんとの会話は…私。

 街へ続く道での会話は…念話か。

 ハラーさんとは話して…ないな。でも、会話の途中で日向が話しかけて…いやこれも念話か!


 うわー、私めっちゃ変な人じゃん。虫だけど。ハラーさん戸惑っただろうな。


「大丈夫ですの?」


 はい、と言おうとしてやめた。無口になるといったことを忘れていた。


 頷くだけに留める。


「それなら良いですの。布団などはまた明日もらいに行きますの。とりあえずはこれで暖を取ってほしいですの」


 そういうと、ハラーさんはポケットから1平方センチメートルくらいの、小さい布団を取り出した。


 話してはいけないので、それを興味深く見る。


 ハラーさんが私に聞き取れない言葉でなにかつぶやくと、ハラーさんの手の中で布団がどんどん大きくなっていく。


 十秒ほどで布団は二人で入れるくらいの大きさになった。蒼い花の刺繍がしてある、きれいな布団だ。西洋風のデザインで、異世界を感じさせる。

 日本だと普通に日本式の布団だからなあ。


「古いもので申し訳ないですの。でも、きれいですの。使ってくださいね」


 あ、今回は頷くんじゃなくてちゃんとお礼を言えばよかったかな。言っちゃったから仕方ないけど。まあ、無口なのはハラーさんも知ってるし、いいか。

 気持ちだけは持っておこう。


「夕飯はダーリンが帰ってきてからですの。食材が二匹分しかなくて、少なくなってしまうから、申し訳ないですの」


 あ、これはちょっと言わないと。


「食べるものならあるので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。どうぞ、お二人で食べてください」


 まずい、無口にしては喋りすぎたかな?


「そうですの。良かったですの。今度、貰いに行きますの」


 頷くと、ハラーさんは出ていった。


「よし、じゃあ桃を食べよう!」

「そうだね。あ、母さんのグラタンだ」

「私も食べよう。もぐもぐ。………」


 え、待って、ハチの幼虫の味がするんだけど。


「姉ちゃん?どうしたの?」

「あ、何でもない」

「なんの味?」

「え?えーっと、クリーム、かな?」

「わかんないの?変な姉ちゃん」


 …絶対に知られてはいけない。

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