第9話

 魔蟲の街には、日が暮れる前に到着した。たったの半日ほどである。


「すごいわね、G。ちょっと、ちょっとだけ、見直しちゃったわ」

「そうだね」


 今まで、種族特性の逃げ足が速いを活用し、全速力で飛ばしてきたのだ。全然疲れなかったのは、四六時中飛行訓練やらなにやらをしていたからだろう。


 門が見えてきたあたりで速度を落とし、ゆっくり歩いていき、やがて神社の鳥居のような門にたどり着いた。


 門には、防具をつけた異世界定番の兵士が二人いた。いや、定番ではないか。ハチだし。


「こんにちは」


 声をかけた瞬間攻撃された。普通の発声法頑張って練習したのに!というか、桃が言ってた言語として成立していれば、意志を持って発声するだけで伝わるって、ホントだったんだな。


「何だお前たちは!冒険者が近寄るな!」

「ぼ、冒険者?あるの?」

「…違うのか?まあ良い、人間は立ち去れ!」


 人間!そうだったらどれほど良かったか…。


「私達、人じゃないんです。特性で変化してますけど、魔蟲です」


 そう言って、Gの触覚を生やす。これだけだと、意外に可愛かったりするんだよね。


「そうなのか。疑ってすまない。入ってくれ」


 おお、OK出た。というか、優しいな。


「ありがとうございます」

「楽しめよ」


 ほんとにいい人だ。あ、いや、人じゃないのか。


 門をくぐると、たしかに街らしいものが見えた。そこを目指して一本道を進む。


「納得してくれてよかった。もし納得してくれなかったら…。あのハチ強いから、殺されてたかも」

「あれってエイティスでしょ?称号見せれば一発だったのに」


 日向…。あんた過激だな。


「そんなことしたら、敵認定されるよ?」

「動きを止められればいいんだよ。その後Gに変身すれば、納得せざるを得ないでしょ?」

「ああ…。そうね。でも、エイティスが中心の街だったら、終わってるわよ」

「あ、たしかに」


 日向、過激なことはやめなさい。平和主義というのは、かなり理にかなっているのよ。


「ついたわよ」

「おお〜。すごいね、ちゃんとした街だ」


 やや粗末ではあったが、中世レベルくらいの家が立ち並んでいた。


「良し!じゃあ、宿でも探そうかな」

「それがいいわね」


 宿っぽい建物はないかぶらぶら歩いていると、初めて魔蟲にすれ違った。黄色い蝶々だ。モンキチョウかな?


「まあ!なぜ人間がいますの!門番のダーリンは何してますの!」


 へー、門番さんの彼女?それとも奥さんかな?どっちだろう。

 って、そんなこと考えてるときじゃないな。


「あ、私達、虫なんです。ほら」


 そう言って触覚を出す。


「まあ、そうですの。人化のスキルでも持ってるんですのね。紛らわしいですわ。常に触覚は出していてください」

「そうですね。すみません」


 ということで、触覚を出した。


「姉ちゃん、羽も出しておいたほうがいいと思うよ。触覚は出すという動作があれば気付くけど、最初からあると分かりづらいから」

「そうね」


 うん、流石は日向だ。よく気がつく。


「これで大丈夫ですか?」

「問題ありませんの。わたくし達、人間には苦労させられてますの。気をつけたほうがいいですの」

「ありがとうございます。あの、宿屋はありませんか?」


 話し方はお嬢様みたいだけど、いい人だな。ここは甘えさせてもらおう。


「宿屋はありませんの。普通ならゆっくり自分の家を作りつつ、野宿をするのですけど、わたくしの家の隣がちょうど開いてるんですの。手伝いをしてもらう代わりに、家ができるまでおいてあげるですの」


 ほんっとうにいい人だな。あ、虫か。


「頑張ってお手伝いさせていただきますので、おいていただいてよろしいでしょうか?」

「いいですのよ。それにしても、珍しい種族ですの。そのような羽、初めて見たですの」

「ありがとうございます!私達は、Gと言って、とても珍しい種族のようですね」

「そうですの。綺麗な羽ですの」

「そうですか?嬉しいです。あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「名前?ああ、そういえばそんなものもありましたわね。わたくし、ダーリン以外の方とはあまり会話しないんですの。わたくし、ハラーと言いますの。夫はエードですわ」

「ハラーさんですか。私は静香と言います。こっちは弟の日向。よろしくお願いします」

「良い名ですの。それにしても、弟とは、珍しいですの」

「珍しい…とは、どういうことですか?」

「私達には、兄弟という概念があまりないんですの。やはり、人の形をしていると、似てくるのですね」

「あ、はい、そうですね」

「ああ、気にしなくていいんですの。私達知恵のある魔蟲には、とても素敵なものとして認識されてますの。他の知恵のない兄弟たちは、ほとんどが死んでしまっていますの。誇っていいことですのよ。では、家に案内しますの」


 ハラーさんが先導してくれる。

 いい人に巡り会えたようだ。あ、虫か。うーん、なれなくては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る