第7話

 私達は、どうやら人化できたらしい。


「いいじゃん、美しい人。っていうか、魔蟲が人化のスキル持ってるの、めちゃくちゃレアだよ」

「…ど、どうやればなれるの?」

「人化って念じれば」

「「…」」


 簡単すぎて涙が出てくる。初日、結構頑張ったのになあ…。


「じゃあ、やろっか」

「そ、そうね」


 人化。


 どろん!なんて効果音はしなかったが、気分としてはそんな感じだった。


「あれ…?前世と同じ…?」


 美人ということで期待していたのだが、慣れた感覚に驚いた。


「あ、髪色が違うか」


 黒髪か栗色になっていた。いや、それより黒に近い感じだろうか。いや、ちょっとじゃなくてもっとか…?


 要は、Gの色だ。まあ、そこまで気色悪い色じゃない。


「ホントだ。姉ちゃんは…!?!??!!?」

「!?!??!」

「おお!本当に美人だね。すごいな」


 いやいや、そこじゃないでしょ。


「「全裸!?」」


 ええ、ええ、考えてみればそうですとも。そりゃな!Gが服なんて着てるわけ無いわな!


「そうだね。すごい綺麗な体だよ」

「ちっがーう!」

「ちょ、あの、どうやって戻るの…?」


 顔を手で覆いながら日向が言った。


「念じれば行けるんじゃない?多分」

「「多分!?」」


 それ、戻れないかもということでは…?


 戻れ!


 あ、行けた。


「はあ、はあ、はあ。危なかった。もう少しで思春期初の女性の裸体が姉ちゃんになるところだった」


 もうなってるのでは…やめておこう。やめといてやろう。


「小学生以来ね…」

「うん…」


 帰宅部にしては筋肉ついてたな、日向。いやいや、そんなことを思ってはだめだ。

 今取り掛かるべきは、衣服の問題なのだから。


「服、どうしようか」


 …日向が本気で悩んでるの、初めて見たわ。


「人間は魔法でなんとかしてるらしいけど、君たちはできないしね。まあ、服なんかなくていいんじゃない?」

「「それは無理」」


 声が揃った。当たり前だと思う。


「じゃあどうする?」

「それが分かれば苦労しないよ…」


 日向って、うぶなんだね。まあ、恋愛経験ゼロだし、仕方ないか。


「葉っぱで作る、とか?」

「いいね!姉ちゃん名案!」


 日向の顔がぱっと明るくなった。…多分。Gだとそういうのがわからないから不便だな。


「よし、じゃあやってみよう!」


 日向はノリノリだ。弟の助けになれてよかった。


「じゃあ葉っぱを集めるか」

「そうね」


 頑張るぞ!生命線だからね!


 ◇


 結論、無理。


 最初は名案だと思ったのだが、やっているうちに無理なことが判明した。


 なぜだめだったかというと、まあ理由は色々ある。最初の問題が、


「糸、なくね?」


 そう、糸だ。葉っぱを集めるまでは良かったのだが、いざ縫うときになって、糸ない問題が発生した。


 結果、雑草で代用することにした。ヘニョヘニョだが、編むとそれなりになった。ちなみに、30センチ近くある。使えないことはないだろう。


「針、なくね?」


 次に、糸はあっても針なくね?問題が発生した。


「木の皮で作れば?」

「なるほど!」

「じゃあ人になるの?」

「そうだね、細かい作業だから…」


 だめじゃん。人になったらあかんやん。


「そういえば、縫うときも人になるね」

「…そうだね。やめる?」

「いや、一人がむこう向いてれば大丈夫だ!」


 と、日向が押し切り、なんとか服は完成したのだが…。


「脆いね」

「脆いな」


 穴だらけになった葉っぱの服は、大事なところが見えそうだ。というか、私の胸などところどころ見える。


「…やめようか」

「…仕方ないね」

「これはちょっとひどすぎるんじゃないか?」


 桃ッ!痛烈な意見だ。…否定できないが。

 …これから、こういうのは日向に任せよう。私はお荷物になっちゃうかもだけど、その分戦闘で頑張ろう。


「じゃあ、結局どうする?」


 Gの姿に戻り落ち込む私達に、桃が声をかけた。


「…なんとか考えるよ」

「うん」

「うん!」


 私達は立ち上がった。不屈の精神を燃やして!


「やっぱり全裸で良くない?」

「「良くないッ!」」


 まさに、心は一つだった。


 ◇


 それから一週間、私達は悩みに悩んだ。しかし、結論は出なかった。


 最初の頃はああでもないこうでもないと議論していたのだが、7日目ともなるとネタも尽き、うんうん唸ってばかりいると、桃が言った。


「あのさ、変身系の特性って、自由なものが多いんだよね。変身の時、服を着ている姿を想像してみたら?」


 想像か…なるほど。


「やってみよう」


 服、どうしようかな。やっぱりワンピース?でも、動きづらそうだしな…。


 うーん、そうだな、これにしよう。


「人化」


 ボン。

 人化してから数秒の遅れのあと、もやもやしていたものが集まり服になった。

 色はどうしても茶色になってしまうらしい。


「姉ちゃん、なんで制服?」

「毎日見てたものだから、想像しやすくて。日向こそ、なんでジャージ?」

「動きやすそうだから」


 弟よ、なぜそのジャージがそんなに似合うのだ?ゲーマーだからか?


「珍しい服だね。異世界の?」

「そうよ」

「ねえ桃、変化からの間って、縮められる?」

「練習すればいけると思うよ」

「そっか。姉ちゃんやろう」


 日向と一緒にG→人間を練習していると、桃が言った。


「すごい精巧に再現されてるね。羽とかも生やせるかな?」

「難しいんじゃない?イメージがそこまでないし。生えても飛べるとは思えないよ」

「でも、君たち羽あるよね?」

「…え?」


 G形態の日向の背中を見てみると、確かに羽らしきものがある。

 なんと…。台所の悪夢は空を飛び回る可能性があったということか…。その様子地獄絵図を想像すると…うう。


「じゃあ、再現してみる?」

「してみよっか」


 やってみると、たしかに羽が生えた。しかも、服とは違ってスムーズだ。


「これ、飛べるかな?」

「練習すればいけると思うよ」

「そっか。じゃあ練習しようよ姉ちゃん」

「まずは服を着る練習からね」

「えー。飽きたよ」


 日向…。そんなんだから帰宅部なのよ。


「いいんじゃない?同時並行で」

「そうだね!良いよ同時並行で!」

「仕方ないわね」


 まあ、私もやってみたかったし!


「じゃあやってみよう!せーの!」


 気に登った私達は、輝かしい第一歩を踏み出し…落ちた。

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