第4話

「お腹空いた…」

「もう動けない…」


 転生して二日目。私達は、飢えに苦しんでいた。食べられそうな植物は少ない。

 木はたくさんあるのだが、食べられないようだ。葉も同じ。果物は、あれ以来見つからなかった。

 肉を食べるしかない。私達は、気づき始めていた。


「しかし、Gってどうやって狩りをするのかしら?」

「わかんない。というか、攻撃手段なくない?」

「そうね。…残飯漁るしかないかな」


 でも、残飯なんてないわよね…。ここは異世界だし。


「そうだね。うん、そのとおりだ」

「何ニヤけてるの?」

「この方法なら行けるかもしれないよ、姉ちゃん」


 そう言って、日向はニヤリと笑った。

 …私の弟、こんなに悪そうだったかしら?


 ◇


「ねえ、ほんとにあそこ狙うの?」

「もちろん」


 私達は、ハチの巣にほど近い木の上に立っていた。


「でも日向、相手はハチよ?あんなにいっぱいいるのに、どうするの?」

「フッフッフ。これを使うのさ!」


 そう言って、日向は桃色のぐちゃぐちゃした物体を取り出した。いや、正確には背に乗せていた。


「それって、あの桃?」

「その通り!」

「触って大丈夫なの?」

「葉っぱでガードしているからね。今からこれを、あの巣に向かって投げ落とす!」


 言うが早いか、日向は桃を地面に作られた巣に向かって突き落とした。

 ベチャッと広がった桃に、多くのハチがやられる。そして、ハチがやられた分だけ桃は大きく成長し、遂に巣を覆うまでになった。


「これじゃあ中が見えないわよ?」

「大丈夫。まあ、見てなよ」


 そのまましばらく待つと、やがてハチの羽音が聞こえなくなった。


「うん、全滅したみたいだね」

「日向?これ、どうしたの?」

「中を見てもらえばわかるさ」


 そう言って、日向は木から落ちた。うーむ、いつか降りたと言ってみたい。

 ともかく、私達は桃の木の幹を進んでいった。


「ここからは裏を歩こう。落ちないように気をつけてね」


 蜂の巣の方向にたれた太い枝のところで、日向が言った。なぜなのか不思議に思いつつ、言われたとおりに枝を這って行くと、やがてその理由がわかった。


 木には、おびただしい数の桃がなっていたのだ。これでは、普通に歩くと桃に当たる。


 そして、何より異様だったのは、巣を中心として円形に生えた夥しい数の若木。


「これ、全部ハチだったの…?」

「そうだね」

「でも、どうしてこんなに早く?」

「簡単だよ。逃げようとして、自分から桃に突撃したのさ」

「ああ…、なるほど」


 つまり、閉じ込められたハチたちが逃げようとして空を飛び、葉に隠れた桃に激突して死ぬ。その連鎖だったというわけだ。


「あと、熟して落ちた桃に当たったのもあるだろうね。ところどころ大きいのがあるのは、多分そういうことじゃないかな」


 なるほど、他より背の高い若木がちらほらある。


「まあ、そんなことはいい。やっとご飯にありつけそうだよ、姉ちゃん」

「そうね。でも、ハチがいるかもしれないわ」

「ハチは僕たちの2倍はあるんだよ?残ってたらわかるさ」

「なるほどね」


 私達は、幹から巣に落ちた。…本当に、早く降りられるようになりたい。


「あ、いたいた。ほら、幼虫だよ」


 ハチの巣の部屋には、まだ動く、私達と同じくらい大きい幼虫がいた。


 うわあ。虫に強い方で本当によかった。お母さんだったら悲鳴を上げて気絶しているところだ。


「ねえ…。これ、食べるの?」

「もちろん」

「うわ…」


 できれば食べたくない。食べたくないが…。


 ぐー。


 そう、腹は正直なのだ。まあ、Gはお腹が空いても腹はならないが。


「お腹は空いてるしね」

「食べよう、姉ちゃん」


 日向が隣の幼虫に近づいた。私もしぶしぶ近づく。


「じゃあ、食べるか」


 言い出しっぺの日向も、流石に食べづらそうだ。まあ、日向なら空腹でそんなもの押さえつけられるんだろうけど。


「せ~の」


 目をつぶって幼虫にかじりついた。

 ほんのり塩味のある、濃厚なクリーム。

 …以外に美味しかった。


「Gにも、味覚あるんだ…」

「そういえばね。まあ、ないよりはいいでしょ。これ、なんか結構美味しいね」


 お腹が減っていたので、あっという間に食べ終わった。満腹だ。

 …早かったのは、決して美味しかったからではない。飢えていたからだ。これは譲らない。何があろうと元人間として譲れない。


「ふ~。さて、じゃあ探索でもするか」


 そう言って、日向が歩いていく。その先には、サナギの部屋があった。そのうちの一つが震えたのを、私の瞳が捉えた。


「日向!近づかないで!そのサナギ、孵化するわよ!」

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