第19話、ウズシオ

「寒かったら、ひざ掛け使ってね」

 メグミは、副操縦席に座ったナンバに言った。


「ありがとう」


 天気は、快晴。

 近くに、スーパーハリケーンはないようだ。


「後ろのキャノピーちょっと引っ張って」


「はいよ」

 ナンバが2座席分の大きさのあるキャノピーを後からスライドさせてメグミに渡す。


 パタン


 メグミが、キャノピーを閉じた。 

 メグミが、スロットルを上げる。

「パラララ」と言うエンジン音が。「バアアアアア」と言う音になり、紅い飛行艇は静かに離水した。


 まずは、”ウズシオ”がある、旧”ナルト海峡跡”に向かう。


 水没したビルの屋上にある、飛行標識を確認しながら、四国の方へ飛んだ。

 途中、元三重県の伊勢市の上空を通過した。


「”いせ”神宮も”いづも”に行ってるみたいだね~」


「本当だ」

 

 振り向いて、副操縦席のナンバに笑いかけた。


 鳴門海峡大橋の巨大な柱が見えてきた。

 道路部分は、海中に沈んで海水越しにうっすらと見えている。

 その上を、渦が沢山巻いていた。


 ナルトの”ウズシオ”である。



 ”旧ナルト海峡跡の人口渦潮”


 昔から、淡路島と四国の狭い海峡を通るによって、”渦潮”が発生すると言われてきた。 

 しかし、”大異変”による海水面の上昇により、淡路島と四国の土地が3分の2になっても、渦は巻き続けていた。

(潮の満ち引きが無くなっても、渦が巻くようだ)

 現在ナルト海峡は、幅が広がりとても海峡とは言えなくなっている。


 昔から、”ナルトの渦潮は海底にある巨大なスクリューで作られている”と言う噂があった。


 この噂の真偽は、”大異変”後の混乱により有耶無耶のままになっている。

 ”オーサカ国”が近いこともあり、日本政府も公式には何も言っていない。

 ”科学論文投稿サイト”に、”ウズシオ”の研究を投稿しても、何者かによってすぐ消されるそうだ。



「……空軍の潜水艦の航路も外されてるんだよな、ここ……」


「……うん。 海軍の気象部も”ウズシオ”が危ないから近づくなって言ってる……」 


「まっ、いいかっ」

  

「そっ、そうだねっ。あはは」


「上から見るの初めてなんでしょう?」


「うん。そうそう」


 二人は気を取り直して、雄大な”ウズシオ”の光景を、上空から楽しんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る