第18話、オウサカ

「待った?」


「今来たとこ」


 待ち合わせ場所の飛行艇発着場に、朝7時の待ち合わせの、30分前に着いたメグミとナンバである。 


 二人とも、朝食はまだなので、近くの喫茶店でモーニングを食べる。

 メニューは、焼いたトーストに、海藻サラダ、焼き魚だった。


「小麦も、少し安くなってきてない?」


「そうだな~」


 二人は、トーストをかじった。


 ここ、10年ほど海水面が、少しずつ下がって来ているようだ。

 ”大異変”の後、貴重な土地は生き残った森林と、世界三大穀物である、米と小麦、トウモロコシを作るためにほぼ使われている。

 そうすることで、”大異変”前の約2倍の値段を何とか保っていた。

 遥かな昔、”黄金の国”と言われていたように、秋の富士山は”稲穂”で黄金色に輝く。


 食後の合成コーヒーを飲みながら、


「古いお守りは持ってきた?」


「持ってきたよ」

 ナンバが、御守りを見せる。


「今月は、”神有月かみありつき”だから”いづも”に神社が集まってるんだよね」


「そうだな」


 今日は、メグミの、”蓮月レンゲツスーパー8”で”いづも”にお参りに行くのである。


「片道、2時間のくらいの飛行で、”オーサカ国”を南回りに回って”ウズシオ”も見たいけどいい?」


「楽しそうだね。”ウズシオ”を空から見るのは初めてだよ」 


「ふふ。良かった」


 二人は笑いあった。



 ”オーサカ国”


 ”大異変”前に、”オーサカ国構想”の一環として行われた”オーサカ独立戦争”によって建国された独立国である。

 現時点で、”ヴァチカン市国”に次ぐ2番目に小さな国と言われている。

 有名なのは、街の中央にあった、巨大人型モニュメントを改造した攻撃型要塞と、”通天閣”という電波塔に装備された、広範囲バリアーである。


 巨大人型モニュメントの”両目”に装備された、大口径、高出力レーザーは、黒いフレームに支持された高精度な偏光レンズと、稼働する首により、360度発射することが可能である。

 両手に持った、巨大なクラブと腹部前に装備された巨大ドラムで発せられる、広範囲音響兵器はあらゆる航空戦力を無効化した。

 独立を阻止しようと派遣された、日本軍艦船を薙ぎ払った”高出力レーザー”は強力で、紅白の三角帽と、紅白に塗り分けられたボディーは、当時の兵士たちの悪夢に出たそうだ。

 

 ちなみに、”通天閣”に装備された国全体を覆うバリヤーは、”割れる”。


 両方とも、世界的に有名なコングロマリット企業である、”吉本工業”製であるが、何故バリヤーが”割れる”のかは、開発当時でも”謎”だとされていた。

 何もしなくても人口がじわじわと減っていく現代で、攻撃型要塞は封印されたが、”通天閣”(半分くらい海の中だが)のバリアーは健在で今でも”オーサカ国”を守っている。



「そろそろ、出発しよう」


 二人は、紅い飛行艇の元に向かった。 


 

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