第17話、レンゲツ

 デートの夜、連絡先を交換した携帯に、電話を掛けた。

 食事と、のことを聞いてくれた礼を言う。

 しかし、初デートに、ナマコの話を熱く語って大丈夫だったのだろうか?

 話題を変えようとしても、それとなく戻されていたような気がする。


「こ、こちらこそ」

 携帯越しに、感極まったような声がした。


 次に空いている日を聞いて、こちらからデートに誘う。


「飛行艇でちょっと飛ぶから、ラフな格好で来てね」

 次に会う日は、5日後に決まった。



 メグミが、海軍から借りている家は、球形で屋上部分が平らになっている。

 海底に、鎖でつながれており、スーパーハリケーンのときは窓のシャッターを閉めてのりきる。

 海上の1階部分は、飛行艇のガレージになっていた。


 ”水無月ミナヅキ”によく似た紅い飛行艇が、船の部分を土台に固定されて止めてある。


 ガレージ内の海水は抜かれていた。


「ふんふんふ~ん」

 メグミが、鼻歌交じりに、紅い飛行艇のエンジンをいじっている。


   

 ”蓮月レンゲツスーパー8”


 大異変の前、まだ大地が沢山あったころ、”蓮花ロータススーパー7”と言う自動車があった。

 この車は、”キットカー”と言われ、エンジンやシャシー、タイヤなど、プラモデルの様に自分で組み立てることが出来た。

 

 後の海軍がこれを真似て、”水無月”をベースに売り出されたのが、


”キットプレーン、蓮月レンゲツスーパー8”


 である。


 二重反転プロペラが後ろにある”推進式。

 楕円オーバルピストンによる1気筒8バルブ、OHV,V型32バルブ4気筒水素エンジン搭載。


 クラッシックカーならぬ、クラッシックプレーンである。



 メグミは、論文の懸賞金、約300万円で、レンゲツを購入。

 こつこつと自分で組み立てたのである。


 留守にする前に、抜いていたプラグをエンジンに着け、エンジンカウルを閉めた。


「いや~。複座式にしといてよかったよ~」

「まさか。男の人を後に乗せる日がくるなんて~」

「えへへ」

 照れたように笑う。


 充電しておいたバッテリーを繋ぎ、燃料タンクに海水を入れる。


「……上がっちゃおうかな~」

 携帯のスーパーハリケーン情報をチラ見しながら、かべに掛けてある、ゴーグルとフライトジャケットを手に取った。

 エンジン横にあるイグニッションをONにして、エンジンにクランクを刺した。


「よいしょっと」

 体重を掛けながらクランクを回す。


「ヴ、ヴ、ヴ、ヴ」


 もう一回。


「ヴ、ヴ、パラララララララ」


「よしっ」


 エンジンが掛かった。


 ガレージに注水して、扉を開く。

 最後に、船の部分の固定を外し、家の外に出た。


 メグミは、しばらく”飛ぶためだけ”の飛行を楽しんだ。


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