第16話、コノワタ
ナンバの操船で、”イワオ”は海面を、軽快に走る。
車内は広く、窓も大きく、視界もいい。
「いや。想像以上に快適だな」
「そだね~。全然揺れないね」
海軍の、自家用船レンタル部の職員の含み笑いを思い出した。
デートにはうってつけの船のように感じる。(実際、カップルに好評である)
こうなることを見越してわざと”イワオ”にしてくれたのだろうか?
ナンバは、次も”イワオ”を借りようと思った。
◆
昼食を予約していたレストラン”ヒルズ”に着いた。
元は、約50階建てのビルだが、下の階は水没している。
「うわ。ヒルズじゃない。よく予約取れたね~」
「取ってた同僚に用事が出来て、譲ってもらったんだ」
(実際は同僚に用事など無く、土下座して何とか譲ってもらったのは内緒だ)
料理の値段自体はそんなに高くない。
この店の売りは、上の階の自家用植物プラントで収穫された、”野菜サラダ”である。
店内に入った。
遠くの方に、半分に折れて倒れている東京タワーがガラス越しに見えた。
「特大カモメの巣になってるんだよね」
料理は魚メインのコースだった。
「ん~~~」
ナンバは、幸せそうにサラダの野菜を食べているメグミを、眩しいものを見るような目で見ている。
食後のデザートを食べながら、ナンバはメグミに博士号を取った学術論文の話を振った。
「私が、博士号を持ってること知ってるんだ」
「題名はね、”大ナマコのコノワタと再生医療について”だよ」
◆
”大ナマコのコノワタと再生医療について”
メグミが士官学校時代に、”科学論文投稿サイト”に投稿し博士号を取った論文のテーマである。
大ナマコのコノワタ(内臓)の超再生について、実直に調べあげていた。
わかりやすくまとめているので、講義の教科書に使っている大学もある。
また、論文の中で、実験に使った大ナマコとコノワタを肴に、晩酌している文が随所にある。
料理法とそれに合うお酒が、それとなく書かれていた。
一般の読者が晩酌の文を読み探していくと、いつの間にか、大ナマコと再生医療の基本的な知識が身に付くと評判になった。
沢山のしおりや、評価、”書籍化”ができた理由である。
◆
ナンバは、楽し気にナマコの話をするメグミを、憧れのまなざしで見つめていた。
メグミを知ったきっかけが、上の論文を読んだことである。
当然、しおりも付けたし、評価も星5である。
書籍化された本は、何度も読んでボロボロになっていた。
「今度、新しい本にサインしてもらおう」
「そして、論文の中の様に一緒に晩酌がしたい」
グッと心に誓うナンバである。
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