第14話、ダルマオトシ
その日の夕食時、艦の食堂で カオリ大尉とヒイラギ准尉が、簡単な送別会を開いてくれた。
三人で簡単に食事をするだけのつもりが、艦上空で行ったプチエアショーに感動した乗組員たちが、周りに集まり始めた。
気が付くと食堂一杯に乗組員が、集まっている。
何故か、メグミの前に列を作って、一言挨拶をして握手をしていく。
カオリ大尉とヒイラギ准尉にも、握手を要求しているのは何故だろう。
二人ともメグミの横に並んで、律義に対応していたが。
「あれ?」
(私、何故握手を?)
笑顔で握手をしていたカオリ大尉が、正気に戻り
「かいさ」
「よーし。酒保を開くぞ~」
いつの間にか握手の列に並んでいた、トウジョウ艦長が大きな声で言った。
「んしなさい?」
カオリ大尉の声が一足遅かった。
「おおおおおお」
結局、全艦あげての大宴会が始まり、翌日の艦の勤務は、”完全休日”となった。
メグミの離艦が一日遅れた。
◆
流石に”完全休日の日”は何も起きず、次の日の朝に、カオリ大尉やヒイラギ准尉に見送られ、離艦した。
最後に、自分の”水無月”で艦の上の低空で、宙返りをして飛び去った。
一度でも、”避難潜水”をした機体は、基地に帰って整備を受けるように義務付けられている。
日本軍の総合基地に向かった。
「お。今日は”エイプリルフール”が上空にほとんどないね」
”百目鬼ネット”を起動し”エイプリルフール”の分布予報サイトを見ながら
「上がるか」
嬉しそうに言った。
善は急げと言わんばかりに、キャノピーを閉め、高度を上げる。
「ふふふ~ん」
メグミは、マニューバで機体を振り回すのも好きだが、ひたすら真っすぐ飛んで速度を出すのも好きである。
メインモニターに日本軍本部基地の位置をGPSに示させながら、スロットルを全開にした。
所々、水没したビルの上の部分を下に見ながら、”水無月”は晴れた日差しの中を、音を後ろに残しながら、真っすぐに飛ぶ。
◆
”大異変”の海水面の水位は、最初は”大津波”が来たものの、約50年掛けてゆっくりと上昇したものである。
”旧国会議事堂上部の階層建築を利用した海上軍事基地”
日本軍本部の正式名称である。
国の中枢の建物として、海水面の上昇に合わせて、50年の間、建物を上に増築した結果、国の技術の粋を尽くした”階層建築”が完成した。
”ダルマ落とし”建築と名付けられるものである。
同じような経緯で、旧モスクワの”マトリョーシカ”建築も有名である。
ちなみに、現国会議事堂は、富士山のふもとの、旧青木ヶ原樹海の真ん中に移転されている。
◆
3時間ほど飛ぶと、上部が丸いドーム状になった、巨大な階層建築が見えてきた。
港の一角に”呑竜”が停泊しているのが見える。
昨日から、寄港しているはずだ。(百目鬼ネットで調べている)
「約束は、覚えているかな?」
”水無月”は着水シークエンスに入った。
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