第7話、ソダーツX
「今回は、災難だったな~」
「もう夜も遅い。 一旦本艦に乗艦しないか。報告書のこともあるし」
気安い男性の声が、”文福茶釜”の無線から聞こえてくる。
「いいんですか?」
「歓迎するよ。お風呂もあるし」
「!!」
「寄らせていただきますっ」
(やった。 翼の上で生暖かい簡易シャワーはもういいよ)
「左格納庫が空いてるから、そちらにどうぞ」
「ありがとうございます」
”文福茶釜”の艦の横の真ん中にある、”飛空艇格納庫”の扉が上に開いた。
前後に二本格納用のアームが下りてくる。
”水無月”の前後をアームが掴んで固定したのを確認して、主翼を上に折りたたんだ。
そのまま、90度上の持ち上げられ、機体下部を外に向けた形で格納庫に収容される。
格納庫の扉が上から下に閉まった。
コックピット横に延ばされた、タラップに這い出るように乗る。
「90度横転式の格納庫なんて、訓練学校以来だな~」
「ようこそ、”文福茶釜”へ」
「ありがとう」
出迎えの乗組員の案内されて、ブリッジに向かった。
「戦艦、”文福茶釜”艦長トウジョウだ。楽にしていいよ」
50歳前半くらいの男性が艦長席から立ちながら言う。
陸軍の茶色をした軍服の上着を着崩して、草臥れた艦長帽を被っていた。
(無線の人。 艦長だった……)
「艦長っ」
隣に立つ、黒い髪に、黒縁眼鏡をつけた生真面目そうな女性が声を上げる。
年は20代前半か、茶色のタイトスカートの軍服が地味ながらも良く似合っている。
「この艦の副長である、カオリ・セイカ大尉であります」
ビシッと敬礼をしながら答えた。
「硬い、硬い~。 陸軍が海上で肩ひじ張ってどうすんの」
「艦長っ」
「海軍気象部所属、メグミ・タチバナ中尉であります」
敬礼を返した。
ブリッジの壁かけ時計は、夜中の11時30分を指している。
「もう、夜も遅いよ。 報告は明日にしよう」
今回のような不測の事態には、海藻が原料の”紙”に記録された報告書の提出が義務付けられている。
「カオリ君、あとは任せたよ」
一旦、”水無月”に寄って着替えを取ってきた。
その後、カオリ大尉に、個室に案内される。
「今日は、この部屋を使ってください」
「私も、入浴はまだです。 この部屋でお待ちください。 案内します」
一緒に入浴することとなった。
カオリ大尉は、165センチくらいで小柄だが、眼鏡を外すととても美人だった。
着やせするのか、胸部装甲が半端なく立派である。
思わず二度見したことを誤魔化すように、風呂場の壁の絵に目を向けると、
「本物の富士山は山頂まで段々畑なんですよね」
「肥料にしている魚の体内に残る、”ソダーツX”の影響が、心配されてます」
陸地の畑は陸軍の管轄だ。
カオリが、髪を洗いながら言った。
◆
開発当時流行っていたナノマシンを使用した、成長促進薬”ソダーツX”。
第三次世界大戦前の、深刻な食糧不足のために、”大国連合”が共同で開発した薬である。
生物の巨大化を促進するが、成長速度は変わらないため、大戦の勃発を止めることは出来なかった。
また、陸上の生物や植物に使用すると、体の巨大化に耐え切れず自重で自死するため適さない。
”大異変”の時、製造工場と大量に保管していたタンクが海の底に沈み、現在の”海洋生物の巨大化”を引き起こしたと言われている。
◆
「う~ん」
メグミは、自分の胸に両手を当てて、大きさを確かめながら、改めてカオリの立派な二つの山をチラ見した。
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