第8話、スパイラル

「いや~。揺れない床はいいわ~」


 小さな飛行艇の翼の上に比べて、巨大な戦艦の個室は、ほとんど揺れないに等しい。

 お風呂から上がった後、部屋に案内されてぐっすり寝た。

 (寝る前に、は大きければ大きいほど良いのだろうかと悩んでしまったが)

 どんな状況下でも寝れるように訓練はされているが、快適に寝れる方が良いに決まっている。


 夜が明けた。


 カオリ大尉が朝食を食べるために、食堂まで案内してくれる。

 そのまま一緒に食べる。


 やはり、乗組員が沢山乗っているとはいえ、女性の比率は低いのか、メグミを見ようと男性が集まっていた。


 メグミが男たちに小さく手を振っていると


「もうっ。解散ですっ」

 タイトスカートの軍服をビシッと着こなしたカオリが、仁王立ちで言う。


「わ~」

 とわざとらしい声を上げながら散っていくの男たちを、メグミはクスクス笑いながら見ている。


「うちの男たちは、ほんとバカなんだから」


(半分くらいは、カオリ大尉に怒られるために集まってるな~) 


 朝食は、青魚がメインだった。


「青魚の、DHAで人類全体のIQの平均値が上がっているそうですよ」

 メグミは、最近読んだ学術論文の内容を話した。


 朝食を食べ終わった後、昨日の事件の書類を作成する。


 ”水無月”のコックピットの真ん中にある、メインモニター状のタブレットPCを外して持ってきている。

 ちなみに、”水無月”には、これ以外の電子機器は搭載されていない。

 残りは全て機械式である。


 空気清浄機のある、密室でPCのキーボードをきれいにする缶状の”エアダスター”をメインモニターにかける。

 所詮、エイプリルフールは玩具である。

 メインモニターの汚染は無くなった。

 PCのデータも使って書類を作成する。


 作成し終わった後、合成コーヒーで一服していると


「あー。メグミ中尉。メグミ中尉~。ブリッジまで来てくれ~」

 艦内放送で、艦長に呼ばれた。


 艦の前方にある平型のブリッジに着いた。


「ちょっとあれを見てよ」


 ブリッジの横に突き出しているウイングデッキに出た。


「スーパーハリケーン?」

 双眼鏡で確認する。


「先日通り過ぎたやつだよね。あれ」

「戻ってきてないか」


「……スパイラルを起こしているのかもしれません」



 スーパーハリケーンの移動はほとんど予測できないが、その中でも不可解な動きをするのが”スパイラル”もしくは”スパイラルを起こす”と言われる現象である。


 その名の通り、らせん状に回りながら移動する。

 流石に滅多に起こらない現象である。

 今回の様に、同じスーパーハリケーンに2度3度遭遇して危険な反面、データをとる機会も同じように増えるため、気象部員を複雑な気持ちにさせるものである。



 メグミはメインモニターを起動し、ポケットから小さな手帳を出しペラペラめくりながら、気象データを確認する。


「確かに戻ってきているようです」

「(飛行艇を)上がらせてください。データを取りに行きます」 


「……無茶したら駄目だよ」

「それと、一つお願いがあるんだけど」

 申し訳なさそうに、ある人物を呼ぶように、指示を出した。

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