第6話、タイタンホエール(成体)
メグミは海面すれすれを、”文福茶釜”に向かって飛んだ。
”文福茶釜”の周りが一瞬、真昼の様に明るくオレンジ色に染まる。
ドオオオン
オレンジ色の30センチ砲弾が、ものすごい勢いでメグミの斜め上を飛んでいく。
ゴウッ
「ひゃっ」
メグミが可愛い声を出す。
砲弾が通りすぎた瞬間、開けっ放しのコックピット内に空気の塊が入ってきた。
着水の瞬間、砲弾は4枚のエアブレーキを後ろに開き、花の様にくるくると回る。
ポチャンという感じでタイタンホエールの子供の少し離れた所に落ちた。
クジラを呼ぶ声?を流し始めるだろう。
ドオオオン
2発目が発射される。
1発目の大砲の煙のシルエットが、”文福茶釜”の周りの夜空に浮かび上がった。
2発目はさらに沖の方に撃ち込まれる。
近くにいる”タイタンホエールの親”を呼ぶためである。
タイタンホエールは大変頭が良い。
タイタンホエールの生態が良く分からなかった昔、タイタンホエールの子供を殺害した艦が、その子供の群れに追いかけ回され、最後にはなぶられるように沈められる事件があった。
その時、まわりに複数、船がいたにもかかわらず、殺害した艦だけを狙ったそうだ。
危害を加えなければ温厚ではあるが。
◆
「次弾装填」
「艦長。ソナーに感あり」
「約100メートルの巨大なものが海底から急速に浮上してきます」
「数は4。クジラの鳴き声を確認」
「タイタンホエールの親と思われます」
「両舷反転、艦を止めろ」
「タイタンホエールの親を刺激するなよ~」
「了解」
「”水無月”、親が浮上してくる。 くれぐれも刺激しないように」
「わ。分かりました」
一度”文福茶釜”の上空を回り、近くに着水させた。
即座に翼の上に出て双眼鏡でタイタンホエールの方を見る。
4体のタイタンホエールは、浮上と同時に”ブリーチング”(大ジャンプ)をした。
その時の起こった大波は一瞬タイタンホエールの子供を宙に浮かばせるほど大きなものだった。
「乱暴だ~」
流石にタイタンホエールの子供は、親に気づいたようだ。
その後ゆっくりと、4頭と子供がこちら泳いで来る。
「ちょっ」
「動くな~」
”文福茶釜”から無線で言ってくる。
気が付くと”文福茶釜”と”水無月”は、さらに2頭増えて6頭と子供のタイタンホエールに囲まれていた。
”水無月”の翼のすぐ横を巨大なクジラがゆっくりと通り過ぎる。
(ひいいいいいいい)
クジラの巨大な黒い目が目の前にある。
声が出ない。
クジラの黒い目が、しばらくメグミを見つめた後、
「キュイッ」
と鳴いた。
「「「キュイッ」」」
周りのタイタンホエールも続けて鳴く。
礼のつもりだったのだろうか、タイタンホエールの群れは静かに海底に沈んで行った。
メグミは、タイタンホエールが去った後へなへなとその場にしゃがみ込む。
腰が抜けてしばらく立てなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます