第6話、タイタンホエール(成体)

 メグミは海面すれすれを、”文福茶釜”に向かって飛んだ。

 ”文福茶釜”の周りが一瞬、真昼の様に明るくオレンジ色に染まる。


 ドオオオン


 オレンジ色の30センチ砲弾が、ものすごい勢いでメグミの斜め上を飛んでいく。


 ゴウッ


「ひゃっ」

 メグミが可愛い声を出す。

 砲弾が通りすぎた瞬間、開けっ放しのコックピット内に空気の塊が入ってきた。


 着水の瞬間、砲弾は4枚のエアブレーキを後ろに開き、花の様にくるくると回る。

 ポチャンという感じでタイタンホエールの子供の少し離れた所に落ちた。

 クジラを呼ぶ声?を流し始めるだろう。


 ドオオオン


 2発目が発射される。

 1発目の大砲の煙のシルエットが、”文福茶釜”の周りの夜空に浮かび上がった。

 2発目はさらに沖の方に撃ち込まれる。


 近くにいる”タイタンホエールの親”を呼ぶためである。


 タイタンホエールは大変頭が良い。

 タイタンホエールの生態が良く分からなかった昔、タイタンホエールの子供を殺害した艦が、その子供の群れに追いかけ回され、最後にはなぶられるように沈められる事件があった。

 その時、まわりに複数、船がいたにもかかわらず、殺害した艦だけを狙ったそうだ。

 危害を加えなければ温厚ではあるが。



「次弾装填」

「艦長。ソナーに感あり」

「約100メートルの巨大なものが海底から急速に浮上してきます」

「数は4。クジラの鳴き声を確認」

「タイタンホエールの親と思われます」

「両舷反転、艦を止めろ」

「タイタンホエールの親を刺激するなよ~」

「了解」


「”水無月”、親が浮上してくる。 くれぐれも刺激しないように」


「わ。分かりました」


 一度”文福茶釜”の上空を回り、近くに着水させた。

 即座に翼の上に出て双眼鏡でタイタンホエールの方を見る。


 4体のタイタンホエールは、浮上と同時に”ブリーチング”(大ジャンプ)をした。

 その時の起こった大波は一瞬タイタンホエールの子供を宙に浮かばせるほど大きなものだった。


「乱暴だ~」


 流石にタイタンホエールの子供は、親に気づいたようだ。

 その後ゆっくりと、4頭と子供がこちら泳いで来る。


「ちょっ」


「動くな~」

 ”文福茶釜”から無線で言ってくる。


 気が付くと”文福茶釜”と”水無月”は、さらに2頭増えて6頭と子供のタイタンホエールに囲まれていた。

 ”水無月”の翼のすぐ横を巨大なクジラがゆっくりと通り過ぎる。


(ひいいいいいいい)


 クジラの巨大な黒い目が目の前にある。

 声が出ない。


 クジラの黒い目が、しばらくメグミを見つめた後、


「キュイッ」

 と鳴いた。


「「「キュイッ」」」 

 周りのタイタンホエールも続けて鳴く。


 礼のつもりだったのだろうか、タイタンホエールの群れは静かに海底に沈んで行った。


 メグミは、タイタンホエールが去った後へなへなとその場にしゃがみ込む。

 腰が抜けてしばらく立てなかった。

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