第5話、文福茶釜

「帆をたため」

 自動でマストに張られた帆が折りたたまれる。


「スクリュー推進に変更」

「両舷全速前進」

「こちら、”文福茶釜”。主砲で大型の誘導弾を撃ち込みたい」

「測距の協力をお願いする」


「こちら、”水無月”了解しました」



 日本陸軍所属、帆柱搭載型弩級戦艦、”文福茶釜ぶんぷくちゃがま


 まだ、”海水酸素水素分離式エンジン”が発明されて無い時代に、消費燃料を可能な限り減らすため、弩級戦艦にマストを着けて帆船化したものである。

 マストは、スーパーハリケーンの時には、後ろに倒される。

 似たような機構が、飛空艇”水無月”にも採用されている。

 マストは前後に二本。

 主砲は、艦の前後に30センチ2連装砲を2基、4門。 

 魚雷発射管4門。

 艦の中央左右格納庫に、飛空艇を縦に2機、搭載可能。

 陸地が減った陸軍に回せる予算は少なく、年代物のロートル艦と言わざるをえない。

 しかし、シタデル構造(艦の中央に大事なものを集めて分厚い装甲で守る)は大変丈夫で、十分活躍している。


 ちなみに、”文福茶釜”とは、2世紀ほど前に考えられていた想像上の偉大な”守護霊獣”の名前、と言われているが正確な情報は喪失している。

(とても強くて素晴らしいものだったに違いない)



 メグミは、”水無月”を垂直離着水モードにして、タイタンホエールの上空にホバリングさせる。

 足元まで斜めに入った、ガラス越しにタイタンホエールを確認する。


「シロナガス型だな~」


 その時、

 

「うひゃああ」


 真横に、音響機雷の水柱が上がり、パラパラと空いているキャノピーから海水が入ってきた。


 操縦桿についているセレクターを親指で、”安全”から”赤光”に変えた。

 これで、測距用の赤いレーザー光が照射されるはずだ。

 ”文福茶釜”がサーチライトで自分の位置を知らしてくる。

 光学式の照準器を”文福茶釜”に合わせた。


 両手両足で機体を安定させながら、


「測距用のレーザーを照射する」


「3・2・1・ナウ」

 トリガーを引いた。


「もう一度、3・2・1・ナウ」


「ありがとう。測距は完了した」

 観測士が、計算尺を片手に答えた。(電卓も液晶)


「主砲弾が撃ち込まれる。周辺から退避を」


「了解」

 素早く通常飛行モードにして、”文福茶釜”の方に艇を飛ばした。

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