第138話 日米海軍の報復!ウラジオストク港壊滅!

「時間です」


「気の毒だ。ようやく終わったかと思った戦争が、こうも長引いてしまうとは」


 日本海は日米海軍のたまり場であり、ソ連領内の敵空軍基地や補給線に対し、両海軍の空母機動部隊が猛烈な攻撃を行う。当初は日中侵攻に使用される航空戦力を削ぐことに限った、間接的な自衛という正当性を掲げることで領内へ攻撃を続けた。しかし、直近の日米中外交会談で紛争の終わらせ方を合意すると、対ソ報復措置としてウラジオストク港爆撃を開始する。


 シベリア鉄道の終着点にして不凍港のウラジオストク港を破壊することは、ソ連の太平洋方面への進出を決定的に挫き、大陸国家なのだから海洋国家に歯向かうなとメッセージが込められた。


 ソ連も同港の防御を固めるが海軍力は遠く及ばない。機雷敷設や潜水艦封鎖で侵入を阻んだが、救助活動中の米海軍に被害が発生しており、無制限の全面介入の口実を与えた。潜水艦はドイツ海軍Uボートと死闘を演じた海上護衛総隊に駆逐され、機雷も高い掃海技術を持った掃海部隊により、どちらとも速やかに排除されている。


 そして、フリーとなったウラジオストク港へ艦載機の群れが襲来した。


「停泊中の艦艇があれば狙うが、なければ手身近な倉庫に爆弾を落とす。後方の敵機は頼んだぞ」


「米海軍の護衛戦闘機がおります。そうそう食いついては来れませんよ」


「そうだな。ソ連機は敵に非ず」


 ハルゼー艦隊と新四四艦隊から日米海軍合同攻撃隊の約300機が飛来する。先にハルゼー艦隊のF6Fが突入して敵機を追い払った。しかし、ソ連空軍は広大な中華の大地に割かれ、港の防空は対空砲と機銃に頼りがちである。暇な者は自機の頑丈さを信じて機銃掃射で対空を減じていった。


 ハルゼー艦隊のエセックス級は若いと1944年~1945年に就役する。新四四艦隊が老齢艦で構成されているのとは大違いだ。日本海軍は老朽化した空母を売却か解体し、新型の改大鳳型と特型超弩級装甲空母への更新する。既に多くの中型空母と護衛空母が姿を消すが大型空母は意地悪く残り続けた。これは大重量で離着艦に相応の距離を要する、各新型機の運用が比較的に容易なためである。


 新四四艦隊所属の流星隊は500kg陸用爆弾1発と250kg陸用爆弾2発を投下した。港湾に艦艇が見られれば優先する。目ぼしい艦艇が無いか友軍機が狙っている場合は倉庫を破壊した。倉庫には武器弾薬、食料が積み上げられて戦争に必要な物資を片っ端から焼いて回る。


 完膚なきまで港の機能を奪い去った。


「貨物列車に機銃を撃つが、先客はいなさそうか」


「いえ、守ると言わんばかりにヘルキャットが来ました。一緒にやろうと言っています」


「了解した」


 爆弾を投下し終えた後の流星は攻撃機にしては身軽である。必要最低限の自衛のために格闘戦能力が与えられた。戦闘機には負けても攻撃機には十分であり、低空まで降りて貨物列車に目標を定める。正規量産型である艦載型は機首に12.7mmを2門と主翼に20mmを2門装備した。


 すると、米海軍のF6Fが追従してハンドサインで共同を提案している。戦闘機の護衛がいることは喜ばしく、後部座席の機銃手も了承のハンドサインを返し、念のため軽くバンクを振った。


 日米英海軍は共同戦線を張ることが予想される。各自で艦載機の姿形と名称を共有して操縦手か機銃手か偵察手か問わない全員が網羅した。機内には識別用の冊子が用意され、新型機が登場すると逐一更新して頭に叩き込んでいる。


「対空砲火なし。やや低速で1個ずつ確実に削る」


 対空火器は戦闘機隊の機銃掃射により大幅に減殺された。敵機を撃墜するのは味方戦闘機の仕事である。対空火器は追い詰められた際の最終手段なのだ。日米海軍の猛烈な対空砲火はよく知られておる。いいや、あくまでも最終手段であって原則は戦闘機隊の迎撃に頼った。


 ダダダっと撃ち込むが手ごたえを感じない。どうやら、中身は空っぽで貨車を壊したに過ぎなかった。


「スカです」


「まぁ、いい。1個でも壊せば運べる量が減るだろう」


「ヘルキャットもダメだったと言っています。苦笑いです」


 ヘルキャットもスカを感じ取り苦笑いを浮かべる。仲良く並んで飛行していると食われ易いが、敵機の無い状況下では密に連携した方が心強かった。ベルト給弾式の機銃にはたっぷり残弾が残り、吐き出すだけ吐き出して母艦に戻り、第三次攻撃隊に参加する。


 第五次まで及んだ航空攻撃は一旦区切られた。港の設備をいっぺんに叩く艦砲射撃にバトンタッチする。ハルゼー艦隊から護衛の戦艦と巡洋艦がウラジオストク港に接近を試みた。残った空母機動部隊は日本海軍の防空艦とコルベット艦に護衛されて退避する。


 新四四艦隊はそのまま離脱するが、連合艦隊と交代した。


~夜間・ウラジオストク港~


 夜になったのを見計らって日米海軍の水上打撃艦隊はウラジオストク港に突入する。潜水艦の脅威は取り除かれて海上艦は先の大規模空襲で大半が沈んだ。戦時量産型駆逐艦が先導して戦艦と巡洋艦が突入する。


「砲撃開始!」


「Fire!」


 ハルゼーはアイオワ級戦艦『ミズーリ』を旗艦に定めたのを丁度良いと考えた。彼はハワイから訓練中のアイオワ級姉妹を連れて来ている。敢えてアイオワ級を選択したのはアメリカ海軍の威光を示すためだ。


 日本海軍連合艦隊は『長門』と『陸奥』を引っ張り出し最後の花道を用意する。長門型は最速27ノットで空母に随伴するには微妙に遅かった。よって、日米連絡や皇族の儀礼用で本土に留め置かれる。高速戦艦の金剛型4隻が快速を鳴らして暴れ回ったのを羨ましく思った。


 連合艦隊長官の田中頼三大将は普段こそ『皇国』(米軍名エンパイア)に旗艦を定める。しかし、皇国は日本海軍が世界最強であることを示すため、各国の観艦式に出席する回遊の予定が組まれた。この準備に追われてお休み中である。


「本当によろしかったのですか。長門を旗艦に定めないで」


「構わない。私が立っていると緊張してノビノビやれんだろう。最後はノビノビと思う存分にやって欲しいんだ」


「そういえば、長官は水雷屋でした。むしろ、『浜名』の方が居心地がよろしいのでは」


「それを言うなら、私は特型駆逐艦が一番だ。40ノットの快速で水雷戦をしていたよ」


 連合艦隊司令長官にもかかわらず、旗艦は新巡洋艦『浜名』に設定した。長門と陸奥を避けたのは、田中長官なりの配慮である。連合艦隊司令長官が睨む中で、艦砲射撃を行うのはえらく緊張した。最後の機会に緊張しきりでは、本来の力を出せない。そして、何よりもノビノビとやってもらいたかった。


 よって、長門・陸奥・アイオワ・ニュージャージー・ミズーリ・ウィスコンシンが盛大に41cm砲を撃ち放つ。戦艦砲の威力は凄まじく、港湾施設はみるみるうちに残骸と化した。夜間のため弾着観測機の水上偵察機を飛ばし、おそらく、水上機を用いた弾着観測射撃も最後だろう。


 また、旗艦は浜名型軽巡洋艦『浜名』だった。本艦は指揮通信能力の高い大淀型軽巡洋艦の改良型である。主砲の10cm連装両用砲は変わらないが、対空機銃が増加し、最新型電探に換装され、指揮通信能力も増強された。最前線戦闘よりかは一歩引いて連合艦隊の指揮を執る。彼は水雷屋出身のため、軽巡洋艦が狭いなど文句は一切言わず、逆に特型駆逐艦の方が身の丈に合うと笑った。


「陸軍さんが踏ん張ってくれた分をぶつける。シベリア鉄道を破壊されては、ソ連も慌てざるを得ない。それに、トルーマン大統領が重い腰を上げたようだ」


「ほう、それはどんな」


「残り1発だけ残っている切り札を日本に提供する用意がある。それでもの場合は新造した品をモスクワに投下するとね。いくらなんでも、限度があると怒り狂った」


「難しい話ですが、終わりそうなのは分かります」


 アメリカ政府は遂に重い腰を上げる。ヨーロッパ復興計画を進めたい思惑から、ソ連政府に対して「これ以上の侵攻はアメリカへの攻撃とみなす」と通達した。すぐに撤退しない場合は切り札を日本に譲渡する。更に、新造品をモスクワに叩きつけると脅した。


 中華民国侵攻は要塞線を突破できないで撃滅される。チチハルとハルピンはモッティ戦術の前に占領できなかった。千島列島への奇襲は守備隊に翻弄され、海峡を制圧されている。南樺太は頑強な組織的抵抗の前に遅々として進まなかった。自国内ではシベリア鉄道が断絶され、且つウラジオストク港が壊滅する。


 もはや、ソ連の面目は丸つぶれで勝利は無かった。


「そろそろ長官の座を降りれるかな」


続く

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