第136話 日米中外交会談

~前書き~

タイトルから分かりますが外交話です。苦手な方はブラウザバックを推奨します。


~本編~ 


ソビエト連邦による電撃的な中華民国及び日本侵攻を受け、国際社会(ソ連影響圏を除く)は多少の差異あれど、一様にソ連を非難する声明を発表した。特にイギリスは日露戦争の日英同盟を担ぎ出す。余剰兵器の供与と義勇軍の派遣をどこよりも早く表明した。アメリカは日中を資本主義の防壁にする思想から、大規模なレンドリースを継続し、戦後の復興計画を主導して資本を注入したい思惑が見え隠れする。


 そして、ダンバートン・オークス会議で骨組みが作られ、各地で開かれた会談で修正が加えられ、サンフランシスコ会議で最終決定を経た、国際連盟に代わる新たな組織の国際連合が仮の姿で登場した。


 ソ連侵攻が現在進行形であるが様々な外交が展開される。特に大きな決定を伴うものとして、中華民国の首都北京で大日本帝国、アメリカ合衆国、中華民国の外交トップが集結し会談の場についた。


 その名も北京会談である。


「今回の紛争について、終着点はどのようにするのか。是非とも、周恩来氏にお聞きしたい」


「我々の中華民国は侵攻を受ける前の国境線が望ましい。領土的な野心は一切なく、平穏を望んでおります。したがって、賠償金なども要求せず原状を回復することのみを求めたい」


「それを聞いて安心しました。アメリカ政府はソ連の東西にわたる膨張を危惧し、中華民国には支援を惜しまない姿勢です」


「ありがたいお言葉です。しかし、中華民国は過去の経験があります故に、一先ずは自分達で収束を図らせてもらいます」


 会談出席者である外交トップは大日本帝国より幣原喜重郎外務大臣、アメリカ合衆国よりジョセフ・グルー国務長官、中華民国より周恩来外務部長の顔ぶれだった。グルー氏は駐日大使から国務次官を経て、トルーマン大統領の就任と同時に国務長官に就任する。


 そして、中華民国からは周恩来外務部長が外交を担った。本世の周恩来氏は日本留学を契機に共産党ではなく国民党に所属し、優れた外交手腕を発揮すると汪兆銘政権の外務部長に引き抜かれる。現時点こそ外交のトップだが将来的には汪兆銘政権を引き継ぎ、周恩来政権が樹立することが確実視された。


 幣原喜重郎外務大臣も往年の外交トップで知られる。国際の舞台で協調外交を展開し、日英同盟を基にアメリカを排した世界外交は見事に尽きた。その手腕から「バロン・シデハラ」と恐れられる。今回は新しい国際体制を見越した仲介役を務め、米中間の微細な調整に精を出した。


「そろそろ、本題に入りましょうか。ソ連の暴挙でかなり遅延しておりますが、国際連盟に次ぐ国際連合について最後の詰めを行いたい」


「えぇ、三度目の世界大戦を防ぎ復興を助ける世界平和、恐慌を予防し速やかな回復を目指す世界経済の発展を目指す国際連合です」


「国際連合の基幹として大国で構成される、安全保障理事会の常任理事国は我々ですからね」


 ダンバートン・オークス会議で練られて同意された草案はサンフランシスコ会議で各国の批准を得ている。結果的には失敗に終わった国際連盟の反省から、新しく国際連合が発足する見込みだ。しかし、現在はソ連の日中侵攻で一時保留にされ、事態の収束を待って速やかな再開を目指す。


 そんな国際連合の中でも基幹となる組織が安全保障理事会であり、加盟国に対して法的拘束力のある決議を行えた。したがって、事実上の最高意思決定機関と言え、各会議後も調整が続かざるを得ない。すでに合意した草案では5カ国の常任理事国と10カ国の非常任理事国の計15カ国で構成された。


 特に常任理事国は強力な拒否権を有する。よって、第二次世界大戦における戦勝国の中から多大な貢献をした国から選ばれた。現時点での暫定常任理事国はアメリカ合衆国、大英帝国、フランス共和国、大日本帝国、ソビエト連邦である。対枢軸国戦を最初から矢面に立った三カ国に途中参加ながら奮戦した二か国を加えた。しかし、ソビエト連邦は国際連合の発足直前に日中侵攻の愚を犯している。とてもだが許容できるわけがく、主要国はソ連を排除した上で中華民国を常任理事国に格上げした。


 最終的な常任理事国は米・英・仏・日・中の五カ国である。


「この戦いで分かったのは集団防衛の重要性です。一時的な同盟による集団防衛は可能でも、その度に調整しなければならないのは至極面倒と言えます」


「おっしゃる通り。アメリカはヨーロッパを睨みドイツに境界線を引き、対ソ連の集団防衛を想定していました。両国に攻め入る愚行を見聞きし、ヨーロッパの緊張は和らぐどころか過熱している」


「私どもはアジア諸国の集団防衛に関する多国間条約を定めるつもりです。この条約と太平洋体制を組み合わせ、ソ連の脅威に立ち向かう気概を有するに至りました」


「世界は三分割される。二分割よりは三分割の方が持ちつ持たれつで好ましい」


「いわば、三国志ですな。戦乱の世が回避されることを望みます」


 ジョセフ・グルー氏も周恩来氏も戦後世界の新秩序について、大きくは共通した予測を立てる。二度に及んだ世界大戦の当事者たちは集団防衛が有効と学んだ。その時々に条約を結び同盟など協力体制を構築するが、逼迫した状況下では間に合わなかった。現に対枢軸国戦では日英仏蘭同盟が存在したにもかかわらず、緒戦は隅々まで協調できないでドイツの快進撃を止められない。


 この反省から予め集団防衛を定めておき、各国で合意することで、迅速な対応に繋げた。集団防衛の都合で地理的な枠組みが多い。代表的なものとして西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アジアの3つが挙げられた。ヨーロッパが東西に分けられているのは戦後ドイツ問題から生じている。


「ドイツの徹底的な解体は火種にしかなりません。これを回避したのは僥倖です」


「モーゲンソー・プランの件は大変助かりました。私も国務長官の立場から反対しています」


 戦後ドイツは事実上の解体状態にあった。米英仏で三分割した西ドイツとソ連分割とポーランド編入の東ドイツが存在する。ドイツに引かれた東西の境界線でヨーロッパは分断された。ただし、これでも優しい方であり、当初のモーゲンソー・プランはドイツ滅亡を示している。


「しかしながら、東西ドイツというのも…」


 西ヨーロッパは西ドイツを含めた英仏を中心に文字通り西側諸国だ。アメリカは伝統的な孤立主義が足を引っ張り続け、未だに議会の同意を得られておらず法制化を待つ。彼らは領土的野心を滾らせるソ連に対抗するため、アメリカを引き入れ、ドイツを抑え込みたかった。


 東ヨーロッパは東ドイツを含めたソ連と傀儡国から構成される。バルト三国への侵攻やポーランド侵攻で傀儡国に仕立て上げた。この手口は昔から同じで日中は電撃侵攻を予測し阻止している。ソ連が占領した国々は概して共産党政権が誕生しており、言わずもがな、ソ連の傀儡国と化した。おそらく、ソ連は英仏の動きを注視して同規模の集団防衛の枠組みを作るだろう。


 アジアは一定の緊張こそ漂ったが、至って平穏であり、旧植民地からの独立を果たした。日本の委任統治領だった時期を挟んでいるが、実際は独立の下準備であり、決して悪い時期ではない。日本への留学から帰って来た指導者を迎え、イギリスやフランス、オランダから独立した。もっとも、独立後は不安定なため、日本政府および日本軍の関係者の協力を仰ぐ。独立間もないアジア諸国を大日本帝国と中華民国が牽引して、東西ヨーロッパの軍事同盟と並ぶ一大太平洋体制を創設した。


 なお、太平洋体制には友邦国として、オーストラリア、ニュージーランド、カナダが参加する。さらに、イギリス、フランス、オランダ、ベルギーが日本の仲介で関わった。直接に関わることは少ないが、非常時の際は協力する姿勢である。


 これが何を意味するのかというと、世界は三分割されるのだ。


 そして…


「東西の睨みあいの時代が始まります」


続く

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