第116話 ベルリン突入

1945年4月20日


「本部へ!重戦車隊はベルリンに突入した!繰り返す!重戦車隊はベルリンに突入したぁ!」


 最前線では絶叫が響き渡り多国籍の旗を刻んだ戦車隊が障害物を乗り越えて市街地に突入した。ベルリン特急作戦により西方の郊外に張り付いた連合国軍はフランス方面のアメリカ軍と合流する。戦車を前面に押し立てて分厚い防御線の突破を試み、遂に市街地へと突入することに成功した。パットン将軍の政府の意向を無視した英断により、重戦車隊はT26E3パーシングを加え、チリとホリ、パーシングの3種が少数ながらもティーガーⅡを撃破していく。チャーチルMk-ⅦやM4A3E2ジャンボも持ち前の重装甲を以て、対戦車砲や対戦車自走砲を苦しめた。長砲身88mm砲を有するヤークトパンターが脅威となるが数は少ない。潜んでいそうな地点に10cm榴弾砲や15cm榴弾砲を装備する、ホイⅠ/Ⅱ/ⅢとM7、M12自走砲が榴弾の雨を降らせ撃破した。ただ、市街地となれば建物が多く見られる。仮に崩れていても、歩兵が潜んでパンツァーファウストと共に待ち構えた。


 市街地への侵入を阻んで防ぐ防御線を突破したからと言って、一切安心はできない。重戦車隊は入り口それぞれに分散し、砲戦車・自走砲、随伴歩兵を務める機械化歩兵と合流した。市街地は建物が多い都合で側面や背面に敵戦車が出現する可能性は低く、全周囲に対応し辛いのが致命的な弱点である固定戦闘室の自走砲も戦い易い。


「戦車に続け!この戦争を終わらせる!」


「歩兵砲用意!弾種榴弾!」


「機関銃急げ!」


 そこら中から指示が飛び交うのは大混戦の様相を呈しご愛嬌である。日米英仏蘭加豪波の多国籍連合国軍がドイツ軍と対峙した。唯一の共通点は戦車の後ろから歩兵が攻撃していることだろう。日本軍は重戦車隊を英米戦車隊に貸しているため、歩兵は専らチト又はチハⅢ、ホイⅡの後方に位置した。現地改造で30mmの装甲を溶接で追加し、75mm対戦車砲ならば一定程度の防御力が見込める。もっとも、歩兵が対戦車砲を排除すべきであり、歩兵砲や重擲弾筒と言った重火器が用意された。


「隊長!重擲弾筒に臼砲、歩兵砲まで来ました!」


「手違いが過ぎるのは気にしない!砲身が焼けるまで撃て!」


 突入した歩兵部隊の中でも、目覚ましい戦果を挙げたのが船坂弘軍曹の率いる擲弾筒分隊だった。日本独自の重擲弾筒を運用したが敵首都と言う最前線故に混乱している。届いた火器は重擲弾筒専用の40mm重榴弾に限らず、九八式臼砲や五十七粍歩兵砲も来た。彼らの分隊は叩き上げの真の精鋭で知られる。過去には武器弾薬を現地調達して戦い抜いた経験を有し、自軍の武器にも精通して操作方法が分からないなど甘ったるい言葉を吐かなかった。


 船坂弘軍曹の人望に惹かれたのか自然に隊長を失った残存兵も寄り集まる。まさに、大所帯を為して臼砲と歩兵砲は寄せ集められた兵士に任せ、船坂本隊(本体)は重擲弾筒から榴弾を発射し続けた。


「戦車が!」


「建物に敵兵がいるぞ!」


「臼砲でふっ飛ばしてやるさ!」


 前面で榴弾を発射しては機関銃を乱射するチハⅢが撃破される。一部始終を見ていた味方が建物に潜む敵兵を発見した。やはり、崩れた建物からパンツァーファウストを撃ち込まれたようである。建物内では無反動砲特有の強烈なバックブラストが生じた。射手が危険に冒される恐れがあれど、祖国のためならば関係ない。敵兵の勇敢さには敬意を表したいが戦場だった。


 情け容赦を知らない日本軍は切り札の九八式臼砲を繰り出す。口径330mmという戦艦砲に匹敵しながら広義のロケット臼砲に該当した。木製又は金属製の簡易的な筒に差し込み発射する。この砲身を持たない様子から『ム砲』と呼ばれるが、その見た目からは想像できない圧倒的な破壊力を誇った。射程距離こそ短い曲射が基本でも軽量で歩兵が運搬できる機動力の高さは連合国軍も驚嘆する。日本の独自性に舌を巻かざるを得なかった。


「耳を畳めぇ!爆風に備えろ!」


 精度は必ずしも良くなく目標の建物から少し外れて着弾する。しかし、内部に秘めたる威力を以て補った。着弾時の耳をつんざく轟音と鉄筋コンクリート製の建物を砕いたことは全軍の士気を引き上げるに十分が過ぎる。


 ただ、むくっと起き上がって機関銃を構える敵兵が見えた。


「舐めるなぁ!」


「さすがの隊長だ。不死身の分隊長の名に偽りなし」


 船坂弘軍曹は機関銃を持った敵兵を捕捉するや否や9mm機関短銃を見舞う。機関短銃の有効射程距離から少し遠いが、経験豊富な彼は見事な狙撃を見せつけた。短機関銃を使った狙撃は稀有と思われよう。いや、実は広く行われた実例が存在した。冬戦争において、フィンランド軍は猟師の性質を帯びる兵士にスオミ短機関銃を持たせる。彼らは常識外れの短機関銃による狙撃を以てソ連軍の攻撃を幾度となく弾き返した。


「ありったけの弾を持って来い!歩兵砲に負けるなぁ!」


「砲戦車が前に出てきました!」


「よし、射程を調整して…」


 チハⅢに代わりホイⅡが到着する。ホイⅡの25ポンド砲は曲射と直射を両立させ最前線に出ても何ら問題なかった。味方車両に誤爆しては洒落にならないと重擲弾筒の射程距離を調整する。重擲弾筒が調整に追われる間は歩兵砲が埋めた。歩兵砲は長らく旧式化した37mm対戦車砲を改良して運用している。しかし、イギリス軍より6ポンド・57mm砲の提供を受けて交代した。本来は対戦車砲だが17ポンド砲に主力の座を譲ると、小型軽量の強みを活かして空挺部隊でも使う歩兵砲に変貌を遂げる。もちろん、57mmの榴弾及び榴散弾が用意された。


 ベルリン突入は多国籍の兵器が際限なく投入されている。


 若干のタイムラグを挟み後方のオランダ司令部はドイツ政府の動きを気にした。


~オランダ・アムステルダム司令本部~


 アムステルダムは日英軍が司令本部を設置した。後にアメリカ軍のパットン将軍が参加して結果的に、ベルリン突入に際する全軍の指揮権が集中する、一大本部にまで成長した。


「未確認情報だが、ドイツのドレスデンが再び爆撃されたらしい」


「ドレスデンに固執しているのですか」


「いや、噂で聞いた新型爆弾が投下された。同時にソ連軍が東部からの攻撃を躊躇したのは解せん」


「ソ連軍が攻撃を躊躇うのは変な話です」


 パットン将軍は陸軍の伝手でドレスデンが爆撃され、東から攻め入るソ連軍が攻勢を停止したことを知った。戦車戦を専門とするため空軍のことはさほど詳しくない。それでも、ソ連軍が躊躇する程の爆撃であれば噂により漏れ聞いた新型爆弾と察した。あくまでも、パットン将軍の私的な予想に過ぎないが、山下大将は全体像を速やかに把握する。


「これはチャンスだ。ソ連軍が入る前に我々が中心まで到達し、無条件降伏を突きつけよう」


「ドイツ軍はソ連軍よりも連合国軍に降伏することを希望すると聞きました。一番乗りを果たせばあっという間に崩れましょう。これも、パットン将軍の英断のおかげです」


「いやぁ、山下将軍の柔軟な判断もある」


 パットン将軍は戦車戦の第一人者であり、根っからの戦争屋を自他共に認めた。しかし、アメリカ軍は出遅れてドイツ機甲師団と正面衝突した日英機甲師団を先駆者にする。現在のベルリン特急作戦では本国から強引に許可を得てT26E3パーシングを投入させた。ティーガーⅡに代表されるアニマル戦車軍団を打倒して首都突入に繋がる大英断を下している。


「しかし、無理に突っ込ませても、抵抗を激しくさせるばかり。上手に加減して無条件降伏を引き出さないといけません」


「むぅ…私が苦手とすることだぞ」


 悩むパットン将軍だが、事態は急展開を迎える。


 あっさりと終焉は訪れるものだ。


続く

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