第107話 デンマーク解放

~前書き~

後半に政治的な要素があるため、苦手な方は読み飛ばすことをお勧めします。

※実在する国や地域、団体、個人とは一切関係ありません

※政治的な主張を行う意図は一切ございません


~本編~


1945年1月1日


 年明けの日であるが大日本帝国海軍は膠着した戦況を崩すため、解放が及んでいないデンマークに上陸した。デンマークはヴェーザー演習作戦により占領されたが末期に近づくと解放の空気が漂う。ドイツ軍は大半の戦力を東西に割かれており、北方に割く余剰が無かった。また、本土防衛を固めるため数少ない兵力を引き抜いている。暗号解読の結果としてデンマークの守備兵力は僅かと判明した。懸念すべき空軍基地も空であり比較的容易に上陸できる。


 大日本帝国は海軍力で圧倒してドイツ海軍は敵でなかった。唯一の脅威であるUボートは護衛空母と対潜哨戒機の大量投入で封殺できる。敵がバルジ攻勢と春の目覚めに力を入れている虚を衝いた。


 デンマーク西部のエスビアウ港に海軍陸戦隊1500名が上陸する。


「港を守る敵は僅かで戦車を破壊されると即座に降伏しました。我が方の損害は微小で済み、もはや完勝と言って差し支えありません」


「陸戦隊はよく頑張ってくれた。しかし、東のコペンハーゲンは健在でバルト海からUボートが出張する危険は高いままだ。港の復旧を進めてイギリス本土からの増援を迎え入れる準備を急げ」


「ブレーメンやハノーファーへ多国籍爆撃機が向かい、ブレーマーファーフェンにはアメリカ海軍の旧戦艦が艦砲射撃を行っています。敵の目は自国本土ばかりに向いているかと」


「海上の脅威はなかろう。しかし、陸上から迫って来るのは否定できない。一秒でも早く増援を迎え入れねば奪還される」


 イギリス本土から陸戦隊を護衛して全体の指揮を執るのは木村少将である。精鋭水雷戦隊を率いて敵戦艦を撃沈したり、強襲上陸した敵軍の背後を断って実質的に潰滅させたり、等々の戦果を誇り田中頼三大将と並ぶ英傑だった。しかし、自身は昇進を蹴り続け前線勤務を望むとデンマーク解放の任を与えられる。


 木村少将は奇襲効果を高めるため水雷戦隊(軽巡1・艦隊駆逐10)に特設水上機母艦2隻を加えた護衛艦隊を設定した。本命の陸戦隊は強襲上陸艦をグレードダウンさせた戦時量産型揚陸艦の『ゆうなぎ』『だいきち』『やまさ』に500名ずつ乗っている。これらは海軍の強襲上陸艦をコンパクトに簡素化を加え生産性を高めた。最大1000名まで武装兵士を積載可能であり、小型でもクレーンがあるため戦闘車両も運搬できる。


 量産を前提にした都合で本格的な強襲上陸艦でないため護衛艦を必要とした。木村少将はフィヨルドに突入した経験より、敵にとっては寝耳に水の完璧な奇襲を成功させる。護衛艦は内海に侵入すると可能な限り港の設備を外した上で観測機を介した砲撃を行った。水上機母艦は水上爆撃機を発して敵戦車を撃破する。どうやら、とっくに旧式化した二号戦車が警戒に従事していた。対戦車火器を持たない陸戦隊には十分な脅威となる。早々に排除して正解だ。


「東方のコペンハーゲンまで制圧すると、このバルト海を完全に封鎖できる。ドイツのUボート基地はバルト海にあり、噂の新型も外海まで出られなくなる。そして、南下すればハンブルクが見える」


「外交的にも正当性が高まります。デンマークを解放する意味は大きいと」


「まぁ、私は海軍の軍人だ。これ以上の事は慎むよ」


 デンマーク解放は大日本帝国単独で行われた。オランダとベルギーに日本軍は展開するが、主要な戦闘地帯はアメリカ・イギリス・フランスの三カ国が中心である。休養を経て海軍の陸戦隊は順調に戦力を拡充し、港の確保など海軍であるが故に可能な作戦に投入された。


 しかし、デンマークを解放することの意味は必ずしも薄くない。西方のエスビアウ港を起点に東方のコペンハーゲンを目指した。増援としてイギリス本土にて待機する陸軍やカナダ軍が到着次第に東進する。コペンハーゲンは内海であるバルトと外海を繋ぐ要衝であり、地理的に外界への進出手段が必須条件のドイツにとって生命線だ。相応に防御は堅いと思われ東進に併せて海軍の機動部隊が大規模な爆撃を行う。そうして封鎖に成功すれば、新型Uボートを建造するバルト海と外海を断絶できる。唯一恐れるべきUボートが出られないと知れば安心は頂点に達した。


 また、デンマークの解放で日本の正当性を高められる上に交通の要衝を抑えた事は大戦果に数えられる。ヨーロッパ戦後交渉で極東の大国の存在感を増すことに直結した。木村少将は職業軍人だが本土にて大戦略を練る皇国の研究所に智将の存在感を認める。


(詳しい事は分からないが九死に一生を得た堀元帥の差し金だろう)


~日本本土~


「建造計画は装甲大型空母と小型艦に切り替わりましたが、もう敵海軍に我らを止める術はなく」


「戦艦1隻を作るだけで何隻も駆逐艦を建造できます。皇国を除き基本は空母と小型艦でよろしい。余った旧型艦は各国に譲渡すればよい」


「旧戦艦でティルピッツを沈めただけはあり、堀大将の言うことには重みがあります」


「ご勘弁を。あれはイギリス海軍の戦果なので」


 長谷川大将と語り合うは驚くべきことに堀大将であった。御大将は日露戦争の英傑である旧戦艦3隻を率いてコーフィヨルドを襲撃する。ドイツ海軍戦艦『ティルピッツ』をイギリス海軍と協同し撃沈する囮を務めあげた。新鋭戦艦を相手に数的有利があれど30cm砲4門ではたかが知れる。したがって、榴弾による火災誘発や構造物破壊を与えてイギリス海軍へバトンタッチした。


老兵艦隊『富士』『朝日』『敷島』の三隻はティルピッツの砲撃と護衛艦の雷撃を受けコーフィヨルドに沈んだ。しかし、3隻の働きは無駄ではなくイギリス海軍の空母から発した攻撃隊が殺到する。傷ついたティルピッツに対し猛爆撃を加えて大破させることに成功した。雷撃機を持たないため沈めるまでは至らずとも、バラクーダ爆撃機やヘルキャットが爆弾を投下する。艦上構造物は完膚なきまで破壊されて戦闘に耐え得るとは思わなかった。


 ティルピッツ大破で作戦目標は果たしたが堀大将ら人的被害は無視できない。海に放り出された兵士たちは溺れかけたが、イギリス海軍の駆逐艦が決死の突入を敢行すると敵前で救助活動を行ってくれた。主砲弾薬庫誘爆に伴い爆沈した『朝日』は絶望的だが、雷撃を受け沈んだ『敷島』は比較的に生存者は多く救助される。『富士』も自慢の重装甲が功を奏して辛うじて生き残った。


「それより、こんな老体が生き残って若者を多く失ってしまった。生涯恥ずべきことであり、長谷川さんには顔向けできません」


「確かにそうかもしれません。ですから、我々は祖国のため世界のため戦わねばなりません。本土及び委任統治領は穏やかに成長している」


「罪滅ぼしになるかは分かりません。まずは、デンマークを解き放ち北部から圧迫を加えます。西から攻め入る連合国軍が遅れるのは仕方ない」


 フランス・ベルギー・オランダの三カ国の西方から迫るのが連合国軍である。ソ連軍は東部戦線の文字通りで東から迫った。ドイツの首都ベルリンが東寄りに位置した以上はソ連軍が早くて当然だろう。事実としてベルリンまで徐々に徐々に接近しては大激戦が繰り広げられた。


「日本はアジアですからね。戦後の欧州についてはイギリスとフランスに任せましょう。ただ、我々は中央アジアに着目して石油資源を確保する」


「交渉は進んでいますか?」


「米内さん曰く、イギリスは問題ないがアメリカの反応が強いと」


「でしょうな。しかし、ここの石油資源は日本が握る」


続く

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