第99話 欧州同盟艦隊

1944年11月


 連合国を構成する日英仏の三カ国に蘭を加えた日英仏蘭四ヶ国同盟は動いた。四ヶ国は新しいヨーロッパ秩序に向けて後の歴史に刻まれる史上最大の大艦隊を創設する。


 大艦隊を統率する山口多聞大将は簡潔に告げた。


「四カ国の旗を掲げよ」


 手際よくスルスルと各国海軍の旗が掲げられた。現在は大規模な作戦行動中のため士気高揚に丁度良い。周囲にはイギリス海軍イラストリアス級装甲空母やフランス海軍空母もいて国際色豊かに士気を高められた。


 ヨーロッパの海に広がる大艦隊の正体は欧州同盟艦隊である。


「これは壮観な景色です。長く航空参謀をしておりましたが、人生初めてのことで興奮は隠せません」


「源田君が言うのだから相当だろう。この欧州同盟艦隊の空母機動部隊はアメリカ海軍を圧倒する」


「三人寄れば文殊の知恵と言いますが、まさにその通りだと思います」


 欧州同盟艦隊は日英仏の三カ国首脳会談の場で約された。1年近くをかけて大日本帝国海軍・イギリス王立海軍・自由フランス海軍(当時)で構成される。ここに遅れながら亡命オランダ海軍も参加すると、四ヶ国海軍の大艦隊が誕生した。1939年時点より欧州の大地で枢軸国に抗い続けた英傑たちであり、超大国をけん制して民族自決に基づく欧州による欧州秩序の形成を図った。もっとも、アジアの盟主である日本が参加しているのはオブザーバーではない。第一次の前大戦から続けて参戦してはオランダ及びベルギー市民脱出に始まり、フランス大撤退やイギリス本土防空戦、北アフリカ徹底抗戦、地中海打通、フランス解放と全てにおいて大活躍を見せつけた。


 もはや、ヨーロッパの一国と言って差し支えない。したがって、日本は至極当然と言わんばかりに参加した。もちろん、民族自決を尊重して不快な自我を出すことは厳に慎む。その代わりに、アジア各国の要望を集約して伝える役を務めた。ヨーロッパにとっても未来志向を持ちアジアとの関係強化はうま味を見出せる。


「空母隊を日英仏が担当し、護衛艦隊は蘭が加わる」


「オランダ海軍に余剰の軽巡と駆逐艦を譲渡すること。これは理解できます。しかし、フランス海軍に空母を売却するのは驚きました。勿体ないと言うと失礼ですが…」


「短期的に見れば正しい。しかし、戦後の平和な世界で大量の旧型空母は維持費が嵩んで負担となる。しかし、友邦国に売り渡せば丸々浮くことになる。それも即戦力を欲する友であればお互いに利があった」


 順々に綴らなければ混乱を招くため飛ばさずに一から始める。


 欧州同盟艦隊は大きく空母部隊と護衛部隊に分けられる。


 空母部隊は日英仏の三カ国が担当したが陣容は以下に挙げる。


〇空母部隊 

・日本海軍空母

『赤城』

『天城』

『加賀』

『土佐』

・イギリス海軍空母

『イラストリアス』

『ヴィクトリアス』

『フォーミダブル』

・フランス海軍空母※

『ジョッフル』

『パンルヴェ』

『フランドル』

『ブルゴーニュ』


※フランス海軍空母はベアルンを除いて日本海軍の蒼龍型及び翔鶴型を格安で購入


 空母だけで総勢11隻という史上最大の大艦隊だが、これに護衛艦隊が加わるのだから凄まじい。さて、日本海軍は旧四四艦隊が被雷して長期間の修理に入った際に大改修を加えた。高角砲の増強や対空機銃の増設、対空電探を換装し艦載機は全て最新機に更新している。なお、残りの『扶桑』『山城』『伊勢』『日向』の4隻は隼鷹型4隻を新しく迎えて新生四四艦隊を構築した。


 イギリス海軍は自慢の装甲空母を押し立てるが搭載機数は30機少々である。一般的な正規空母の半数で打撃力に欠けた。よって、同盟艦隊に加わることで足りない打撃力を補うが、艦載機はアメリカ製のF6FヘルキャットとTBFアヴェンジャーに更新している。


 最後はフランス海軍だがいつの間にか空母が揃った。少し前までは『ベアルン』しかなかったのが急に4隻も追加される。これは日本海軍より空母を割安で購入したからだ。当時の自由フランス海軍は這う這うの体で逃げ延びた亡命艦しかない。自力で艦艇を建造する能力を持たず、小型艦はともかく最新技術の塊である空母は至難だ。ベアルンを日本で建造させたことを皮切りに、日本海軍から正規空母購入を打診する。日本海軍は装甲空母の大鳳型4隻が就役を待って建造が進められた。戦後のジェット艦載機を想定した特装甲空母も開始された。余り余っているとはこのことを意味する。


 そこにフランス海軍から空母売却の打診を受けると即座に快諾だった。そして、選ばれたのは中型の蒼龍型と大型の翔鶴型である。どちらも日本空母の標準を作り上げた影なる殊勲艦だ。しかし、装甲空母の登場により次第に旧型に入り始めている。フランス海軍は正規空母を欲したが新造が間に合わない。ここは中古でも正規品を入手してノウハウを蓄積したかった。交渉は瞬く間に進んでいき4隻はフランス海軍へと引き渡される。艦載機は艦戦に零戦(フランス海軍仕様機)が搭載され、艦攻はTBFアヴェンジャーに変更された。


「前衛艦隊より報告です。敵影見られず、計画通りに艦砲射撃を開始すると」


「高速戦艦8隻による艦砲射撃は圧巻な景色でしょう。大艦巨砲主義は『皇国』で果たされましたが、どうも惜しいと思ってしまう自分がいて」


「分からんこともない。戦艦の砲撃は航空隊の爆撃よりも派手さで勝った。その威力は味方の士気を上げて敵の士気を下げる。戦艦というのは使い方次第で大きく化ける」


 空母艦隊を護衛するは日英仏蘭の護衛部隊だが前衛艦隊と直掩艦隊に大別される。


 こちらも以下に書き記す。


〇護衛部隊

前衛艦隊(A部隊)

・日本海軍戦艦

『金剛』

『榛名』

『比叡』

『霧島』

・フランス海軍戦艦

『ダンケルク』

『ストラスブール』

『リシュリュー』

『ジャンバール』

・オランダ海軍水雷戦隊※

 艦隊型軽巡1

 特型駆逐艦6


直掩艦隊(B部隊)

・日本海軍防空艦

 防空軽巡(小軽巡)複数

 防空駆逐艦(大駆逐)多数

 防空艇多数

・イギリス海軍

 駆逐艦多数

・フランス海軍

 大駆逐複数


※オランダ海軍は日本海軍の余剰となった軽巡以下を譲渡された


 前衛艦隊は地中海の暴れん坊こと日仏艦隊を基に、ベアルンと航空巡洋艦を分離してオランダ海軍を迎えた。オランダ海軍はドールマン提督が有名だが、海軍力は日英仏に比べ脆弱である。とても旧型艦では戦えそうもなかった。よって、少しでも使える戦力を整えるため、日本海軍から特型駆逐艦と艦隊型軽巡を譲り受けた。嘗ての小型艦大量建造で作られた小型艦は今では旧型に入る。それでもフレッチャー級を圧倒する火力を有し一線級に数えられた。ただ、新鋭艦への更新に伴いオランダ海軍へ無償で譲渡される。


 直掩艦隊は防空に特化した部隊であり、防空艦が敷き詰められたに過ぎない。特段の事情もなく対空陣で大空母艦隊を取り囲んだ。対空兵装は各々の両用砲に40mmボフォースや20mmイスパノ、12.7mmブローニングと共通している。弾薬の融通が利くが不足が生じた際はアメリカと日本からの輸送船から得た。両国から途切れることなく派遣されては補給を行う。


 もっとも、敵機を撃墜するのは戦闘機の仕事である。空母艦載機では足りないことを考え、イギリス本土を不沈空母に仕立てた。イギリス本土にはイギリス空軍とアメリカ陸軍、日本陸海軍の基地航空隊が展開している。単純な防空任務から24時間体制の対潜哨戒もあり安心して航行できた。


 急に前を走るイラストリアスから発光信号を受け取る。


「欧州同盟艦隊に栄光あれ…か」


「どう返しますか?」


「そうだな…『欧州同盟ノ興廢此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮勵努力セヨ』だ」


「かしこまりました」


 皇国に限らない。


 この戦いは欧州の興廃にかかっている。


続く

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