第87話 義烈空挺隊オランダ降下
~前書き~
ちょっと短いですが、本日中にもう一話投稿する予定です。
多分
~本編~
1944年5月末
イギリスを発進した戦略爆撃軍及び陸海軍の爆撃機は英空軍の護衛の下で大規模な爆撃を行った。主たる爆撃は内陸部の飛行場に収束するが一部は海岸線から郊外まで満遍なく60kg陸用爆弾を使用しての絨毯爆撃である。最近の爆撃機は2000馬力級エンジンの量産で爆弾搭載量を増しており、四発機になれば100発を超える小型爆弾を投下することが可能だ。
この爆撃の意図は地雷原の無効化にある。現地レジスタンスの協力でドイツ軍は沿岸線から内陸にかけて大量の地雷を敷設したことが判明した。しかも跳躍地雷ことSマインも敷かれて排除は必須に尽きる。地雷は古典的だが極めて強力であり安価ときた。一つ一つ丁寧に除去するのが確実だが面倒が重なって事故が怖い。したがって、60kg陸用爆撃の絨毯爆撃を以て地中に埋められた地雷を無理矢理破壊するのだ。地雷はその特性より深くまでは埋められず小型爆弾でも十分に破壊させられた。
そうして大雑把に地雷を除去して本命部隊が投入される。
早朝から行われた大規模爆撃が終わった夕暮れ時にオランダ上空に見慣れない物体が音をたてないで突入した。
(降下開始)
(行きます)
どうやら薄暗い中での危険な空挺降下作戦が行われる。上空の飛行物体は滑空機ことグライダーで地面に突っ込んでバラバラになった。その前に軽装の空挺兵は無事に降下すると柔らかい地面へ五点着陸を決めている。ただし、本格的な空挺降下よりも数は少数の10名だ。空挺兵は少数精鋭と聞くが随分と大人しい規模と見受けられる。
余談だが、そのグライダーは全木製なのがポイントだった。使い捨ての兵器を無尽蔵にある木で製造することは理に適っている。そして、何よりも木は電波を透過させる。沿岸部にずらりと並べられた長距離・短距離レーダーの目を掻い潜り正真正銘のステルス機を為した。モスキートなどの木製機はステルス機と言われる。しかし、金属製のエンジンがあるため厳密には言えなかった。グライダーは滑空するためエンジンを持たない上に全てが木材で構成されるため完全無欠なステルス機を誇る。
空挺部隊は全木製グライダーに乗り込むとイギリス本土の前線基地から親機を務める輸送機による牽引で発進した。レーダーが届くギリギリの距離で切り離され滑空しオランダに侵入する。墜落したグライダーは敢えて壊れるように設計されているため、仮にドイツ軍が発見したとしても木の破片が散らばっているだけだ。これでは何も分からない。
話を戻す。彼らの武器については短機関銃と拳銃を初期装備とした。神の視点を以て拡大すると驚くことに日英米の物とは思えない。これはドイツ陸軍のMP-40短機関銃であり敵軍の武器を使用している。本銃は極めてコストパフォーマンスに優れていながら高性能なサブマシンガンだった。日英軍は緒戦から苦しめられ百式やステンガンの後継銃設計に影響を与える。敵兵から鹵獲した実物をかき集めてコピーした物はドイツ領内に潜入する特殊部隊へ支給された。弾薬は9mmパラベラム弾で現地調達が可能であり、仮に発見されても武器が自軍の物であれば友軍と誤認される効果が見込める。
(木箱を発見。回収可能)
(音を立てず速やかに回収せよ)
空挺兵は爆撃に空いた穴や建造物の残骸に転がる木箱を発見した。簡素な木箱だが開けてみるとMP-40の予備弾倉や9mmパラベラム弾、手榴弾、小刀が詰め込まれていた。本来は重擲弾筒や軽機関銃も入れられるが潜入任務では重い装備は邪魔になる。したがって、火力と軽さを総合的に考えた上での選択が行われた。なお、この木箱も例によって木製グライダーから投下されている。木箱をゆっくりと降ろすパラシュートは安価な綿で作られたが、日本の委任統治領で大量生産されており現地の綿産業振興に繋がった。もちろん、安価でも正当な価格で公正な取引を挟み植民地支配は存在しない。
「集合したか」
(欠員無し)
「よろしい。我々はドイツ占領下にあるオランダにて現地のレジスタンスと協力する。同国の解放作戦開始前に可能な限り索敵から重宝まで全て担うんだ。敵の地雷原や補給線、戦車の配備等々と問わない。如何なる情報も漏らさず掬うよう徹底せい」
流石にハンドサインでは限界があるため隊長だけ小声で指示を出した。部下達は真剣に聞いているが日本兵は5名で残り5名は委任統治領出身である。その5名は高い志を抱いた現地志願兵だった。彼らは故郷を飛び出すと日本のために戦ってくれる。無事に生きて帰れば莫大な恩給を得られた。仮に散っても遺族へは特別な慰労金が支払われて生活を支えられる。過酷な訓練を経て日本語を習得した彼らは下手な日本人よりも遥かに強かった。肉体の強さに忍耐力が加えられて特に厳しい潜入特殊部隊に適合している。
任務はドイツ占領下オランダに溶け込み現地レジスタンスと協力することだ。レジスタンスは現地民で構成される。土地勘を活かしてドイツ軍の行動をつぶさに観察しては情報を連合国軍へ提供した。しかし、民間人には限界があるため専門の兵士が協力を得ながら情報収集に努める。隊長は英語とオランダ語、フランス語を習得して意思疎通に支障はなかった。
「義烈空挺隊は死を厭わない。友のためなら過酷であろうと弱さを吐かない。帝国軍人としてではない。一人の正義を司る者としてオランダを解放する」
(無言の頷き)
オランダ市民は侵攻の恐れが生じた時よりカレル・ドールマン提督の艦隊に乗り込みイギリスへ疎開した。オランダが培ってきた優れた海運能力のおかげで大半の市民が脱出に成功している。ドールマン艦隊もドイツ海軍に接収されることなく日本亡命艦隊の先駆けとなった。しかし、一部の市民は祖国に残り続けて占領下ポーランドのようにレジスタンス活動を開始する。市民レジスタンスは神出鬼没であり強力なドイツ陸軍は市民によるゲリラ戦に苦戦を余儀なくされた。とは言え、レジスタンスの力では後方攪乱が精々なため解放は正規軍の仕事になる。
速やかに木箱を分解して証拠を隠滅し次第に市民レジスタンスの拠点を目指す。
オランダ解放はもう間もなくだ。
もう少しの辛抱である。
続く
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