第85話 決戦に備えて

~前書き~

 今回はフランス解放及びオランダ解放に備えて整えた日本陸海軍の戦力について綴っています。したがって、登場人物は極僅かにしてセリフも希少なため、一種の報告書としてお読みください。


 もちろん、苦手な方は無理に読まなくても問題ありません。


 ブラウザバックしていただいて構いませんので、皆様の判断にお任せします。


~本編~


1944年 3月


 この戦いも終わりが見え始めて来た。


 枢軸国の一画であるイタリアに対しシチリア島から本土南部に連合国軍が上陸し、イタリア陥落を目指して北上を開始するが国はファシズムと共和制に分裂した。混沌が支配するイタリアのムッソリーニ派はドイツの加護を受けて北部に四重の防衛線を構築する。そして、そびえ立つ山岳地帯の盾と気候条件を駆使した見事な遅滞防御で弾き返した。アメリカを主とした連合国軍は遅滞防御に阻まれて物量戦術は通用しない。整備した機甲師団も地形的不利より四号戦車後期型との戦闘に忙殺された。


 アメリカ軍が苦戦しているのを尻目に大日本帝国軍は陸海空の全てが休養に移る。もちろん、必要最低限の戦力は稼働し続けるが交代制で休養に入った。日本軍の強みは忍耐力であり戦い続けられる点は欧米の軍隊を圧倒する。しかし、人間には限界が存在して少しでも休まないと自壊を余儀なくされた。戦力の補充もあり一時休止は必須である。


 陸軍は北アフリカ戦線から栗林機甲師団とモースヘッド師団を引き抜き、フランス解放に合わせてカレー・ダンケルク強襲上陸作戦に用意した。なお、後者はイギリス・オーストラリア軍より託されたのが建前である。本音はモースヘッド中将が日本陸軍との協同に慣れているため、今更独立して行動することに不安を覚えると栗林機甲師団と行動することを主張した。


 陸軍装備としては大きくは主に車両と大砲(ロケット)、歩兵に分けられる。


 最初に車両である。


 戦車は四号戦車やT-34-85と互角に渡り合える二式中戦車チト改に二式軽戦車ケホ改、各種自走砲が整備されて栗林機甲師団に供給された。改とついているのは足回り部品の信頼性向上のためで火力や防御力の向上は見られない。専ら機動戦術に特化したカスタマイズが施された。数の不足にはアメリカから供与されたM4中戦車とM5軽戦車が穴を埋めている。更にはパナール社の装輪装甲車も新型のEBR装輪装甲車が続々と登場することで満足を極めた。


 輸送車両には従来のソミュア社ハーフトラックの国産化に加えて、純国産の一式半装軌装甲兵車が揃う。戦車と共にM3ハーフトラックの廉価版(M5)が供与されると頑丈さで好評を博した。既に国産が揃っていたが輸送車両はいくらあっても足りないため各地で歓迎された。廉価版でも安いが故にコピーが容易く複製が相次いでいる。ハーフトラックの積載能力を活かし75mm野砲を搭載した簡易的な自走砲、12.7mm機銃を束ねて搭載した対空車両、牽引炊事車を組み合わせたフィールド・キッチンなど現地改造は数え切れなかった。


 大砲については主にロケット砲について綴る。


 日本陸軍は75mm、105mm、150mmの三種を基本の野砲に採用した。攻城兵器のカノン砲や榴弾砲も存在するが機動力の不足より自走砲に転用される。例外としては25ポンド・84mm榴弾砲があり、ホイⅠ砲戦車の主砲だが使い易さが高く評価されて中榴弾砲と称して野砲に参加した。とは言え、大砲は重くて嵩張る欠点が否めず解決策の自走砲改造も一両日中に終わる事ではなかった。すると、機動力に富んで破壊力も備えた兵器としてロケット砲が呈される。


 ロケットは大砲に比べ簡素で安価であることが強みだ。固形燃料の噴進機構に砲弾本体を連結するため、爆弾や艦砲弾を流用して現地生産も可能で面倒が少ない。発射機も簡易的な金属製の筒又は木組みの台で済んだ。歩兵が運搬できる能力は馬鹿にならない。しかし、弱点として精度の悪さと射程距離の短さは留意しなければならない。安定翼を備えることで安定性を増していると雖も精度の悪さは変わらない。射程距離も大砲に比べれば短くアウトレンジから一方的に叩けなかった。つまり、ロケット砲と大砲を柔軟に組み合わせて戦うことが好ましい。


 歩兵装備は現状の確認と将来の二つだ。


 歩兵の主装備は九九式短小銃を使用して支援火器に九九式軽機関銃及び重機関銃が存在する。どれも7.7mm弾を装填するがイギリスのブリティッシュ.303と共通して融通を利かせられた。したがって、航空用7.7mm機銃でも同じ弾を使用できて兵站の負担軽減につながる。ただし、短機関銃は9mmパラベラム弾を採用した。狙撃銃は6.5mm弾の三八式歩兵銃が改造の上で継続されている。


 もっとも、現状に満足しているかと聞かれれば答えは否だった。主力小銃の有効射程は1000mと長く機関銃も対応したが、短機関銃は拳銃弾のため200m~300mと有効射程距離に溝が生じてしまう。


 この溝を放置すると齟齬を招くため中間となる有効射程の小銃が欲せられ、最終的には中距離用自動小銃の開発が始まった。奇しくもドイツも同じ思想を先んじて抱きStG44(突撃銃)を急ぐ。日本陸軍は遅れた都合で間に合うか微妙だが将来を見越し、計画では6.5mm弾の装薬量を減らして切り詰めた短6.5mm弾を使用した。7.7mmに比べて威力と貫徹力で劣るが反動が小さく兵士への負担が少ない。また、弾の携行量を増やして継続戦闘力で勝る。本体の加工には短機関銃で確立したプレス加工を全面採用して生産性を確保した。総じてだが戦後の競争に勝利することを目指す。


 いわば、和製アサルトライフルだ。


 さて、以上が陸軍である。


 お次は海軍だ。


 海軍の主戦力は水上艦隊と基地航空隊の2つである。前者はともかく後者はフランスとオランダ解放に際してイギリスの空軍基地を借りて運用した。橋頭堡を確保して進撃する時に敵軍の航空基地を奪取して異動する。


 前者は空母機動部隊と水上打撃艦隊に分けられた。


 日本海軍の空母機動部隊は世界最大にして最強を誇る。老齢空母8隻からなる四四艦隊、空母機動部隊の基本形を定めた翔鶴型2隻と蒼龍型2隻からなる第二機動部隊、有馬正文中将の隼鷹型4隻による第三機動部隊が主力を務めた。それぞれ話題にならないがドイツ海軍は空母機動部隊どころか水上打撃艦隊も持たない。よって、日本の空母機動部隊は対地攻撃が大半を占め、フランスやドイツへの空爆という地味な戦果なため目立たなかった。


 水上打撃艦隊は戦艦の切り捨てに伴い縮小される。しかし、亡命フランス海軍よりダンケルク級とリシュリュー級を確保して拡大した。金剛型高速戦艦と合わせた高速水上打撃艦隊は地中海の暴れん坊で名を轟かせている。これ以上の艦隊はなく艦隊型の水雷戦隊や防空型の防空護衛艦隊となった。


 しかし、直近に日米太平洋艦隊が創設された。日米政府間の交渉が遅々として進まないことに業を煮やしたニミッツ大将ら海軍が先行し、仲介役のキンケイド中将を挟み日米海軍による太平洋艦隊を繰り出す。両海軍の新鋭艦から構成されて空母機動部隊をハルゼー提督、水上打撃艦隊を田中提督が指揮することで合意した。ハルゼー太平洋機動部隊は空母5と護衛艦隊であり、田中太平洋連合艦隊は戦艦3と護衛艦隊になる。


 空母には米海軍からエセックス、サラトガ、インディペンデンスが日本海軍からは装甲空母大鳳型が参加し圧倒的な打撃力を得た。エセックス級には米海軍自慢の100機近い機数を揃え、大鳳型は重装甲の防御力で打たれ強い。そして、エセックスはF6F・ヘルキャット、SB2C・ヘルダイバー、TBF・アヴェンジャーを計95機搭載した。大鳳型は烈風・F4U-J、銀星(※爆攻併用)、彩雲を計60機搭載している。サラトガとインディペンデンスも加わって強力無比な機動部隊が完成した。


 戦艦には米海軍からサウスダコタとアイオワが日本海軍から皇国が参加している。敢えて説明するまでもない超戦艦の艦隊なのだ。皇国に比べサウスダコタとアイオワが霞んでしまうが新鋭艦のため十分に強力である。41cm砲を振りかざす戦艦は意外と少ない上にSHS(スーパー・ヘビー・シェル)を吐き出し口径以上の破壊力を得た。もっとも、皇国は世界最大にして最強の戦艦であり排水量10万トンの船体に46cm四連装砲4基16門の馬鹿げた火力を発揮し、フランス式四連装砲は連装の撃ち分けが可能なため2連バースト砲撃を振り上げた。


 主力級がそろいもそろっていることはご理解いただけるだろう。ただ、以上の事は既出の事が多くつまらないことこの上なかった。また同じことを綴っても退屈が支配する。


 最後に隠し球だけご紹介しよう。


~小さな砂浜~


 イギリスにある小さな砂浜は現地住民や観光客を規制し立ち入り禁止にした上で実験が行われる。


「パンジャンドラム発進!」


 ロケットの轟音と共に巨大車輪が驀進する。ロケットは周囲の環境に関係なく最大出力を発揮でき、肉眼では追いつけない程のスピードに達すると砂浜の端から端まで移動した。


「カーペットが付いた鉄板にレールがあれば辛うじて真っ直ぐ進む。しかし、まだ怖いな」


「そうはいうが、目標のコンクリート防護壁はキロ単位で続いている。仮に外れても適当な壁に衝突すれば目標は達成される」


「それもそうか。味方に当たらないよう修正は必要だがな。戦闘工兵が歩兵戦車で守られてもパンジャンドラムには耐えられん」


 奥の方で停止した車輪を確かめる技術者は叫んだ。


「実験は成功だ!」


続く

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