第79話 コンクリート貫通爆弾
「忌々しいUボートをここで叩く…日英同盟の恐ろしさ思い知りやがれ」
「新型爆弾に護衛戦闘機って日英同盟は世界最高だな」
ドイツ占領フランス北部のUボート基地にイギリス空軍の爆撃隊が到達し機内に笑い声が響く。前線基地からはほど近いため航続距離を気にすることなく爆弾を満載した。開戦から数年経って各社が新型爆撃機を開発して量産が開始される。しかし、重戦闘機と呼ばれる迎撃機が出現して昼間爆撃はアメリカ軍に任せた。もっとも、アメリカ軍には不可能で任せられない致命的な一撃を与えるべく、イギリス空軍の精鋭爆撃隊が極めて危険な敵地への昼間爆撃を敢行する。
彼らの目的はフランス北部のドイツ海軍Uボート基地こと「ブンカー」だった。ドイツ本国はバルト海の都合でUボートの運用が難しい。フランス北部は各地へのアクセスに優れて絶好の母地に選定された。ただ、イギリス本土から近いため爆撃を受ける恐れは極めて高い。そこで、Uボート基地のブンカーを建設した。これはUボートを露天係留にしないで屋内とし分厚い鉄筋コンクリートの屋根に守らせる。
この鉄筋コンクリートは800kgや1t爆弾の直撃に耐え得る硬さを誇った。普通の爆撃ではUボートの根元を断つことは難しい。Uボートの脅威を取り除かなければ輸送船団が甚大な被害を被った。ドイツ海軍のデーニッツは潜水艦を効果的に使って一切侮れない難敵である。
この危機に世界の救世主たる日英同盟が立ち向かった。
「迎撃機に日本機が食らいついた!」
「すまねぇなぁ、面倒かける。だが、ここで叩くぞ」
「照準器に異常無し!」
迎撃に上がって来たドイツ空軍Bf-110戦闘機に日本海軍月光戦闘機が被さる。両者共に双発の重戦闘機だが高度的な有利の差で月光が有利だ。日本海軍は戦略爆撃軍及び陸攻隊の要請より長距離を飛行可能な重戦闘機を開発している。それが月光であり中島・川西社が開発した。月光は陸軍の屠龍に負けじと作られたが屠龍は一撃離脱思想である。月光は海軍の格闘戦思想より機動性を磨き上げられ、爆撃機に追従できる程度の速度があればよいと考えられた。
その結果として、月光は双発戦闘機の割に高い運動性を発揮する。もちろん、速度性能も優れているため総じて纏まった。月光隊は侵入初期段階で護衛対象のランカスター爆撃機を守り抜くことに成功し、ランカスター隊は特殊爆弾を装備して分厚い鉄筋コンクリートをぶち破る。
「完全に捉えた。そのまま…そのまま」
誰よりも神経を尖らせる爆撃手は専用の爆撃照準器を覗き込んだ。従来の物とは異なり様々な角度から最適な投下を導き出してくれる。素晴らしい逸品だが操作は難しく安定性にも欠けた。よって、運用は精鋭爆撃隊の少数に留まる。一般部隊はアメリカから供与されるノルデン爆撃照準器を使用することが大半を占めた。
「カウントダウン開始…5…4…3…2…1…今!」
爆弾手独自の投下方法に従って放り出される爆弾は妙に細長くある。ランカスターの爆弾槽は同時期の機体に比べて圧倒的な大容量だった。最大で10tで標準では7tに迫る搭載量は圧巻に尽きる。したがって、特殊爆弾の運用は十分に可能だった。
(コンクリート貫通爆弾頼むぜ。魔物に鉄槌を下しな)
細長い爆弾とはコンクリート貫通爆弾と呼ばれる。文字通りで建造物を構成するコンクリートを貫通して内部を破壊・殺傷するために開発された。先に綴ったブンカーが正にコンクリートの塊のため専用の切り札を為している。
とは言え、コンクリートを貫通することは極めて難しかった。イギリス軍は貫通よりも粉砕を意識して超大型爆弾を作成する。大きな容器にたっぷりの炸薬を詰め込みながら軽量化のため薄い鉄板で作られた。しかし、爆弾本体の強度が弱いと貫通できない。一際硬い目標に着弾すると耐えられず自壊した。コンクリートを貫通するためには外殻も硬い必要がある。
日本軍はこれを理解してコンクリート貫通爆弾を開発するが状況は逼迫した。一刻も早くと求められ、開発期間短縮のため既存の流用を決定する。同時に海軍から艦砲の砲身を提供された。確かに砲身は重量級砲弾を高速で打ち出すため頑丈である。炸薬は砲身の中へギチギチ詰め込んだ。これに安定装置を付け加えれば極初期の地中貫通爆弾が完成するだろう。
具体的には日本海軍の50口径三年式14cm砲が使われた。1914年に制式化された旧式艦砲であり戦時量産型でも使用されない。15cm砲の人力装填では重労働が過ぎるため14cm砲とされるが、現在の軽巡は艦隊型でも専ら機械装填式の12.7cm連装両用砲が採用された。大型駆逐艦の性質を帯びる防空軽巡は10cm連装両用砲である。14cm砲を搭載した金剛型戦艦及び長門型戦艦は10cm連装両用砲に換装した。余った大砲を陸軍に譲与したくても規格に適合しない。
そして、倉庫に眠っていた艦砲に価値は無かった。失敗して失われても何ら痛くない上に安価で収まる。流用で開発期間も短縮できると好ましい点が多く見られると、技術者達はコンクリート貫通爆弾へ転用した。純粋な砲身のみとするため閉鎖装置など不要な物を取り払う。砲身も不要な部分を切断して軽量化を図り爆弾槽への搭載を簡単にした。それから砲身には日本製の高性能炸薬が詰め込まれる。これはイギリスのトーペックスと同等かそれ以上の破壊力を有した。
しかし、どれだけ頑張っても限界が立ち塞がって結果的にはランカスター爆撃機に限定されてしまう。日本とイギリスの技術者は流用ではない一から作成することに努め、ランカスター以外の大型爆撃機や中型爆撃機でも搭載可能な新型の開発を急いだ。
余談だが、砲身の流用はコストパフォーマンスに優れている。退役した榴弾砲やカノン砲の処理になった。更に敵の施設を効果的に破壊出来てお財布に優しい。スクラップにするだけでお金を求められるのに対し、最小限の改造で敵に放り投げるならば総じて安価に収まった。したがって、後に米軍が同じ爆弾を開発する際は日英を参考にしたとよく聞かれる。
「この高さからなら観測できるが護衛機に負担をかけたくない。離脱する」
「了解」
(護衛戦闘機の数は減っているか。すまない…)
7000m以上の高高度から投下できる強みから高射砲弾の炸裂を掻い潜り離脱する。同時にBf-110と死闘を繰り広げた月光も退避を開始した。軽快な機動で動き回り翻弄するがどうしても損害は出てしまう。
母機は帰還して一人ぼっちのコンクリート貫通爆弾は尾部にフィンが備えられた。イギリス軍が試験を行った際に爆弾がスピンすると威力を増すことを確認する。偶然の産物でも爆弾が音速を突破する工夫としてフィンを追加した。意図的にスピンを引き起こして威力を上げる。また、安定性が増して音速障壁を無効化することにより命中精度を高めた。
まさに瓢箪から駒が出る。
日英同盟が乗ったコンクリート貫通爆弾は名前に恥じない働きを遂行した。音速を突破して貫徹力が底上げされた爆弾はブンカーの鉄筋コンクリートを叩き割る。元が艦砲なだけはあり強度はお墨付きだ。そして、内部に侵入した爆弾は炸裂し停泊中のUボートを片っ端から破壊する。潜水艦は機銃掃射を受けるだけでも潜航不可に陥る脆弱な艦のため爆弾の炸裂に耐えられるわけがなかった。
この日、フランス北部にあったUボート・ブンカーの一つが壊滅する。貴重な拠点を失ったUボートは追いやられる運命を辿った。しかし、日英軍はコンクリート貫通爆弾に味をしめては各地の基地を爆撃して回る。
デーニッツはいつまで耐えられるのか考えたくもなかった。
続く
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