第78話 最後にして最強の超大和型戦艦
「いやはや、提督から排水量が10万トンの超々弩級戦艦を提案されるとは思ったこともなく。あれだけ八八艦隊案や大和型も頑なに通さなかった。これは、どういった心変わりで?」
「戦艦が悪いとは言っておりません。現に金剛型は快速を活かしドイツとイタリアを翻弄しています。旧式戦艦も拠点防衛の海上砲台に限り活躍しました。仰った事は時世にそぐわないだけです」
「なるほど、確かに航空戦力が主兵となれど戦艦は戦い方を変え生き残っている」
「艦砲射撃は航空爆撃より安価と見ることができます。航空爆撃は被害を受ければ艦載機と貴重な熟練兵を失う。しかし、艦砲射撃は重装甲に纏われた戦艦により行われます。与えられる被害など総合的には費用対効果に優れました」
潮風を受けながら呉の洋上に浮かぶ艦を眺めるは二木と長谷川だ。久し振りの登場だが表には出ない裏のフィクサーは暗躍し続ける。日米海軍を通じた和睦も長谷川清が尽力し二木が入念な根まわしを行った。現在は陸軍同士の折り合いをつけているがフィリピンやグアムなど実質的な米国領の独立問題で難航を余儀なくされる。
それはともかく、洋上の戦艦はハワイから戻った長門よりも随分と大きかった。世界的にも少ない戦艦の保有数は金剛型4隻と長門型2隻の6隻である。前者は地中海で自由フランス艦隊と暴れ回った。後者はビッグ7の大戦艦だが連合艦隊旗艦で儀礼用の使用が多い。海軍側の代表者や外交官、皇族の方を乗せて各国との連絡が多かった。ドイツ・イタリアの海軍を圧倒している現在は金剛型で間に合う。
しかし、何を思ったのか日本海軍は新しく戦艦を建造した。
排水量10万トンを超える超巨大戦艦を建造している。
「超大和型戦艦とでも呼ばれましょう。戦艦というのは使い方で大いに化ける艦です。その巨砲を以て堅牢な防御線を破り進撃の道を作り、圧倒的な威圧感を振るい敵兵の注意を引き、同盟国には悪いですが自国の強さを見せつける。大幅な拡張性を確保するという前提条件を踏まえて建造しました」
「百年先も戦い続けられる拡張性をですか。想像しただけで鳥肌が立ちます」
「まぁ、その頃に私達は生きておりません上に歴史から弾かれた裏世界の住人でした」
「まったくです」
戦艦は時代遅れで鉄くずに過ぎないという過激な声もあるが、艦次第だが使い方を誤らなければ十分に活躍できた。事実として金剛型戦艦は老齢艦ながら30ノットの快速を誇り、36m砲は地上の敵軍には恐怖以外の何物ではなく直撃におびえる。単純な火力はもちろんのこと重防御は空母の盾となり、圧倒的な威圧感は友軍の士気を底上げ敵軍の戦意を奪い去る効果が確認された。金剛型戦艦の奮闘ぶりは日本海軍のみならずイギリス海軍や自由フランス海軍も称賛せざるを得ない。
「それに二木さんの政治もあります。これだけの巨大艦を建造した国は外国すれば敵に回したくない。むしろ、味方に引き込んで海を任せることで軍事費を圧縮しながら敵を威圧できる。核とはまた違う抑止力となりました」
「時代が砲弾からミサイルになれど戦艦の存在は大きいかもしれません」
「いえ、大きいどころではありません。音速すら超える砲弾は迎撃できなくて当然です。勝手に飛び正確を誇るミサイルに敵わぬ兵器は無いと考えるのは浅薄にして阿呆と言えます。あまり大きな声で言えませんが仁科博士が研究中の核砲弾を音速で打ち出すこともね」
「…」
「アインシュタイン博士は前向きでないそうですが、始まったことは終わらせるまで続けないといけません。私は鬼になる覚悟が十分にありますので」
戦艦の強みは巨体故の拡張性の高さに収束した。常識的に考えて器が大きければ入れられる物の量は比例して多くなる。したがって、多少嵩張る装備でも戦艦ならば余裕を持って搭載できた。長谷川提督は将来を見越して戦艦の拡張性に目を付ける。誘導噴進弾の名で研究が進むミサイルの試験艦を見込んだ。しっかりと手入れさえ行えば百年単位で持ってくれる。
しかし、真に恐れるべきは音速を超える砲弾なのだ。撃った後は運試しの砲弾はスマートさに欠けるとの意見がある。それは正しいが精度云々かんぬんを無視できる核砲弾には関係なかった。音速を超える小振りな砲弾を迎撃する術はなく悪魔の兵器という抑止力に成りうる。
数年かかる総力戦よりは遥かに安価な手段と思われた。
「それより、あの艦についてご教授お願いします。私は文官なので軍事はさっぱり」
「そうですな」
両者の間では深掘りを慎む了解が行われて本題の超巨大戦艦に移る。諸外国向けの圧力と国内向けの国威発揚を両立させる戦艦はコストパフォーマンスに優れた。万事に通ずることだが物事を限られた面で評価してはならない。ただし、人間には極めて難しいことであり長谷川提督のような天才でなければ厳しいことだ。
「分かり易い点で言えば主砲です。見ての通りフランスから得た四連装に味を占めて前部と後部に46cm四連装砲4基16門という破格の火力になります。フランス式は連装を組み合わせているため、41cm砲に撃ち負ける心配は限りなく軽減されました」
「それは物凄い火力ですなぁ。これでも安いのは驚きます」
「えぇ、巨大な艦を1隻建造した方が安価という考え方は間違っていません。物量と雖も空母が担いましたので気にならず」
「ははぁ」
「装甲も対46cm砲弾を想定した重防御ですがアメリカを倣ったダメージコントロールを採用しています。応急修理班を増員して撃ち合いに備えますが、相手が相手ですから出番はなさそうです。その他には10cm連装と単装の高角砲、40mmから12.7mmにかけて大量の対空機銃がありますが副砲という副砲はなく」
「ほうほう」
ほぼ超大和型戦艦の本艦は質を追求した単艦思想より詰め込まれている。前提として艦隊を創設するより巨大な艦を一隻揃える方が安価という思想が土台にあった。明治期に活躍した軍人から得ており間違いとは言えない。造船所の兼ね合いもあって今の日本に丁度良かった。もっとも、規格外の大きさのため新しく浮きドッグを建設して建造する。
そして作られた艦は既に世界最強を誇った。主砲は46cmフランス式四連装が4基16門と最新鋭のアイオワ級を圧倒する。アイオワ級は日本が戦艦を捨てたことより実用性を重視した堅実にしてマイルドに収まった。四連装砲は艦後部を使えない航空巡洋艦で高い評価を得ている。フランス式はとても優れた設計のため超大和型戦艦でも採用された。連装砲が組み合わさった2+2は片方が潰された際はもう片方が反撃できる。また、時間差を置いて2連バースト射撃に応用できて標準の41cm砲に撃ち負けなかった。
しかし、戦艦は航空機の的になることは常識である。15cm級の副砲は置かず専ら対空を意識した10cm両用砲が大量に設置された。40mm/20mm/12.7mmの各種対空機銃もハリネズミのようにある。大量生産を急ぐボフォースはアメリカから余剰が提供され需要を満たした。
「速度は艦本式タービンとディーゼルの併用で33ノットを発揮して航続距離もたっぷりです。装甲空母と組み合わされば敵機を一切通さない無敵の艦隊が誕生します。日米太平洋艦隊に加わった際は対空火器の出番はないかもしれませんなぁ」
「ニミッツ提督に代わったキンケイド中将には唸らせられました。軍人ですが政治も嗜んでおり我が国の立場を理解してくれています」
「日米太平洋艦隊が生まれフランス解放に投入される際に世界は度肝を抜かれますよ。戦果はもちろんのこと威容は日本の底力を示すことになり、戦後のシーパワーを一挙に握り込む。そこまでキンケイド中将は把握しておられていました」
超大和型戦艦の目的は戦果を挙げることに留まらず、戦後において海の覇権を確立する面も含まれる。太平洋を挟む日米は火花を散らした。しかし、世界に先駆け空母機動部隊を整備した上に超大和型戦艦と来れば勝てる者はいない。イギリス海軍やフランス海軍まで抱き込んだことも強かった。日英仏蘭四ヶ国同盟は連合国の主となり世界を動かしている。
「新型機が揃いつつあります。これから大反攻に転じますよ」
力強い言葉に頷くしかできなかった。
続く
~後書き~
〇仮称超大和型戦艦
排水量10万トンを超えて世界最強を追求した超巨大戦艦である。単艦思想より詰め込まれているが将来的な大改装に備えて拡張性が確保された。計画では核砲弾の運用も存在する。
排水量:100,000t以上
主砲:46cm四連装砲前部2基及び後部2基16門
副砲:10cm連装及び単装両用砲33門
機銃:ボフォース40mm、イスパノ20mm、ブローニング12.7mm
無数に設置される
機関:艦本式タービンと同式ディーゼル併用
速力:33ノット
特殊:新式対空・対艦電探、逆探
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