第68話 日仏艦隊ここにあり

142年9月


 日英米仏(自)の四カ国による北アフリカ大反攻作戦の発動前に必須の準備がある。それはシチリア島などイタリアに掣肘を加えるマルタ島包囲を解くこと及び補給線の確立だった。地中海の小島と雖も飛行場と港があり陸海空の全軍が展開するマルタは制空権と制海権の保持に重大な役割を有する。ここが陥落して枢軸国の手に落ちてしまうと戦況はひっくり返りかねなかった。よって、占領するイギリス軍は大損害を覚悟で艦隊護衛の下で輸送船団を強行させ、数え切れない回数行われた輸送作戦により辛うじて保持することに成功する。そして、アメリカの本格的参戦や戦力を回復した日本を加えて一挙に反撃に転じた。


 イギリス海軍のアレクサンドリア及びジブラルタル艦隊は度重なる戦闘ですり減っている。出せる戦力が無いという窮乏から日仏高速戦艦による新生水上打撃艦隊が出撃した。彼らの任務はマルタ島へ猛攻を加えるシチリア島大要塞を砲撃して僅かでも削ぐことにある。自慢の速力は敵軍の哨戒網から逃れて神出鬼没の艦砲射撃は与える損害は少なくても、敵軍司令官や更なる上層部の意識に存在し続けて冷静な判断を困難にさせた。イタリア海軍は燃料不足と戦艦の大修理が積み重なり重巡洋艦以下しか動けないでいる。世界最強を誇る日本海軍と真っ向勝負を挑むのには心許なさ過ぎた。


 マルタ島を沿うように通過する日仏艦隊は索敵を緩めない。


「う~ん、なんともこれはすごい戦艦が揃った。それに水上機母艦を加えて対潜警戒も万全を期している」


「我が祖国の海軍は世界最強を誇ります。しかし、単純な数では勝てるわけがありません。では、どうすればいいのか。誰もが持たぬ独創性で勝負する」


「独創性か…見習わねばな」


 フランス艦隊旗艦リシュリューの艦橋では自由フランス艦隊司令官エミール・ミュセリエ立つ。そして、先を走る日本海軍の高速戦艦と更にその先を走る高速水上機母艦に唸った。日仏水上打撃艦隊の陣容は日本艦隊とフランス艦隊に分かれる。前者は金剛型高速戦艦『金剛』『榛名』『霧島』『比叡』に唐瀬型高速水上機母艦『唐瀬』『沓谷』『三松』『崖美』が加わった。戦艦4と水上機母艦4の計8隻の大艦隊だが、水上機母艦は索敵と防空のみである。


「水上機母艦には早期警戒の任があります。搭載する水上機自体が偵察機となりますが艦橋に対空・対艦警戒レーダーを搭載しました。イギリスと共同開発して精度を磨いた最新型は数十キロメートルの範囲を満遍なく」


「なんとも、いやはや、参った」


「仮に空襲が訪れようとベアルンから迎撃機が出撃します。仮に突破した敵機はボフォースとポンポン砲、イスパノ、ブローニングの弾幕で一網打尽です」


「何と言うべきか、ここまで来るとファシスト共が可哀想に…いや思えんわ」


 水上機母艦には最新型の早期警戒レーダーが搭載された。対空と対艦の索敵機能を兼ね備える。軽巡洋艦ぐらいの水母でも問題なく搭載可能だった。索敵範囲は変化していないが信頼性を増して正確さを得ている。レーダーで補いきれない潜水艦については水母を発した水上機が哨戒した。潜望鏡を上げようと静粛浮上しても水上機からは丸見えである。


 さて、フランス艦隊の陣容はダンケルク級高速戦艦『ダンケルク』『ストラスブール』とリシュリュー級高速戦艦『リシュリュー』『ジャンバール』の4隻を基本とした。当初はこの高速戦艦4隻だけで行動したが最近になって到着したフランス待望の空母が追加される。


 既に会話中に登場した『ベアルン』だ。


「ベアルンについては、大変な面倒をおかけした。改めて感謝申し上げたい」


「空母については我が国とイギリスが先を行っております。しかし、イギリスよりも早く多く空母を建造しました。そして、標準型となる中型空母を生み出しては飛行甲板の装甲化まで実現しております」


「独創性に継ぐ独創性に恐れ入る。ベアルンの後継となる空母を作りたいところだ。ヴィシーが居座っている限り無理なことだから、ここは貴国の製品を買わせてもらう」


「是非とも、御贔屓に」


 ベアルンはノルマンディー級戦艦を転用した空母である。日本海軍の天城級及び加賀級と同じく条約逃れの改造だった。かくして、彼女は産声をあげたが時代の流れに追いやられる。主力の座をジョッフル級に譲って輸送艦として活動し始めた。しかし、ジョッフル級が完成する前にドイツに侵攻されて降伏している。唯一の空母となったベアルンは素早くヴィシーから逃れると、自由フランス反乱軍の空母としてイギリス海軍に加わり捜索活動に従事した。


 捜索活動で奮闘すれど限界を感じる。遂に大改装を決断したが本国はおろか海外領土もヴィシー政府に手中にあった。イギリスを頼ろうにも空母需要の高まりから造船所をフル稼働させている。とてもだが外様のベアルンを受け入れる余裕は無かった。大西洋を挟んだアメリカは孤立主義で我関せずの態度を貫いている。したがって、事実上の同盟国たる日本を頼ってダンケルク級とリシュリュー級の受け入れと併せて快諾された。


 表向きは日本海軍へ降伏とした上で大分県大神海軍工廠にて秘密裏に大改装を受ける。ここは重巡洋艦までが限界のドッグのはずだったが増設・拡大された。翔鶴型大型空母クラスまでならば受け入れ可能で彼女にも対応する。


 大改装は大きくは速力向上と艦載機運用能力向上の二本柱からなった。


 速力だが最高21ノットでは遅過ぎるため31ノットを目指す。就役当時は複葉機が主力のため21ノットでも問題ないが大柄の単葉機に移行すれば発艦不可能に陥った。肝心の搭載機が飛べなければ意味を為さない。よって、従来の航続距離重視のレシプロ機関併用から速力重視のタービン機関に統一させた。31ノットまで向上したことで最新の機体も運用できる。しかし、格納庫が艦体の割には小さくて40機少々が限界だった。更に一部は分解して搭載しなければならない。これでは効果的に運用できないため日本海軍の培った経験と技術を注入した。蒼龍型と翔鶴型で基本形を整えて隼鷹型で完成させた実績より特段苦しむことなく完了する。


 これはベアルンが元より先進的な空母からという点が大きかった。煙突は艦橋一体式で排煙処理に一手間加えている。制動装置は鋼索横張り式を採用すれば実用的であり世界標準と化した。そして、エレベーターを3基装備していることから総じて優れた空母と言える。運用とは離れる点として飛行甲板が装甲化されて25mmの装甲が張り巡らされた。急降下爆撃を受け止められる防御力は確保できていない。


 しかし、旧態依然と廃止した点もあった。主砲扱いの15cm速射砲を搭載したが10cm両用砲に換装されて特徴的な水中魚雷発射管も全廃される。同時に対空能力も底上げした。オチキス37mm機関砲をボフォース40mm機関砲に交換してからイスパノ20mmとブローニング12.7mmを追加している。


 空母本体が完成しても問題は搭載する艦載機だ。フランスは航空機は遅れてしまい更に降伏で完全に止まる。イギリスや日本に逃れた技術者は多いが開発は難しく外国から購入せざるを得なかった。当時、艦載機で世界最先端を走るのは日本海軍である。改装も日本海軍に委託している以上は日本機で揃えるのが当然だった。戦闘機は零戦が提供されるが慣れないフランス兵のため武装を7.7mm6門に変更している。攻撃機は九九式艦攻のフランス海軍仕様が提供された。


 もっとも、ベアルン1隻だけでは戦えない。艦隊随伴空母の役割が限界だ。


 では、その力を見せてもらいたい。


「敵機襲来!」


「迎撃機発艦急げ! 全艦対空戦闘配置!」


 イタリア空軍のお出ましだ。


続く

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