第64話【中】 自動装填装置の威力を見せつけろ

 二式中戦車チトが登場した時点で新型軽戦車も派遣されている。軽戦車はパナール社の装輪装甲車に追いやられたが、不整地の走破能力やタイヤの脆弱性から軽戦車も捨て置けなかった。とは言え、装輪装甲車と差別化するためには火力の増強が必須と判断される。そこで、日本陸軍は渇望していた新機構を搭載した新型軽戦車の初期生産型を投入した。


 軽戦車のため主たる任務は前線偵察や砲撃観測が占める。実地試験を兼ねて国境線に向けられた。エジプト国境線ではドイツ・イタリア軍が張り付き攻勢の準備を進める。第一次攻勢は日英米軍の有力な航空部隊により地上部隊が大損害を出して諦めた。流石にエジプトまで来れば日英米軍の航空戦力が目白押しでありドイツ空軍の勝ち目はない。それに東部戦線へ空軍も割かれてしまい補充が追いつかなかった。質でも量でも圧倒的に劣って無茶な攻勢だと突き上げる。


 それはさておき、軽戦車は敵の第二次攻勢が何時なのか情報を得るべく、その快速性を活かし過酷な大地を走り回り各所の敵軍を監視した。


「自走砲が幾つか見えるな…奴らは機械化自走砲を真似したか。兵士は偽装作業の真っ只中で外に出ている。よし、戦闘用意」


「装填装置よし。いつでもどうぞ」


(こちら3号車。自動装填装置異常無し)


(2号車、同じく異常無し)


 軽戦車隊は単独行動の多い装輪装甲車と違い3両1小隊で行動する。装輪装甲車は馬鹿げた機動力でかき回すのに対し、軽戦車隊は快速性と火力を両立させた都合で奇襲を担った。奇襲するには単騎だと心許ないため3両小隊が組まれる。持ち前の火力が単純計算で3倍となり一気に叩きのめした。


「ケホの火力、見せてもらおうか。1号車は正面、2号車は左翼、3号車は右翼の敵自走砲を叩け。軽装甲車両が相手だと徹甲弾がすっぽ抜けるかもしれない。砲手は十分に注意するように」


(了解、砲手伝達)


 砂漠塗装を塗りたくられた軽戦車は異形そのもの。


 その名は二式軽戦車ケホと言い最新鋭の戦闘車両だ。特筆すべきはその砲塔であり揺動砲塔と呼ばれる。上部砲塔に主砲が備え付けられ下部砲塔とシーソー式で照準をつけた。砲塔が分割されることで得られる強みは自動装填装置の取り付けが容易であること。パナール社の考案した揺動砲塔に自動装填装置を取り付けた主砲を搭載することで軽戦車としては高火力を実現した。もっとも、本来の目的は日本兵には重労働となる75mm砲弾の装填作業を省略するため。しかし、75mmという大口径砲は難易度が跳ね上がった。実現可能性に欠けてもう暫く待たれる。


 ケホの主砲は57mm砲だがチハ1の物ではなく、イギリス製オードナンス QF 6ポンド砲だった。長砲身の57mm砲という点で共通し弾薬も互換性がある。そこまで大きくなくて軽量なことから自動装填装置の採用は比較的に容易と考えられ、47mm砲の試作品から一回り大きくなるに過ぎないため堅実を採った。基本的な機構は何ら変わらない代わりに信頼性の向上を図って故障の発生率を下げている。リボルバー式の弾倉には57mm徹甲弾を7発まで装填でき左右2個置くことで14発の速射を可能とした。自動装填装置が機械である以上は一定間隔で装填作業を行える。57mmの小口径砲弾のためか1発あたり僅か2秒で作業を完了し、本気を発揮した際は14発を28秒で撃ち尽くした。


「砲撃開始!」


「撃ちます!」


 1発発射すると直ちに自動装填装置が働いて独特の機械音と共に徹甲弾が装填される。原則として装填するのは徹甲弾に限定された。これは誤作動を起こした際に榴弾が誘爆する恐れが否めないからである。


「撃破した。次!」


「こんな撃てたら世話ありませんね!」


「榴弾砲の直撃は耐えきれん。全て平らげろ!」


 2秒装填の後は若い砲手がしっかりと狙いを絞り切った。揺動砲塔は発射後の安定性に劣る弱点を有する。しかし、57mm砲であれば気にならない範囲で収まり且つ後部砲塔配置のおかげで多少は軽減できた。


 標的は三号や四号と見えない。砲塔がない代わりに大口径榴弾砲を車体に備え付けた姿形から自走砲と察した。ドイツ軍は日本軍の自走砲や砲戦車の脅威から軽榴弾砲の自走砲化を加速する。元々一号戦車や二号戦車、35t/38t戦車の車体を流用して榴弾砲を搭載した。あくまでも旧式戦車を腐らせないためのリサイクルに過ぎないが、日本軍の機械化砲兵師団の威力の前に機甲師団が粉砕されている。これには認識を改めざるを得なかった。


 あの10cm級と思われる榴弾の直撃を受け止められる装甲はない。ケホはあくまでも20t級軽戦車なのだ。その車重は13tと極めて軽いが装甲を削っている。車体は最大20mmで砲塔は30mmと機銃弾を受け止められる程度だ。重い自動装填装置を持っても装填手を省き乗員を減らした上に砲塔を小型化して軽量化している。


(左翼の敵は全滅)


(右翼も撃破した)


「こちらも最後だ」


 75mm砲に比べれば軽い音だが57mm徹甲弾は十分に強力だ。貫徹力は500mで100mm装甲を食い破る程に高い。ただし、軽装甲が相手では過貫通してすっぽ抜けた。そこで、砲手は弾薬が置かれていそうな点を狙う。徹甲弾が過貫通しても弾薬を貫けば誘爆させられた。最後の自走砲は盛大に爆発四散したことから容易に理解できる。


「敵自走砲の全滅を確認。直ちに撤収して残弾を確認し再装填を行う」


(了解)


(はい)


 車重13tに統制500馬力ガソリンエンジンは過剰と思われた。しかし、優れた出力重量比率のおかげで加速力はずば抜けて高い。装輪装甲車には負けても戦車としては最高クラスでM3軽戦車にも負けなかった。安心と信頼の改良型日本式サスペンションで走破能力も高く砂漠でも縦横無尽に走り回る。


 あっという間に自走砲を平らげたケホ隊は残弾を気にしつつ急速後退でその場を後にした。人力頼りの装填では到底不可能な超速射は新時代の幕開けを予感させる。この実戦より日本陸軍は将来的に全ての戦車に自動装填装置を搭載する方針を固めた。労働軽減に加えて装填手を省略できる強みは人的資源に不安の残る日本にピッタリだろう。


 無論だが自動装填装置が完全無欠にして万能とは言えなかった。絶対に故障しないと保証は存在しない。それに搭乗員が巻き込まれる事故の危険性も孕んだ。したがって、史実の現代主力戦車でも人力装填を採用する国は多くある。


 ただ、戦後に主力戦車ことMBTに移る激動に日本は諸外国を置いてけぼりにした。中戦車で培った高機動に軽戦車で得た自動装填装置を組み合わせた高火力にして高速な戦車は国際標準より外れても明確な脅威であり続ける。後の日本MBTは局地戦争で圧倒的な力を誇ったがまだ先のことだ。


「自動装填装置か…こいつは最高だな」


続く


~後書き~

〇二式軽戦車ケホ

 装輪装甲車に負けない火力を求めて自動装填装置付き6ポンド砲を搭載した。フランス独自の揺動砲塔を採用することで実現しており、57mm徹甲弾の速射が生む大火力は圧巻で各地の敵戦車を奇襲しては撃破する。


主砲:6ポンド砲

装甲:揺動砲塔30mm

   車体20mm

エンジン:統制500馬力ガソリンエンジン

最高速度:整地70km/h

     不整地50km/h

サスペンション:改良型日本式サスペンション

特筆事項:自動装填装置

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