第63話【前】新型中戦車チト

 日米軍合同で行う大反攻作戦に際して日本陸軍は新型戦車を用意した。従来のチハ1とチハ2では厳しくなり始め、アメリカ軍はM3とM4を投入していることから自分達も新型を送り出す。戦車の始祖たるイギリスとフランスから吸収して国産を開発したはよかった。しかし、ドイツの目覚ましい発展やソ連驚異の中戦車を鑑みると置いてけぼりが浮かび上がる。


 戦時中もインフラ整備をせっせと行い国内の主要道路は整備され、運ぶ輸送船も大量建造されて中戦車専用の戦車揚陸艇も開発された。そして、運用する場所はヨーロッパの大地である。総合的に考えて新型中戦車はチハの流れを汲んだ30t級が計画され、且つ同時に装輪装甲車に負けない20t(未満)級軽戦車も始まった。それぞれ42年春頃には開発を完了して試作車が完成している。満州での試験を経てから前線へ送られる予定が狂い前倒しした。現地で調整を続けて少しずつ完成を目指す。


 そうして初期生産型はアレクサンドリアに到着次第にモンゴメリー将軍率いるイギリス・オーストラリア軍機甲師団に参加した。トブルク要塞に送られなかったのは新型故に部品の在庫確保が要されて確実に補給を受けられるエジプトが好ましい。その代わり、トブルク要塞にはアメリカより供与されたM4中戦車を独自改造した戦車が送られた。現地に到着した新型の日本中戦車にイギリス兵がわらわら寄り日本戦車兵に問う。


「前のChi-Haとはどう変わったんだ?いや、見た目が大きく違うことは分かっている」


「本車はチト(Chi-To)と呼んでいる。まず主砲が大幅に強化されてイギリス製を基に独自開発した75mm砲を搭載した。チハ2の75mmは単なる野砲だが、これは純粋な対戦車砲である」


「75mmか。確かに砲身が長い」


「威力はどんなもんだ?これだけなら徹甲弾の速さはとんでもなくで貫徹力も高い」


「通常の徹甲弾を使用した際は1000mの距離で垂直120mmの装甲板を食い破る。傾斜がかかると100mmがギリギリだ。イギリス軍と鋭意開発中の新徹甲弾ならば200mmも夢ではないが、残念ながら間に合いそうもない」


「すげぇなぁ…」


 新型中戦車は二式中戦車チトだ。チハ1及びチハ2の後継車両として開発されたが見た目からして弟とは思えない。全体的にコンパクトだったチハから大型化し主砲も強力そうに見えた。イギリス軍から得た技術から開発した50口径75mm戦車砲は強力に尽きる。


 本砲の基となったのは同時期に開発されたオードナンスQF17ポンド砲だった。イギリス軍は2ポンド砲の非力さから6ポンド砲(57mm砲)を開発する。しかし、重装甲の戦車が出現した際に対応できないと考えられ、より高い貫徹力と威力を併せ持った対戦車砲を要求した。流石のイギリスはあっという間に17ポンド砲を完成させて生産体制を整える。もっとも、現時点ではドイツの三号及び四号は6ポンド砲で撃破できた。敢えて17ポンド砲を大量生産して前線に送る必要性を感じない。強力な大砲故に大きくて重くてと使い勝手は良くなかった。それなりの貫徹力を有し軽くて使い易い6ポンド砲が主力を務める。


 17ポンド砲の凄まじい性能に注目した日本陸軍は41年時点で試作品を入手した。試作品へ独自の改造と改良を加えた75mm対戦車砲を制作する。75mm砲だとボフォース社の高射砲を転用するのが手っ取り早かった。それでも17ポンド砲の高貫徹力と高威力は目を見張る。17ポンド砲は大柄で戦車への搭載が難しく高貫徹力を支える装薬が過剰気味なことが弱点だ。多少は性能が落ちても衝撃を和らげるため弱装に変えて弾速が低下している。


 この75mm砲は17ポンド砲譲りの高貫徹と高威力を誇った。全力では分間20発を誇るが実用的でなく日本兵では分間6~7発が限界である。徹甲弾が75mm野砲よりも重くなり仕方なかった。それでも1000mの遠距離でマチルダⅡさえ撃破できる力は魅力的だろう。


「なんだがHo-Iに似ている気が」


「お、ご名答だ。実はチトはホイの設計を流用している。具体的には砲塔がホイを倣った物だが鋳造砲塔で大量生産を意識した。やはり兵器に余裕を持たせることは重要だと」


「あぁ、あの25ポンド野砲を搭載した支援戦車か。あれ欲しいんだ」


 チトの砲塔はホイを参考にしていた。ホイはイギリス製の傑作25ポンド砲を搭載した砲戦車と言う支援戦車とされ、口径84mmの榴弾砲は使い勝手に優れ直接照準による対戦車戦闘から間接照準による支援砲撃まで対応する。戦車兵は「これが俺たちのアハトアハトなんだ」と笑う程に優秀を極めた。そんな大口径砲を搭載するため砲塔はかなり余裕が設けられている。余裕のないカツカツなイギリス製とはかけ離れた。


 鋳造砲塔は生産性に優れて溶接より大量生産に適し数を揃えやすい。一部のM4中戦車とT-34-76中戦車も鋳造砲塔であり馬鹿げた生産量に貢献した。国内の生産体制が整ってから新型中戦車に採用するが、生産性の他にも滑らかな曲面から敵弾を滑らせる防御力の底上げが見込める。


「車体はチハを踏襲した堅実な形だが大型化で車内容積を増して居住性が向上している。車載機銃が無くなったのは痛いが明確な弱点だからやむを得ない。同軸機銃で我慢した」


「装甲はどんなもんだ」


「いや、これが大して変わらない。最も厚くて50mm程度なんだ」


「それだと、最近見られたMk-Ⅳspecialにぶち抜かれるぞ」


「重量の都合でこれが最大らしい。一応は増加装甲を取り付けられる配慮がされている。それにチトの強みは快速性能にあって最速55km/hは伊達じゃないぞ」


 砲塔も車体も同じく50mm装甲で堅いとは言い難かった。マチルダⅡのような重装甲にする案も出たが重量増加が著しい。チトは新型75mm戦車砲が重くて嵩張ることから重量増加は半端ではなかった。車重は30t程度に納めたく削らざるを得ない。ただし、500馬力ガソリンエンジンと新型変速機に油圧サーボシステムの3種の神器が圧巻の機動性を生んだ。その最高速は55km/hを誇り油圧サーボでスイスイ動いてくれる。その優れた速力を以て迅速に敵軍をかき回して確固撃破した。


「例の四号戦車長砲身型はまだ少数と報告を受けている。用心することに越したことはないが、相手以上の高機動で翻弄することが俺たちの戦い方だ。よって、あなた方の踏ん張りに期待したい」


「M4を貰ったんだから暴れないと気がすまない。紳士たるものとか言うが北アフリカでそれは通じない。この大地で暴れ回らないと勝てなかったさ」


「まったくだ」


 モンゴメリー将軍の機甲師団の装備はアメリカ供与品が殆どを占める。マチルダⅡは既に移動式トーチカに回された。クルセイダー巡航戦車は故障が多く使えない。アメリカから供与されたM3及びM4中戦車が主力に代わり前線に出撃した。快速戦車にはM3軽戦車が偵察から歩兵掃討まで担う。一応だが本国で新型歩兵戦車と新型巡航戦車の開発が進んでいると聞くが遅々として進んでいなかった。


「我々は11月まで習熟に励み調整を行う。その間は頼り切りになるが、どうかお願いしたい」


「何を言うんだ友よ。俺達の同盟は後100年は存続するんだ」


続く


=後書き=

〇二式中戦車チト

 チハの後継車両として開発された新型中戦車である。長砲身57mm砲を承継した仮称チヘが存在したが火力不足から廃案となりチトが採択された。開発期間短縮と生産性を考えて砲塔はホイを参考にし、車体はチハと同じ形状で部品も共通化し生産性と整備性に優れている。ライバルとしてはアメリカのM4、ソ連のT-34-76、ドイツの四号戦車F型(後期)が存在した。


主砲:一式50口径75mm戦車砲

副砲:主砲同軸ヴィッカース7.7mm機銃×1

   キューポラ12.7mmブローニング機銃×1

装甲:鋳造砲塔50mm

   車体正面50mm(現地で増加装甲貼り付け可能)

エンジン:二式統制500馬力ガソリンエンジン

最高速度:整地55km/h

     不整地40km/h

サスペンション:改良型日本式サスペンション

特筆事項:油圧サーボ搭載

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る