第21話 四四艦隊の猛爆【後編:ダンケルク撤退支援】

 空母天城と加賀から発した攻撃隊総数80機弱はダンケルクを目指すドイツ北東方面軍へ爆弾をプレゼントする。母艦から目的地までは艦載機にとっては近くのため何も心配なく行えた。道中で母艦が空襲を受けたと聞いたが零戦がバタバタ撃墜して損害は皆無らしい。護衛機が付いていると雖も旧式スツーカが零戦に見つかったら終わりだった。そして、何重にも構築された防空陣の前に鈍足爆撃機が空母に辿り着けるわけがない。したがって、何も気にしないで真っ正面の哀れな敵兵を銃爆撃した。


(フランスの友が決死で発見した敵軍…絶対に壊滅させてやる)


 九九式艦上爆撃機隊を率いた隊長はフランス空軍の奮戦を知らされている。装備で劣っても戦意は底を尽きずに徹底抗戦を行動で示した。少しでも多くの味方が生き残り反撃に転じるため損耗を無視して戦う。


 しかし、政府など上層はそうもいかなかった。徹底抗戦派と休戦派に二分しており軍も分裂が見られる。日本は好機と捉えてオランダ同様の方法を当てはめてアジアの仏領を日本に編入する交渉を進めた。ドイツにアジア領を盗られると直接攻撃や通商破壊の恐れが生じるため、是が非でも連合国側に引き込んでおきたい。フランス政府は植民地時代の終焉を理解して日本主導の独立を認めるに至った。また、アジア領ではないがマダガスカル島については日英で管理することを引き出している。アフリカの補給拠点を確保することに成功して迂回路の補給が著しく改善された。その他にも前線から脱出する軍隊は大半はイギリスへ向かって反攻の機会を窺うが、一部は適性より日本へ回されることになったが後に語るとしよう。


 そんな水面下の話は知らない攻撃隊は車両で固めたドイツ軍を捕捉した。ベルギーに攻め入ったドイツ軍は戦闘工兵を降下させて要塞線を無効化した後に機械化歩兵を突入させている。戦車を主とした機甲師団はアルデンヌの森突破及びマジノ線迂回に充当され、こちらは比較的にであるが歩兵が多いように思われたが戦車がいないわけではなかった。二線級戦力に引き下げられたが主力の不足で未だに運用される一号戦車/二号戦車が歩兵に追従している。少数だが車体を流用したと思われる簡易的な自走砲もあった。一見して弱そうだが地上の兵隊からしてみれば明確な脅威である。機銃しか持たなくても軽戦車は掃射で兵士を薙ぎ、自走砲は榴弾で確実にトーチカなど兵士の守備を削いでいった。侮れない難敵と評せるだろう。


「上空に敵機見られず。対空砲に注意しながら小隊単位で急降下開始!」


 手本を見せるため第一小隊が急降下を開始した。中高度から緩く高度を下げて一気に角度を増して急降下態勢に入るとダイブブレーキを展開する。操縦が難しい問題はヨーロッパの海でも月月火水木金金の猛訓練で解消した。火星エンジンの力強さと機体の頑強さに惚れ込んだ彼らは対艦攻撃だと500kg徹甲爆弾を使用する。しかし、今回は対地のため250kg陸用爆弾と60kg陸用爆弾4発を提げた。戦車であれば250kg爆弾で十分に撃破可能であり軽装甲な相手には60kg爆弾で包めばよい。


「その程度の対空砲火で九九艦爆は止まらん!」


 牽引式と思われる対空機関砲から弾が撃ち込まれた。しかし、スツーカよりも高速で硬い九九式艦上爆撃機は意に介さない。ドイツ軍の対空機関砲は新型の2cmFlak38であり高い射撃速度を誇り極めて強力だった。まともに直撃しては堪らないが熟練者が占める急降下爆撃隊は見事に250kg爆弾を投下する。投下後は降下で得た速度を転用して一気に逃げた。機動性が悪いため直線的でも圧倒的な速度で肉眼を追い付けさせない。もちろん、被弾した機体もあるが濃厚な対空砲火を強引に突っ込むことを想定した重装甲で無理やり捻じ込んだ。


「撃破確実!」


「戦車をやったな!」


「はい!」


 銃座で7.7mmを構えていた若い兵が戦果を告げる。目標にした敵二号戦車は250kg爆弾の至近弾で吹っ飛んだ。的が小さくて直撃は難しくても軽装甲であれば至近弾で破壊できる。また、破壊できずとも軽量が仇となり横転して潰れている車両もあった。


 残りの60kg爆弾をどうしようか更なる敵を探す。戦車には有効打を与え辛い以上は防御の無い相手を狙いたかった。一応は4発携行して小隊単位の制圧力は馬鹿にできないが丁度良くハーフトラックの群れを発見する。ドイツ軍が誇る万能ハーフトラックのハノマーク社Sd Kfz 251だ。戦車に随伴できる輸送車両でありながら汎用性を活かし対戦車砲や対空機銃を搭載した即席戦闘車両として活躍する。敵の足を奪うことを考えれば必ず叩くべき目標と思われて直ちに攻撃に移った。高度的な都合で浅い角度の降下だが制圧を狙い敢えて適当にばらまく。


「非情だが離脱する時に掃射してやれ。敵戦闘機に使う弾を無駄にするなよ」


「はい」


 爆弾をパラパラ撒いて離脱する際に後部銃座から7.7mm弾を掃射した。対空用の7.7mmは地上に移ると重機関銃と化す。装甲なんて持たない歩兵であれば一斉射で倒れるが自機が高速移動していると命中精度には期待できなかった。あくまでも無いよりかはマシ程度の攻撃である。命中精度を高めるならば機首の7.7mm機銃を使うべきだ。九九式艦上爆撃機は自衛のため銃座だけでなく機首にも機銃を有し、余裕があれば機銃掃射を行い地上のトラックや兵士を叩きのめす。


 味方機の邪魔をしない範囲で反転して機銃掃射を仕掛けるがハーフトラックに隠れた兵士には通用しなかった。ハノマーク社ハーフトラックは機銃を防げる程度の装甲が部分的に設けられている。絶対的な守りではなくても7.7mm程度は防げるため危機一髪で免れた。


「やはり12.7mmじゃないと貫徹できないか…」


「爆撃機には重いのが難点なので改良を待ちませんと」


「そうだな。やはり対地攻撃には戦略爆撃機が有効だろうか」


 優れた動体視力は無事のドイツ兵を捉える。貫徹力の高い12.7mmでなければ装甲トラックの撃破は困難だった。零戦は12.7mmを4門有して機銃掃射の威力は艦爆以上にある。ならば艦爆にも12.7mmを付ければよいと思われるが残念ながら重量の問題で難しかった。艦爆はただでさえ重い爆弾を重装甲の機体で吊り下げるため重量の制約が厳しい。そして、12.7mmのブローニングは航空用機銃としては比較的に重くあり国産化で多少は軽量化されたが重いことに変わりなかった。全体的に重くなると多方面で困難を増しやむを得ず7.7mmで妥協している。もちろん、7.7mmは弾数が多くて真っ直ぐに飛び扱いやすい機銃のため悪者とは言えなかった。


「被弾した機体は無理して留まらず帰投しろ。着艦できなくても落下傘で脱出すれば駆逐艦に助けてもらえる」


 隊長として無駄な被害を出すわけにはいかない。被弾して飛行が覚束ない機体は母艦まで変えることを逐一伝えた。旧式機が多かった昔までは被弾したら戻れる可能性は限りなくゼロに近く、自分を犠牲にして被害を与えるため敵に突っ込むことが多くある。しかし、現在は機体性能の向上で何とか戻れるようになった。更に緊急脱出用の落下傘が標準装備となり友軍艦の近くまで戻り機体を捨てれば命は助かる。熟練者を温存してヒヨッコ達を叩き上げて欲しい軍は脱出して生き残ることを徹底させ、心許ない人的資源を削らぬように生還を第一として指導を繰り返していた。


 2cmFlak38対空機関砲の弾が直撃した機体は燃料を噴き出し退避する。いくらなんでも敵地に脱出したくはないため可能な限り母艦まで戻ろうと試みた。迎撃機のない地上部隊は丸腰だが優秀な対空機関砲を押し立てて意外と抵抗は激しくある。零戦が機動力を活かして低空でクルクル回避しながら接近して機銃を撃ち込んで黙らせるが無茶は犯したくなかった。一通りの攻撃でドイツ軍の対空砲は強力と認識し安全圏から攻撃できる武器が求められる。


「これ以上は第二次攻撃隊に任せる。機を見て退避せよ」


 既に第二次攻撃隊が発艦してこちらへ向かっているはずだ。戦果確認のため偵察仕様の艦攻が詳細な情報を提供して自分達とは違う装備に変えている。更なる戦果を期待して第三次攻撃又は第四次攻撃に転身するため母艦に帰還した。空母機動部隊の何よりもの強みは動き回ることが可能な点である。固定の基地航空隊と異なり海を移動するため神出鬼没の攻撃を与えられた。味方が制空権を確保していても制海権が欠けていると僅かな隙を突かれて痛撃を貰うことを学べる。


 ドイツに決定的に欠けている箇所を徹底的に攻め入る日本海軍だった。しかし、今回の空爆は味方の英仏軍の撤退を支援するためで時間稼ぎの意味合いが濃い。マジノ線を迂回した機甲師団が背後を断ち北部に逃げるしかなく、史実に比べて奮戦していると雖も暖簾に腕押しだった。辛うじて包囲は免れた上に悪天候で敵軍の更新が鈍った間に撤退を強行し続けてダンケルクへ逃げ込んでいる。空軍の爆撃やUボートの襲撃は日英海軍が抑え込み民間の漁船まで動員した大撤退作戦が始動した。認めたくは無いがドイツ軍の戦略にしてやられたのである。下手に抵抗を続けて包囲から各個撃破されるよりかはイギリスに逃げて再起を図る方が好ましかった。


 なお、フランス援軍で火消しに動いた日本軍も適度に抵抗しながら後退してカレーで戦車隊と合流している。カレーでは陸海軍が共同開発して建造した揚陸艦が迅速に回収した。残存兵力は本土から来る増援と合流次第にアフリカに送られる見込みでありスエズ運河を絶対死守するため戦うだろう。スエズ運河は日本の戦略上重要な地中海の大拠点のため失うわけにはいかなかった。


 かくして、ドイツによるフランス侵攻は着実に進んでいる。


 そんな中で2隻の戦艦がフランスから脱出した。


続く

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