第16話 対フランス援軍派遣

1月


 大日本帝国は日栄仏欄四ヶ国同盟を盾にして陸軍を派遣することを決定した。先んじて海軍が派遣されるとイギリスとフランスの間に広がって掃海活動に従事している。海軍が確固たる航路を確保しているが念のために海上護衛総隊の護衛を受けながら陸軍を乗せた輸送船団はイギリスを目指した。派遣軍の内容は新設された機甲戦力が大半を占め歩兵は随伴兵士である。ドイツはポーランド侵攻において再軍備宣言から整備した軽戦車隊でポーランド軍を蹂躙した事実があった。よって、本来は対ソ連対策で整備した機甲戦力を贅沢に投入するに至る。対ソ線は中国軍に任せているが安心要素として日中・ソ連不可侵条約が存在した。また、ソ連もポーランドへ侵攻して今度はフィンランドに手を出そうとしている。おそらくだが満州地方に突っ込める余剰戦力は無いと読めた。


 イギリスまでの道中は海軍がドイツ軍封鎖を試みた上にドイツ海軍は大西洋にしか展開しなかった。パナマ運河を経由しない大迂回航路は何らの襲撃を受けずに通過することに成功する。大西洋に入るとUボートが待ち構えている危険が跳ね上がるが現時点では小型のⅡ型しか配備されておらず大した脅威ではなかった。小型で隠密性に優れる利点がある一方で航続距離が短く展開可能な時期は短い。地理的にも潜水艦基地があるバルト海は凍り始めて潜水艦の行動に大幅な制約を被った。仮に強行したとしても日英同盟艦隊が隙の無い哨戒活動を行い、感圧信管の対潜爆弾又は航空爆雷を吊り下げた搭載機が動き回る。潜望鏡を上げた瞬間に爆弾か爆雷を放り込まれて撃沈された。イギリス海軍が展開した海域では空母が撃沈されたのに対して日本海軍が展開した海域は損害無くUボート数隻を撃沈する。どうやら、Uボートは大量の水上機が飛行している中での雷撃は不可能と思い怖気づいたようだ。撃沈されたのは危険を冒した勇敢な艦であり敬服する。


 さて、大西洋でも比較的安全な航路を通ってフランス援軍はイギリスに到着した。イギリス軍もフランスへ援軍を送ることを決定しており日英軍で一緒にフランスへ向かう。ドーバーを楽しんだ大日本帝国機甲師団は行きで使った輸送船に乗り込んでフランス領カレー港を目指し出発した。その道中は変わらずUボート対策のため大量の護衛艦が追従している。


「キャプテン島田。私たちはアルデンヌ地方に展開するがドイツ軍は来ると思うか?」


「私は末端の兵隊に過ぎないため詳しいことまでは分からない。しかし、ドイツが接するマジノ線に真っ正面から突っ込む愚は犯さないと考える。迂回して後方を遮断し浸透すると思った」


「それがアルデンヌとなるのか」


「そう予想するが相手は戦車を多数擁している。マジノ線を機動力で突破することも無きにしも非ず。結局は運次第だろうな」


 派遣されたのは最精鋭と呼ばれる島田戦車隊だ。最新の中戦車チハ(ⅠとⅡ)及び砲戦車ホイⅠを織り交ぜた複合戦車軍団である。随伴歩兵もいるにはいるが数は少ないためイギリス軍の歩兵部隊が加わり不足を埋めてくれた。これも日英同盟のおかげだろう。


「カレーに機雷は?」


「既に掃海済みと聞いたが、念のために木製の駆潜艇が捜索する」


「なるほど木製か。それなら機雷に引っ掛からない」


「木は古来の先祖が培ったきた技術がある。木製の小型船程度は幾らでも作れる」


 ドイツ海軍はイギリス海軍やフランス海軍に劣り対抗するべく潜水艦を大量投入した。もっとも、開戦当初の39年時点では先述のⅡ型が機雷を敷設して封鎖を試みる。ドイツ海軍の機雷は磁気を感知する方式であり直撃しなくても至近の爆発で損傷を与えた。至近弾でも商船や輸送船は大穴が開いて浸水する危険度が高い。しかし、対抗策として日本海軍が木製の駆潜艇や掃海艇を投入し掃除してしまった。日本海軍も日中戦争や日露戦争で機雷に苦しめられた過去があり対策を怠らず、磁気感知式機雷はドイツと同時に開発に成功して磁気を消す処置方法の確立を待っている。待っている間には磁気を出さない全木製の小型艇を多数用意して掃海に送った。


 9月開戦から艦隊派遣に始まり小型船の大量提供も遅れて進められる。日本からイギリスまでは距離相応の時間を要したがドイツ海軍の動きが鈍化した頃合いを見定め一挙に輸送船団を派遣した。輸送船は本土に限らず中国の沿岸部各地で建造されている。大量生産に伴う徹底的な簡素化のおかげで小規模な造船所でも容易く作られ需要を喚起した。一般的な貨物船やタンカーが大半を占めたが各方面の専門性を纏う船も存在する。例えば護衛空母よりも簡素な設計の簡素空母特TL型や戦車揚陸用特ES型が使用された。前者は陸軍航空隊をイギリス本土へ送り込み、後者は現在進行形で島田戦車隊が乗っている。


 話を戻して木製の掃海艇及び駆潜艇は小回りが利くことを活かして機雷除去に精を出した。万が一にUボートを発見した場合は迫撃砲で攻撃する。小さな船体では重くて大きな簡易十二糎榴弾砲は使えなかった。よって、小型軽量な迫撃砲を用いるが意外と効果を発揮してくれる。砲弾は小型で威力こそ小さいが速射が利いて数で押し包んだ。迫撃砲はヘッジホッグの前身として物量を押し付ける。


 しかし、海防艦よりも小さな船では居住性に難があり士気の問題が浮上した。一応は担当する兵士で交代制を組んでいる。船はそのままに人員だけ定期的なローテーションを回して休養を取らせる仕組みを構築したが、逐一母港に戻っては非効率なため大型の母艦を配置して解決した。


「それにしても、まさか祖国の老朽艦がこのような形で活躍するとは。見事な発想である」


「戦車隊の自分も驚いたから無理もない。標的艦として沈んだとばかり思っていたがな」


「第二の人生を送る『マールバラ』よ、まだまだ頑張ってくれ」


 アイアン・デューク級戦艦二番艦であるマールバラはワシントン海軍軍縮条約によって廃艦となった。非武装化を施した上でスクラップとなり日本の民間会社が購入して移送される。だが実際は日英密約に則って来日すると直ちに海軍に徴収された。非武装化は名ばかりであって武装を復活させると仲間の他4隻同様に標的艦として働く。しかし、前時代的と雖も5隻も超弩級戦艦がいれば標的艦には困らなかった。マールバラも水雷防御の試験が行われて新型魚雷開発に多大な貢献をしている。最終的には標的となって沈んだ扱いとなったが、数か月かけて密かに修復工事が行われた末に練習艦として生まれ変わった。


 艦名はマールバラそのままに練習艦の人生を送っていると二度目の世界大戦の匂いを嗅ぎ取る。そして各種小型船(艇)の母艦となる改造工事が追加された。不要な主砲を撤去して前部から後部まで平たくし、弾薬庫など空いたスペースには乗組員以外の居住区を増設する。後部には最初は無かった射出機を追加し4機の水上機を搭載して気休め程度の哨戒機を発進させるようにした。


 とは言え、改造工事を経ても所詮は老朽艦のため速力は22ノットが限界であり装甲も最小限である。しかし、あくまでも人員が休む移動式の宿舎と考えれば十分過ぎた。それに腐っても戦艦のため兵士の士気向上にも繋がり約30歳の老齢を感じさせない第二の人生を歩む。特にイギリス兵からは懐かしき戦艦と再会できて嬉しそうだ。姿形が大きく変わろうともマールバラは不滅であり、時代に沿って生き長らえるためと皆が理解しており好感触を得ている。


(なんとか「まやかし戦争」が終わる前までに配置につきたい。ドイツ軍では新型戦車の存在が確認された。どれだけ通用するか全く測れなくても時間稼ぎにはなると信じたいよ)


 イギリスとフランスはドイツに対して宣戦布告したがお互いに侵攻はしなかった。両国は宥和政策の影響が引きずられて直接攻撃を控えている。その代わりに戦力を蓄積して防御を固めることに専念した。かのマジノ線にはフランス軍主力が配置されてイギリス軍もいる。しかし、日本から援軍で派遣された戦車隊は要塞線では使えないと判断されて防御が薄いアルデンヌ地方に送られた。ここを突破されて要塞線が瓦解すると困ると一部の将校から依頼を受けたからでもある。


(迅速に動くための半装軌車両もあるんだ。我が軍はやれることをやるだけ。これ以上無駄に考えるな)


 戦車には随伴歩兵が付くが移動で遅れては本末転倒だ。したがって、戦車並みに動ける半装軌車両ことハーフトラックが使用される。短期間で純国産を開発することは困難なためソミュア社製をライセンス生産し、それを独自に改良して国産化する常套手段を適用して開発された。ソミュア社は戦車開発でもお世話になっており陸軍の改革で多大な貢献をしてくれる。もしもドイツ軍がフランスに侵攻する際は優先的に脱出させる予定が組まれた。敵軍に渡すぐらいならば味方に預けよと掲げて既に各種試作車がイギリス経由で日本に渡っている。


 ノモンハン事件を経験して大急ぎで装備の刷新を図る陸軍は「まやかし戦争」が終わるまでに間に合うだろうか。


続く

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