第5話 秘技と秘術

「いくぞっ!!」


 エリザはそう言って戦斧を持った右手を高々と上げる。

 

「いくわよ! それっ!」


 デリルは魔法で巨大な雷を落す。しかし、その雷はどういう訳かエリザの戦斧に直撃した。バリバリと音を立てながらエリザが苦悶の表情を浮かべる。

 

「エ、エリザッ!!」


 アルは驚いてエリザに駆け寄ろうとする。しかし、それをデリルが止める。

 

「黙って見てなさい! これからなんだから」


 デリルがアルにそう言うと、雷撃を受けたエリザがそのままヴェラの方へ突進し始める。

 

「いくぜ!! あたしとデリルのコンビ技!」


 よく見ると帯電しているのは戦斧だけである。「サンダースラッシュ!!」

 

 勢い良く飛び跳ねたエリザが上段から雷を帯びた戦斧を振り下ろす。ヴェラの眉間にエリザの渾身の一撃が炸裂する。斬撃と雷撃を同時に喰らったヴェラは思いがけない威力に悶絶する。

 

「グオォォォッ!!」


 ヴェラの全身に衝撃が走る。身体中に濃縮された電撃が突き抜けていく。

 

「今だ、アル! トドメを刺せ!!」


 エリザは肩で息をしながらアルに叫ぶ。エリザもあのデリルの雷をまともに受けているのだ、ノーダメージという訳にはいかない。

 

「行くぞ! うおぉぉぉっ!!」


 アルは自らを奮い立たせるように声を上げてヴェラに突進する。電流で痺れて動きの取れないヴェラの懐に飛び込み、逆鱗げきりんに向かって竜殺しの剣を振るう。しかし、その一撃は逆鱗をほんのわずかにかすめたに留まった。

 

 ギィヤァァァァアァァアァアァァッ!!

 

 ヴェラが異常なほどに巨大な身体をのたうたせて暴れまわる。掠めただけでもヴェラにとっては耐え難い激痛なのである。

 

「や、やったか?!」


 エリザは片膝を着いた状態でヴェラの様子を伺う。

 

「うぐぅぅ……、おのれぇ……、わらわをここまで追い詰めるとは……」


 ヴェラは激痛から立ち直り、怒りをあらわにする。

 

「あーあ、こりゃもう駄目ね」


 デリルは諦めたように言って両手を広げる。

 

「デリルさん! 諦めちゃ駄目だ! あと少しだよ!」


 アルが鼓舞こぶするが、デリルは哀しげな笑みを浮かべる。

 

「ごめんね、私の魔力はもう空っぽなの」


 けろっとしているように見えるが、先ほどの攻撃で魔力を使い果たしてしまったのである。立っているのがやっとという状況である。

 

「エリザ! エリザもか?!」


 アルは剣を構えたままエリザに声を掛ける。

 

「まぁな……」


 エリザは片膝を付いたまま肩で息をしている。

 

「アル、残念だったな。わらわに逆らった罪は重いぞ」


 ヴェラがゆっくりとアルの方へ近づいてくる。エリザとデリルのすぐ傍を通り過ぎていくが、二人とも何も出来ずに黙ってヴェラを見送る。

 

「ぼ、僕は最後まで戦うぞ! ヴェラ、覚悟!!」


 身の程知らずのアルが竜殺しの剣を構える。ヴェラにとっては赤子の手をひねるようなものである。

 

「アル、手加減はせんぞ! 潔く散れい!」


 ヴェラは右前足を振り上げてアルに襲い掛かる。軽い胸当てしか装備していないアルがまともに喰らえば即死は免れまい……。

 これでパーティは全滅……と、その時、

 

「アル! 下がれ!!」


 背後からエリザがヴェラに体当たりを食らわした。不意打ちを喰らったヴェラは思わずバランスを崩す。

 

「む、お前、動けんのじゃなかったのか!?」


 アルをかばうようにヴェラに対峙するエリザ。何事もなかったかのように元気一杯である。突然復活したやっかいな敵にうろたえるヴェラ。

 

「へへっ、まだまだやれるぜ!!」


 エリザは盾を構えてアルを守る。

 

「エリザ、なんで急にそんなに元気になったの?」


 アルは不思議そうにたずねた。さっきまで虫の息だったのに……。


「ああ、ネロの奴がな、こっそり回復薬を飲ませてくれたんだ」


 そう、なりをひそめていたネロは、ヴェラがアルに気を取られている隙にエリザに回復薬を飲ませたのである。そして今はデリルのところにいた。

 

「先生、コレを飲んで下さい」


 ネロは袋の中から回復薬を取り出す。

 

「ありがとう、ネロくん。でも、体力じゃなくて、魔力が尽きたのよ」


 デリルは哀しそうに微笑む。「体力と違って魔力は簡単に回復しないわ」

 

 エリザの場合は回復薬であっと言う間に元気を取り戻したが、デリルはそういう訳にいかないようだ。

 

「魔力回復の薬もありますよ」


 ネロがそう言って袋の中を探る。


「無駄よ、ちょっとやそっと魔力が回復してもあの化け物には勝てないわ」


 市販されている魔力回復薬の効き目はほんのわずかである。そんなものは空っぽになったデリルには焼け石に水なのだ。

 

「先生、僕の魔力を使って下さい!」


「何を言ってるの? そんな事出来る訳ないじゃない」


 魔力というのはそんな風に人から人へ譲り合える物ではない。「気持ちだけ受け取っておくわ」

 

「違うんです! 出来るんですよ、僕の魔力を先生に上げられるんです!」


 ネロはそう言って不思議そうにしているデリルに抱きついた。

 

「ちょ、何してるの? 今はそんな事してる場合じゃないでしょ?」


 突然抱きついてきたネロに戸惑うデリル。

 

「行きますよ、オータム様に授けられしエルフの秘術……」


 ネロはデリルの爆乳に顔を埋めながらブツブツと呟く。「魔力注入!!」

 

「え? ええっ!! う、嘘でしょ?」


 デリルの身体にどんどんネロの魔力が注がれていく。みるみるうちにデリルの魔力が満たされ、あっと言う間にデリルの魔力は全回復した。

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