第3話 激闘の最中の救出劇
臥竜ヴェラがデリルとエリザに気を取られている間に、ネロはアルの救助に向かった。アルのところにはすぐに辿り着いたが、意識が
デリルたちの戦闘の邪魔にならないように避難する場所を探すと、自分たちが入って来たのとは別の小さな洞穴を発見する。
「あそこならなんとか運べそうだ」
ネロはぐったりしている全裸のアルを背負う。辺りを見回すと、アルの物と思われる服があったのでそれも一緒に持って行った。洞穴の中でエリクサーを飲ませると、徐々にエネルギーが満たされていくのが分かる。
臥竜の寝床にやってきてからちゃんとした食べ物は与えられていなかったようである。このままでは餓死するところだった。
「う、うぅ……」
アルの意識がはっきりしてきた。身体にも力が漲り始めた。
「アルさん、分かりますか? 助けに来ましたよ」
ネロは安心させるようにアルに語りかける。「みんなで帰りましょう」
「ぼ、僕は帰らないよ。ずっとヴェラと一緒にいるんだ……」
まだぼんやりしているアルがそんな事を言い出す。
「何言ってるんですか、このままじゃ死んでしまいますよ」
「良いんだ、どうせヴェラのように長くは生きられないんだから、せめて僕が死ぬまでヴェラと一緒に過ごしたい……」
どうやらアルはこの数日間、ヴェラと過ごした事によってヴェラに情が湧いてきてしまったらしい。「ヴェラと一緒に死ぬまでここで過ごすんだ」
「ふざけるなっ!」
ネロは思わずアルの頬を叩く。夢見心地になっているアルが驚いてしっかりとネロの方を見る。「エリザさんはあんたを助けるために決死の覚悟でここまでやって来たんだぞ!」
「エ……リザ……、!? エリザ!!」
アルは思い出したようにガバッと起き上がる。「エリザは無事なの?」
アルが生贄としてここに来る時、エリザは瀕死の重傷を負っていたのだ。
「大丈夫ですよ、すっかり元気になりました」
「そうか、エリザは無事なんだね。良かった……」
アルは嬉しそうにほっと息を吐いた。
「エリザさんと先生が
ネロがアルに胸当てを手渡す。「さ、これを着て」
「ヴェラと戦う? 無理だよ、勝てる訳ないじゃないか」
アルはエリザと共に一度ヴェラと戦っている。エリザの戦斧は全く歯が立たず、あっと言う間にボロ雑巾のようにされてしまったのだ。
「大丈夫です。そのためにしっかり準備をしてきました」
ネロは一振りの剣をアルに見せる。
「こ、これは?」
「竜殺しの剣です。いろいろあって最初の物より小振りになりましたが……」
ネロは剣とアルを交互に見て、「凄い、アルさんにぴったりだ!」
と言ってアルに竜殺しの剣を手渡した。
「ぼ、僕にヴェラを
「あなたが討たなきゃ、エリザさんは助けられませんよ」
ネロが必死で説得する。怯えたような目をしていたアルが、徐々に勇者の顔へと変化してしていく。エリクサーによって体力、気力も完全に戻っているようだ。
「それじゃ、準備していて下さい。僕は様子を見て来ます」
ネロはそう言って洞穴の入口からそっとフロアの様子を伺う。「あっ! 先生、危ない!!」
ネロがフロアを
ネロの矢は的確にヴェラの口の中に突き刺さった。
「ネロくん、君は弓が使えるんだね」
装備を整えながら見ていたアルが感心して言う。
「しまった! アルさんを奪い返したのを臥竜に気付かれた!」
デリルのピンチに思わず矢を放ってしまったネロ。そのせいで、アルがいなくなった事に臥竜が気付いてしまったのだ。「アルさん、準備は整いましたか?」
ネロが振り向くと、胸当てを装備し、腰に竜殺しの剣を携えたアルが立っていた。準備は万端のようである。
さっきまで頼りない少年だったアルが、胸当てと剣を装備しただけでとても頼もしく見えた。これこそが勇者の血筋なのだろう。
その時、突然地面が揺れ始め、フロアから臥竜の叫び声が聞こえた。
「うぉぉぉぉっ!! アルゥゥゥゥ!!」
悲痛な叫び声はアルの心に突き刺さってきた。
「ヴェラ!」
思わずフロアに飛び出すアル。
「アル! 無事だったか!!」
エリザが嬉しそうにアルに言うが、アルはヴェラを見上げている。
「ヴェラ! もう止めよう! 僕は君を殺したくは無いんだ!」
「わらわを殺す? アル、お前にそんな力があると言うのか?」
臥竜の姿に戻ったヴェラがアルを見下ろしてアルに問う。
「僕だけじゃない。エリザたちもいるんだ。君に勝ち目はないぞ!」
「ぶはははは!! 多少はやるようだが、わらわの敵ではないわ。本気のわらわに
ヴェラは最後の警告をする。
「ヴェラ……。僕はもう迷わない! 我が名は、勇者アル!!」
アルは腰に携えた竜殺しの剣をすらりと抜いてヴェラと対峙する。
「おのれ、もう許さんぞ! わらわの真の力、思い知れ!!」
ヴェラは再び身体を震わせ始めた。
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