第3話 遺跡の奥で

「ところで、博士はまだ戻らないの?」


 訓練場に来て随分時間がつが、一向に博士は戻ってこないのだ。デリルは痺れを切らしてヴァイオレットにいてみた。

 

「そうですね。夢中になると没頭するタイプですから……」


 ヴァイオレットはそう言いながらもちょっと不安そうにした。何しろ、遺跡の調査はほとんど終わっていたはずなのだ。


「何かトラブルでもあったんでしょうか?」


 ネロが心配してそう言った。

 

「遺跡って私たちも入れる?」


 デリルが言うとヴァイオレットは、

 

「ええ、ほとんど調査済みなので危険は無いと思います」


 と答えた。


「ちょっと私たちが見てくるわ」


 デリルはネロと一緒に遺跡に行ってみる事にした。

 

「ネロ、もしもの時に備えてこの弓と矢も持って行きなさい」


 ヴァイオレットがネロに弓矢を持たせる。「それさえあれば君は無敵だ」

 

 デリルとネロはヴァイオレットの案内で、遺跡の入口までやってきた。


「それじゃ、博士を探してくるわね」


「はい、お気をつけて」


 ヴァイオレットに見送られて二人は遺跡に入っていった。

 

 

 

「思ったより深いですね」


 ネロはいかにも遺跡といった感じの石作りの建造物を見ながら言った。

 

「そうね、さっきからずっと下ってるわね」


 デリルはただならぬ雰囲気を感じながら歩を進める。

 

 ドォン!! ドォン!!

 

 突然、大きな地響きのような音が聞こえてきた。二人は顔を見合わせて、少し小走りに先に進んだ。階段がようやく終わり、やっと広いフロアに出る。

 

「あ、あれは!?」


 ネロが叫ぶ。指差す先にはいかにも探検家といった服を着た初老のエルフが何者かに襲われていた。

 

「大変! あれ、多分遺跡を守っていた守護者だわ」


 デリルは博士に襲い掛かる巨大な何かを見て言う。守護者とは、侵入者から大切な物を守るために設置されたカラクリ仕掛けの人形である。大抵の場合は木や石、または鉄で作られていて、動きは単純だが力は非常に強い。


「ぎゃっ! た、助けてくれぇ!!」


 ひぃひぃ言いながら、博士は初老とは思えない俊敏しゅんびんな動きで守護者の攻撃をかわしている。しかし、徐々に動きが鈍くなっている。仕留められるのは時間の問題のようだ。

 

「博士! 大丈夫ですか!?」


 ネロが初老のエルフに声を掛ける。

 

「うぉう! 誰じゃお前たちは!? 人間が勝手にこの遺跡に入るんじゃない!」


 博士は二人に怒鳴りつける。

 

「あらそう。じゃ、帰ろうか、ネロくん」


 デリルはネロに言ってそのままきびすを返す。

 

「でぃやぁあああ!! ここまで来たんなら助けんかい!!」


 博士のすぐそばを守護者の攻撃がかすめていく。

 

「人間風情が勝手に遺跡に入っちゃってごめんなさぁい」


 遠ざかる二人。博士の耳にぼそぼそとミンチがどうのと聞こえてくる。

 

「そこの勇敢な人間さま! 哀れなエルフをお助け下さい!!」


 博士はプライドを投げ捨てて二人に懇願する。

 

「しょうがないわねぇ。助けてあげましょうか」


 デリルはそう言って守護者の方を見た。「ネロくん、博士をお願い!」

 

 ネロはそれを聞いて、博士の方に走っていく。

 

「博士、こっちです!」


 ネロは手を伸ばして博士を引っ張り、安全な位置に避難する。

 

「たーげっとホソク! コウゲキタイショウヘンコウシマス!」


 守護者はターゲットをデリルに合わせ、ゆっくりとデリルに近づく。山のように大きな岩で出来た化け物である。

 

「おい! あの太っちょの女で大丈夫なのか!?」


 博士は命知らずな台詞せりふを吐く。

 

「聞こえたわよ! こいつを倒したらあんたもお仕置きね!」


 デリルはカチンときたが、まずは守護者を何とかしなければならない。


「博士、先生は魔王を討伐したメンバーの一人なんですよ」


 ネロが博士に告げる。

 

「行くわよ! それっ!」


 デリルは守護者に向けて小さな塊を飛ばす。

 

「何が魔王を討伐したメンバーじゃ! 何じゃい、あのちっちゃいのは!」


 博士がデリルの放った魔法を見て馬鹿にしたように言う。

 

 その塊はふわふわと守護者の方に進んでいく。守護者は意に介さずそのままデリルに突っ込んでくる。そして守護者がその塊に触れた瞬間、

 

 ちゅどーーーーんっ!!

 

 激しい爆音と共に岩で出来た守護者の身体がバラバラに崩れ去っていく。

 

「やっぱり岩には爆発ね」


 デリルは瓦礫と化した守護者を見て呟く。


「先生! 大丈夫ですか?」


 ネロがデリルの元へ駆けつける。博士も恐る恐るデリルに近寄る。

 

「さ、先ほどは失礼しました。どうも、助かりました」


 博士が愛想笑いを浮かべてデリルに言うと、博士の前の床がボンッと弾ける。どうやらデリルがかなり軽微な爆発魔法を飛ばしたらしい。「ひいい! は、反省しております。誠にすいませんでした」

 

 博士はその場にひれ伏して許しをう。

 

「分かればよろしい。私は魔女のデリル。その子は弟子のネロくんよ」


 デリルは機嫌を直して博士に自己紹介をする。

 

「ワシは遺跡の発掘研究をしておるフレッドと申す」


 博士は立ち上がって自己紹介をした。「まぁ博士と呼んで下され」

 

「それじゃあ博士、単刀直入に聞くわ。あなた、魔道具って知ってる?」


 デリルは博士にたずねた。

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