第5話 新たな敵
デリルはミアの魔法によって妖精の村の外れに瞬間移動していた。
「へぇ、妖精の村ってお花畑だけじゃないのね」
デリルたちの住んでいる森とは全く違う木が生い茂る森である。おそらく、妖精の世界から見ているからそう感じるだけで、同じ森の中なのだろう。
妖精の村を一歩外れると薄暗い森の中のようである。まだ日は高いはずなのに、ほとんど日の光は差していない。
「今回はネロくんもいないし、どんな魔法を使っても大丈夫ね」
巨大アリジゴクを討伐した際、ネロたちにはショックが強すぎた。
やはり伝説のパーティは長旅の中でメンタルも鍛えられていたようである。あのおっとりとして見えるマリーでも、デリルの魔法でショックを受けるなんて事は一度も無かった。むしろマリーの不死特効魔法なんてホラーでしかないのだから、デリルの魔法を見たくらいでショックを受けるはずもないのだが……。
グルルルル……。
どこからともなく不気味な唸り声が聞こえてきた。
「あら、お出ましのようね」
デリルは森の奥を見つめる。森の中から真っ黒な身体がゆっくりと現われた。
ズシンッ! ズシンッ!
象のような巨体に三つの頭、地獄の門番ケルベロスである。
「うわぁ! 大きいワンちゃんね」
デリルは驚くでもなく巨大な魔物を見つめる。「ネロくん連れてこなくて良かったわ。手加減する余裕はなさそうだもの」
どどどどど……!!
デリルを見つけて一気に間合いを詰めようとするケルベロス。象のような巨体がもの凄いスピードでデリルに迫る。三つの頭が一気にデリルに襲い掛かる。
ガァァァァッ!!
ゴォォォォッ!!
グァァァァッ!!
三つの首の一つが巨大な火の玉を吐き出した。他の二つはデリルに噛み付こうと鋭い牙をむき出しにして襲い掛かる。デリルは冷静にバックステップしたかと思うとそのままふわりと宙に浮き、
「さあ、いくわよ! それっ!」
デリルがケルベロスに両手をかざすと、
パーーーーンッ!!
と、甲高い音がしてケルベロスは砕け散った。「さて、終わった、終わった」
ぱんぱんと手を叩いてデリルは涼しい顔で着地する。デリルにとって地獄の門番ケルベロスなんてお金持ちの飼っている室内犬のようなものである。
(魔物を倒していただいてありがとうございます)
デリルの住んでいる世界では聞こえない妖精の声だが、妖精の世界なのでその声はデリルにも届いた。
「いえいえ、こんなの楽勝よ」
デリルは腰に手を当ててかっかっかと笑ってみせた。
(それではお戻ししますわ。目を瞑って下さいな)
「はいはい、よろしくね」
デリルは目を閉じた。
ドカッ!!
デリルは後頭部を何者かに殴打され、その場に倒れた。
◇
浮遊城ではミアによってネロに魔法が伝授されていた。
「すごいわ、ネロさん! あなたは百年、いや千年に一度の天才よ!」
ミアはネロの才能に
幻惑系、睡眠系、状態異常付与系などの攻撃補助魔法である。もちろんミアが使える魔法だけなので、石化魔法は習得していないが、毒と麻痺は使えるようになっていた。しかも、ミアには出来ない毒と麻痺の解除も出来るようになったのだ。
「これで少しは先生のお役に立てます」
ネロは嬉しそうにそう言った。これまでデリルにおんぶに抱っこだった負い目があるので、少しでも助けになりたかったのである。
「デリルさんからはまだ連絡も無いし、戦闘補助魔法だけじゃなく、他の補助魔法もやってみましょう!」
ミアはスポンジのようにどんどん吸収していくネロに自分の全てを授けるつもりでさらに戦闘中以外に使える補助魔法を伝授するのだった。
◇
「うっ、うう……」
真っ暗な場所でデリルは目を覚ます。「ここ、どこよ?」
「お目覚め? お馬鹿な魔女さん」
闇の中から声だけが鳴り響く。その声はさっきデリルに話しかけてきた声であった。てっきり、ミアだと思って安心していたデリルは
「まんまと騙されちゃったって訳ね」
デリルは状況を把握した。
「それにしても恐ろしい魔力ね。ケルベロスを一撃だなんて」
声だけが響き渡る。
「まぁね、一応レジェンド級ですから」
デリルは身体を動かそうとする。どうやら手足を拘束されているようである。
「言っておくけど、魔法は使えないわよ」
声がそう言った後、足音が聞こえた。足音はデリルから遠ざかっていく。
「待って! ここはどこなの?」
デリルは置き去りにされる危険を察知して声の主に問う。
「さあね、どこでしょう? じゃあね」
ぎいっとドアの
ばたん。
ドアの閉まる音がした。ドアがあるという事は人工的な建造物である。声の反響からしてさほど大きな空間ではない。小屋? デリルは知りえる情報を冷静にかき集めていく。試しに魔法を使おうとしてみるが、やはりあの声が言ったとおり魔法は使えないようである。
「ネロくん……。助けて……」
デリルはネロが助けてくれるのを待つしかなかった。
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