第3話 妖精の首飾り

「良かった、これでなんとか竜殺しの剣を持っていけそうね」


 デリルは嬉しそうにネロに言う。


「そうですね。これで臥竜がりゅうもイチコロですね!」


 ネロが言うと、同じように上機嫌だったヴォルフがまた真顔に戻った。

 

「が、臥竜じゃと? まさか臥竜が目覚めたというのか!?」


 ヴォルフはワナワナと震え始める。

 

「どうしたの? 竜殺しの剣でやっつけようと思ってるんだけど……」


 デリルがヴォルフの深刻そうな顔を見つめる。

 

「む、無理じゃ……。臥竜には勝てん。たとえ竜殺しの剣があってもな」


 ヴォルフは哀しそうにデリルを見つめ、首を横に振る。


「そんな……。どうしてよ?」


 デリルは戸惑うばかりである。ネロも隣でオロオロしている。

 

「ふむ。それでは話してしんぜよう」


 ヴォルフは語りだした。

 

 太古の昔、臥竜がまだ眠ることなく大地を焼き尽くし、非道の限りを尽くしていた頃の話である。このままでは地上の生き物は全て臥竜に滅ぼされてしまう。そう考えたドワーフ、エルフ、ホビット、人間はそれぞれの特性を活用し、一致団結して臥竜討伐を試みた。

 

 ドワーフは当時考えられる最高の武具。エルフは最高の魔道具、ホビットは他の種族が踏み入れられない場所まで踏み込んで情報を収集した。人間はドワーフとエルフの作った道具を持って臥竜に直接挑んだ。

 四種族の結託により、臥竜は火山の奥底に封じ込められた。しかし、臥竜を討伐する事は出来ず、眠らせる事が出来たに過ぎなかった。

 

 それ以降、数百年に一度目覚めては大暴れしていたが、ふもとに人間の村ができて、生贄を差し出すようになってからは大分落ち着いたと言う。

 

「竜殺しの剣は太古の製法で歴史上の名工たちがそれぞれの時代で作った。お主らが持ってきたのは最後の一本じゃ。並みの竜ならイチコロじゃろう。しかし、臥竜に挑むと言うなら、エルフの魔道具も手に入れねば話にならぬ」


 ヴォルフはそう言って一息いた。

 

「そうなの? じゃあ、今からエルフの所に行って魔道具を貰ってくるわ」


 デリルはそう言って立ち上がる。

 

「何を言っておる。そんなに簡単な事ではないぞ」


 ヴォルフはデリルをさとすように言う。「そもそもエルフはわしらドワーフ以上に人間を嫌う種族じゃ」

 

「今回の生贄は私の友だちの息子なの。みすみす臥竜に殺されるのを指をくわえて見ている訳にはいかないわ!」

 

 デリルは王都を出発する前、マリーたちが真剣な面持ちで頭を下げていた姿が頭に焼き付いていた。

 

「デリルさんの気持ちは良く分かった」


 そう言ってヴォルフはすくっと立ち上がる。「ちょっと待っておれ」

 

 ヴォルフはそう言い残して部屋を出て行った。

 

「どこに行ったのかしら?」


 デリルとネロは座ったままヴォルフを待つことにした。ヴォルフが手配したのか、その後すぐに小間使いがお茶を持ってきた。

 

「竜殺しの剣が何とかなったと思ったら、また新たな問題発覚ですね」


 ネロがデリルに言う。「エルフの魔道具かぁ……」

 

「臥竜ってレジェンド級のドラゴンだったのね。甘く見過ぎたわ……」


 デリルは運ばれてきた紅茶にシュガーポットからスプーンで砂糖を入れながら真剣な表情で呟いた。デリルが何杯も砂糖を入れ続けるのでネロはそっちが気になってしょうがなかった。シュガーポットの砂糖はすでに半分以上無くなっている。

 

「甘くし過ぎでは?」


 ネロはデリルに言うが、デリルは不思議そうにネロを見ながらようやく紅茶を掻き混ぜ始めた。




「お待たせしました。これをお持ち下され」


 ヴォルフは二人の前に座り、じゃらりと音を立てて首飾りをテーブルに置いた。

 

「これは?」


 デリルが不思議そうにヴォルフにたずねる。

 

「わしらドワーフとエルフの友好の印、妖精の首飾りじゃ。これを身に着けておればエルフもあなた方を迎え入れてくれるじゃろう」


「これを私に?」


 デリルはヴォルフを見る。ヴォルフは黙ってうなずいた。


「おい、小僧。デリルさんにつけてやれ」


 ヴォルフに言われ、ネロは首飾りを持つ。ずっしりと重い。綺麗な宝石と木目調の木彫りの飾りが交互に飾り付けられている。

 ネロはデリルの後ろに回り、妖精の首飾りをつけてあげた。

 

「先生……。とってもお似合いです」


 ネロの言うとおり、派手過ぎず地味過ぎず、デリルにぴったりであった。

 

「むぅ……。実に美しい」


 ヴォルフはデリルの胸元を食い入るように見つめた。すっぽりローブを着ているので胸元は強調されていないのだが、首飾りをするとどうしても爆乳が目に入る。

 

「ちょ、ちょっと、見すぎですよ!」


 デリルはヴォルフをたしなめた。

 

「ごほん、これは失礼。しかしその首飾りをしていればエルフも心を開いてくれるはずじゃ。あとはエルフの住処すみかを見つけるだけですな」


「え? ヴォルフさんは知らないの?」


 デリルはてっきりヴォルフがエルフの住処を知っていると思っていた。

 

「ドワーフとエルフが会う時はいつもエルフが来ておったからのぅ」


 ヴォルフはポリポリと頭を掻く。

 

「困ったわね、そんなの雲を掴むような話じゃない」


 臥竜を討伐するにはエルフの作った魔道具が必要なのだ。それなのにエルフの住処がどこにあるか分からないのである。

 

「ただ、エルフはわしらと違って自然や動物を愛する種族じゃからな。わしらのように岩山に穴を掘って暮らすような事はあるまい」


 ヴォルフはエルフの特色から想像する。「森の中に入口があるかもしれんな」

 

 ざっくりとした情報だ。森なんでそこら中に点在している。全ての森を調査するような時間は残されていない。デリルは手詰まりを感じて頭を抱えた。

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