第3話 マリーとその娘たち

 そうは言ったもののデリルにもあてがある訳ではなかった。普通の武器屋で販売してた物なら何とかなるだろうが、竜殺しの剣は非売品である。


「ねぇ、マリーは覚えてないの? この剣どこで手に入れたか」


 デリルはマリーにたずねてみる。


「さぁ……。この剣ってどの辺りで使ってたかしら?」

 

 マリーはボロボロの竜殺しの剣を眺めながらうーんとうなっている。何しろ原形を留めていない上に二十年も前の話である。マリーが覚えているはずもなかった。もちろん、それはデリルにしても同じ事である。


「とりあえず見付かった訳ですし、上に上がりませんか?」

 

 ネロは二人を促した。


「そうね、ジメジメして空気も悪いし……」


 マリーが言うと、


「そうそう、こんなところに普通は刀剣なんて置かないわよね」


 デリルは嫌味ったらしくネロに言った。

 

「は、はは……」


 ネロは困ったように愛想笑いを浮かべて誤魔化ごまかした。




「あっ! ネロくんだーっ!」

 

 地下室の階段を上がってきたネロに突然、巨大な女性が抱きついた。


「むぐっ」


 ネロの顔は爆乳に埋め尽くされてしまう。「ぶはっ! メ、メリーさん?」


 ネロは爆乳から顔を上げて女性を見て言った。


「あはっ、覚えててくれたんだ。うれしい」


 メリーはさらにぎゅっとネロを抱きしめる。メリーはマリーの二番目の娘である。三姉妹は大事に育てられ過ぎたのか、みなマリーと同じようにむっちりとした豊満な体型をしていた。

 

「ちょっと! 馴れ馴れしいね!」

 

 デリルがむっとしてメリーからネロを取り返す。

 

「あっ! あなたがデリルさんですか? 魔女なんですよね」


 メリーが初対面のデリルを見て言う。「初めまして、メリーです」

 

「え? どうして私の事を知ってるの?」

 

 デリルは不思議そうにメリーに尋ねる。

 

「以前、ネロくんとお泊りした時に色々聞きました」


 メリーが綺麗なブルーの瞳で屈託くったくの無い笑みを浮かべる。金髪碧眼きんぱつへきがんで透き通るような白い肌。明らかにマリーの血を引いているようだ。「ね? ネロくん」

 

「え、ええ。まぁ……」


 ネロは以前、三姉妹と山奥の教会で会っていた。本当はその日のうちに下山するつもりだったがアクシデントで遅くなり、教会に一泊したのである。教会のシスターであるメリンダがなぜかネロを三姉妹と相部屋させたのだ。

 

「ああ、夏休みにボランティアに行ってた三姉妹の一人ね」


 デリルはあわれむようにメリーを見た。「マリーに言われて、大変だったわね」

 

「そうなんですよぉ。デリルさんから言ってやって下さいよぉ」


 メリーはマリーをうらめしそうに見てデリルを突付つつく。三姉妹はマリーに頭が上がらない。何しろフィッツ亡き後、十五年間女手一おんなでひとつで三姉妹と末っ子のアルを育ててきたのである。感謝してもし足りない、大恩たいおんある母親だ。


 それでもやはり年頃の娘には思うところがあるようで、もう少し自由が欲しいと感じているらしかった。

 

「メリー、何か言いたい事があるの?」


 マリーがにっこりと笑ってメリーに言う。メリーはびくっとなって黙る。どうやらかなり厳しくしつけられているようだ。


「まぁまぁ、ここはひとつ僕に免じて……」


 なぜかネロが間を取り持つ。


「分かったわ、ネロくんに免じて許してあげるぅ」


 マリーが年甲斐としがいも無く娘の前でネロに抱きつく。「メリー、命拾いしたのぉ」

 

 マリーは巻き舌でメリーにすごむ。メリーは思わずデリルの後ろに隠れた。

 

「他の娘はどうしたの?」


 デリルが尋ねると、


「リリー姉ちゃんは彼氏と旅行中なの」


 メリーはうらやましそうに言う。リリーは二十歳という事もあって、毎週末、彼氏と一緒にあちこち出かけているのだ。


「へぇ、アベルくんと?」


 デリルはうっかり口をすべらす。


「え!? なんでアベルを知ってるんですかぁ?」


 メリーが怖い物でも見るような顔でデリルを見る。

 

「あんたたちが教会に行っている時に遊びに来たのよ、デリルとネロくん」


 マリーが助け舟を出す。「その時に偶然会ったの、三人と……」

 

「三人と? ニックとトムとも?」


 ニックはメリーの彼氏で、トムは三女のサリーの彼氏である。偶然と言っているが実際にはマリーが三人を呼び出したのだ。娘たちがいないのをいい事にデリルとネロも混ぜて六人で楽しんだのはつい最近の事である。

 

「そ、そうね。みんな良い子たちだわね」


 デリルは目を逸らしたままメリーに言った。ご相伴しょうばんにあずかったデリルはまともにメリーの眼を見る事が出来なかった。

 

「で、サリーはどうしたの?」


 マリーがメリーに尋ねる。そこにタイミングよくサリーが帰ってきた。

 

「ただいま。あっ、ネロくん!!」


 メリーと同じリアクションでネロに抱きつくサリー。そして阿修羅のような顔で引き剥がすデリル。

 

「いい加減にしなさい! ネロくんは私の弟子なのよ!」


 デリルはマリー、メリー、サリーをけん制する。弟子というのはちょっと弱い気もするが、デリルにとってネロはただの弟子ではない。それは何となくマリー一家も分かっていた。


「ねぇねぇ、ネロくん、今日は何しに来たの?」


 サリーは不思議そうに尋ねる。

 

 それを聞いてようやくデリルとネロは何をしに来たのか思い出した。






────── 【最後までお読みいただき、ありがとうございます!】


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